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鎌と繭 〜送る者と未来の希望と。  作者: チギレタ=モゲル
エリア1 「見捨てられた研究所」
9/16

好きなのに、どうして置いていくの?



死神は天に魂を送る。

それは道が照らされる月明かりの夜、

もしくは…死神本人が共に天に逝く時に。


万物は流転し、新たな来世の世界へと

魂を導くのが死神の勤めであり、

やがてその輪廻へ自らも迎え入れて貰う事が

死神の本懐だ。


こんな終わった世界で、

死を超越してまで苦しんでいる魂がいるなら。


「送ってやらないと…元が人間なら、尚更」


それは死神に課された使命。

本能が、身体を突き動かす。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「エト、次はどこにいる?」

「お掃除のひとが、この辺にいたはず」

「何人いたんだ?」

「…分かんない。この先に…沢山いるみたい」

「ま、見つかった人達だけでも送るさ」


地図を手に入れてから、

それを書き写した物をエトに渡して

エスは積極的に化け物を探して、

大鎌で処理していく。


エト曰く、よく遊んでくれた白い人達。

曰く、ロボットを沢山持っていた掃除の人。

曰く、あんまり話さなかった警備の人達。


エトが教えてくれた変異した人間達は、

総勢約五十名ほどにまで及んだ。

まともな魂ではない為、

浄化にエスの存在を固定している

エネルギーを使う必要があった。


後半になると変異した人々の気配を覚えて、

エトに教えてもらった場所の他の場所にいた人間達も

見つけて送ってやる事が出来た。

だからこそわかる。



もう、この施設内に、人間、

ないし人間だったモノは一人も居ない。


「エト、お腹すいたか?」

「…エスは?」

「ん、俺は良いんだよ」


歩くのも難しくなったエスの身体は、

近くのベッドのある部屋で寝かされていた。

エトが心配そうに見下ろしているが、

エスは清々しい気持ちで一杯だった。


あの身体は、死体に魂が入っているような状態だった。

おかげで切っても切っても死神の力を

使ってばかりで、精神エネルギーを回復する事が

できなかったエスは、

受肉した身体を維持できなくて、

消え始めている所だった。


「…じゃあ、エトも大丈夫」

「ふん、途中で沢山鶏の缶詰あったろ?遠慮しないで食っても良いんだぜ?俺が許す」



「エス、ボロボロになってる…」

「何泣きそうな顔してんだよ、」


エスのパーカーはボロボロになっていた。

それの意味する所は一つ。

彼の天命が近いと言う事。


エスはこの施設内のすべての魂を、

まとめて来世に導いてやるつもりだった。

まぁ、エトの服になってるアイツは

もうちょい長く一緒に居て貰う事になるだろうが。


「みんな、動かなくなって、遠くに、行っちゃった」

「そう、よく覚えてるじゃねぇか。一足先に新しい世界へ行くんだよ。俺が責任持って連れていく。安心しな」

「エス…エスも、行っちゃうの?」


「仕方ねえさ。それが死神の仕事だからな。そうじゃなきゃ…俺はずっと後悔し続ける事になる。例えお前を置いて行く事になったとしても…な…」

「…分かんないよ…」

「分かんないか。ま、俺も正直言って悔しい思いはあるんだぜ?こんな事ならあの研究員に貼り付いてないで、こうなる前のアイツらを送るべきだった。まぁ、自業自得ってやつだ…な…」


エスの身体がほどけていく。

光の帯のように、静かに、上へと立ち昇っていく。


「エス?エス!嫌だ…嫌ぁぁぁ…」


「…ふぅー…ワガママ言うなよクソガキ。大人ってのは、こう言う使命とか、仕事とかを命を削ってせっせとやってかないとならねぇ時があんだよ」

「エス…!嫌だ…嫌…置いてかないで…!」


「良いか?エト、よく聞け」エスはエトの頭を撫でる「これからはお前が物語の主人公だ。自分でちゃんと食事を探して、基本的に痛そうな物を持ってるヤツに近づかないようにして、東を目指せ」


