2.異変
数日後。悠真は、天穀産業の本社ビルを出て街路を歩いていた。
空はすでに茜色から群青に移ろい、街灯がひとつ、またひとつと灯り始めている。
大通りには仕事を終えた人々があふれ、車のヘッドライトが光の帯を描き出していた。
日常的な喧騒。
だが、そのざわめきに混じって、どこか不穏な響きが耳に届いた。
「誰か倒れてるぞ!」
「早く医者を呼べ!」
叫び声とともに、人々の流れが一点に集中していく。
悠真は思わず足を止めた。
心臓が小さく跳ねる。何か嫌な予感が、背筋をひやりと撫でた。
彼は人だかりの方へと歩みを進めた。
ただの事故だよな?と心の中でつぶやく。
しかし、群衆の顔には驚きと恐怖が入り混じっている。
「また……疑似食品か?」
誰かのつぶやきが風に紛れて届いた瞬間、悠真の呼吸が詰まった。
――まさか。
悠真は焦る気持ちを抑えきれず、群衆をかき分けて中央へ進んだ。
肩がぶつかり、非難の声が飛んできても気にする余裕はない。
胸の奥で脈打つ鼓動が早まり、嫌な汗が背中を伝う。
視界が開けた瞬間、悠真の心臓は強く締め付けられた。
路上に、ひとりの男が崩れ落ちていた。
灰色のスーツは乱れ、ネクタイは外れかけ、シャツには濁った液体が染みついている。
その顔を見た瞬間、悠真の足が止まった。
「……陽介?」
高校からの親友であり、酒場で「支払いを頼む」と苦笑していたあの陽介が、冷たい舗道に横たわっていた。