「…ひがし…?」


「あぁ。記憶が確かなら、確かこの施設を抜けて東に進んでいけば植物園があった筈だ。…案内してやれないのは残念だが、そこに併設されてる食糧プラントが生きてるなら、食事の心配は要らなくなる」


「…ひがし、に行けばいいの」


「あぁ。……ごめんなエト。正直お前を一人で残していくのはスッゲェ心配だ…。けどこの場には俺しか死神が居なかったから…やんなきゃいけない事だったんだ。悔しいが、ここまでだってやつだな」


「どうして…置いていくの…?エトの事…きらい?」


「んなわけあるか。好きだよ、エト…この身体になって久しぶりに自信持ってそう言える。正直で、純粋で、無垢で、それでいてちょっとアホな所もな。大好きだ」

「エトも…エトもエス、大好き」

「おおそうか。じゃ、良い子にして生き残れよな?俺からの…最後のお願い、だ」



その言葉を最期に、

エスの身体は光の帯となって消えた。



ーーーーーーーーーーーーーーー




「ふぃ〜…。」


エスは集めてきた魂を来世に送り届けて、

一息ついた。

ここは死した死神、役目を終えた死神が

来世へと向かうための準備をする為の空間。

魂の間、とも言う。


「さて。俺はあと何年で次の世界へ行けるかな…と」


今はまだ会えては居ないが、

まだ次の世界へ行ってない旧友が

もしかしたらいるかもしれないな。


そんな事を思いながら、

大きな伸びをする。

…なんか身体が凝ってるなあ。


魂の状態では普通肉体的な痛みなんて出ない筈、

何だが…

あれ、なんだか身体が更に重く……


いや、これは

「まさかっ………!!」


戻されてる…?

あの、世界へ…!?

待てよ、俺の魂の状態じゃ、

まだ現実に戻れたとしても肉体どころか

精神体すら維持できないぞ!?



「よう、久しいな、エシュタント」

「お、おぉ!エンケロス!」


このタイミングで旧友とかち合う。

お互い光の球のような姿でしばらく見つめ合うが、

俺の変な状態に、彼も気付いたようだ。


「え、お前その先って、もう終わってる世界だよな?」

「そうなんだよ!今の俺には下界に降りるだけの精神エネルギーが無いんだ!多分何かの間違いだと思う!今すぐ神様に事情を説明したいんだが、気を抜くと吹っ飛びそうだ!」


「マジかよ…」

「何とかしてくれって!来世で付き纏うぞ!」


「わ、分かった!ちょい待ち!」

エンケロスは耳に手を当てて神様と連絡を取る。

神様は同時に10人と会話出来るとはいえ、

そんなすぐに連絡がつくとは思えない…が…


「来た!エシュタント、今そっちに繋ぐ!」


ラッキー、どうやら繋がったらしい。

焦る思いで神様とのコンタクトを受け取る。


『死神エシュタントですか?』

耳元に聞こえる神様の声。

「はい、俺です!【レーザーペインター】のエシュタントです!何か変な事になってて!助けて欲しいです!」


『…あぁ、なるほど。状況は分かりました』

「分かりましたか!俺の今の魂じゃ現実に引き戻されても鎌が使える程度の力すら有りません!今すぐ何とかして下さい!!」


『あほんだらぁぁぁぁ!!!!!』


「!!??」


『あなた……。よりにもよって【宣約】相手の魂を狩る前に力尽きたんですね!?』

「あぁいや、でもあの状況では仕方なかったと言うか!」

『確かにあの世界はもう滅ぶ寸前で、多くの死神達はその任を終えています。で、す、が!!』


「はい」


『貴方が最後の一人だと言う訳ではないんですよ!それを貴方、カッコつけて宣約相手の目の前で力尽きるって…もう…何と言って良いか…』


「ぶっはははははは!!!!!」

「エンケロスてめぇ!笑うんじゃねぇ!!」


精神体である魂の通話に

プライバシーなんてものはない。


『エシュタント。死神の理念、まさか忘れたとは言わせませんよ?』

「分かってますよ。

ひとつ、天命を知る。

ひとつ、道を知る。

ひとつ、苦痛を知る。

の3箇条。それと俺に関しては確か

【寄り添い、見守り、決して逃すな】

ってお言葉を最初に承りましたね…」


『分かっていて力尽きたんですね?』

「いやぁ見えませんけどすごい笑顔ですね」

『あほんだらぁぁぁぁ!!』

「ひえ」


天命尽きる時に送ってやろうと決めた、

つまり【宣言して約束をした】相手。

死神はその存在の魂エネルギーを少し使って

顕現する力の一端として利用させて貰って居るのだが、

俺は確かにエトと一緒に居た。

そしてエトを護るために鎌を振り、

彼女にとっての存在感を強めすぎた余り、

知らぬ間に自身の存在を固定化するのに

彼女の魂の一部を利用してしまっていた…らしい?


死神に憑かれた者が早めに天命を迎えるのも

それが原因なのだが…


それに本人には伝えてないが…

『コイツも連れて行ってやるか』って…

言ったわ、しまった!言ってたわ!!

これ宣約とも取れる発言だ!

神様は見逃してくれなかった、ジーザス!!


『それにですね。いくら切迫した状況だからと言っても、死神の衣の技術をみだりに地上の生物に見せましたね?』


「え、あ、やっぱりダメでした?」

『アホんだらァァァァ!!』

「ひえ!ごめんなさい」

『し、か、も!回収した魂の一人を織り込むとか…!何してるんですか一体…本人はすごく喜んでるみたいですが…エシュタント…貴方も老いたようですね』

「確かに…短絡的な思考が増えたような…気もしますね」



『…その世界ではおよそ9000年もの間、貴方は長期に渡って魂の回収と導きを担当して頂きましたね』

「は、はい。」


『今回のこの初歩的なミスの数々も、貴方の魂が磨耗して、正常な判断がつかなくなっての物と仮定します』

「へい」

『貴方が浄化した、あの手遅れな魂達…本来ならあぁ言った魂は自然に任せなければ死神の方が先にダメになり、仕事になりません。その判断はどうお考えですか?』


「神様、俺のポリシーは知ってるでしょう。【レーザーペインター】は素早く、そして色をつけた相手は逃がさない。魂がちゃんとある人間が、あんなにも死の苦しみを味わい続けているのなら…俺は何度だって同じ事をします」


『……そうですか。よぉく分かりました。では死神エシュタント。…貴方もご存知の通り、貴方が送った大勢の魂達がその力の一部を私に預けていた物があります』



…おおっと。待ってくれ不穏な事言い始めたぞ?



「…えっと、確かそれが無いと俺来世に行けないんじゃ」


『その力を【全て】貴方の受肉に使いますので、その宣約相手の人生をちゃんと見守って、送って来て下さい』

「……ェェ?」

『それまでは力尽きる事は許しません!なおその場合、審問会に掛けてから地獄へ向かって頂く事になりますので、お忘れなきよう』



「あっはww終わったなお前…ww」

「神様ぁ!?お、おおお俺が何したって言うんですk」

エンケロスが爆笑して、

俺の背にタックルをかましやがった。


俺の体は重さを増し、

どんどん下へと落ちていく……。

「エンケロスてめぇ〜〜〜〜………!!」

「待っててやるからちゃっちゃと狩って来いよ、親友!」



『託されたのでしょう?

とても良い子ではないですか。

ちゃんと面倒を見てあげて、

その行く末を見守ってあげなさい。

貴方は人らしく、使命の事を深く考える事なく。

あの子と共に、生きるのです。


それが、貴方が送った全ての人からの願いです。

どうか安らかに。貴方に導きがありますように』


あの研究所の無機質な天井が見える。

自分の意思とは関係なく、

再び肉体を構築していく中で、

そう神様の声が響いていた。


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