エトはエト。エスは、ぱぱに似ている。
女の子が再び目を開けると、
目の前に炎が映っていた。
暖かいと言う至極当たり前の感触を
懐かしく思いながら、
目だけを動かして辺りを見回す。
「…おっ、大丈夫そうだな?慣れない事はまずやってみるもんだな。さすが俺」
そんな声がするので身体を起こして
自分の背後を見ようとする。
「ふぎゅ!?」
瞬間、全身を叩きつけたような痛みが走り
不恰好に地面に落ちた。
「栄養剤打ってみただけだが、もう動けんのか」
声の主は近くの瓦礫に腰掛けた、
黒い髪、黒い瞳の少年だった。
どことなく女の子にとっての【父親】に似た顔つきを
しており、思わず女の子は呼びかける。
「ぱぱ!」
「パパじゃねぇよ」
心底嫌そうな顔をされてしまった。
ふい、と女の子は視線を戻すと、
炎は四角い油の缶を加工して作った物を
焚き火として使っており、
上の網に蓋の開いた、彼女にとって馴染みのある
缶詰がいくつか置いてあり、
美味しそうな匂いを放っていた。
「鳥のやつ!」
「養殖鶏の塩詰めな。不味いんだよなこれ」
「すき!」
「は?」
「ふぎゅうっ!!?」
手を伸ばそうとして女の子は再び痛みに襲われる。
「…」
何ともいえない沈黙が流れ、
女の子の浅い呼吸音と
パチパチと植物が燃える音だけが聞こえる。
「もう少し寝てろ」少年はぶっきらぼうに言う「動けるようになったら食え」
「…痛い」
「だろうな。何もしなかったら死んでたんだから」
上を見上げると、空が白み始めて、
朝が来ようとしていた。
「おはよーございます?」
「遅えよ、起きてから言え」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おら、何か焦げたけど食え」
差し出された鶏肉の缶詰は確かに、
外側の印刷のように中身も少し黒かった。
「おいしーです!」
「食ってから言えよ…」
日が上り、朝日が差し込む中庭で、
奇妙な食事会が始まった。
やはり焦げたのは苦かったのか、
口に入れると苦そうな顔になる女の子。
黒い髪の少年は
少しボロボロになった白くて
腕に黒いラインの入ったパーカーのフードを
被り、ジーンズを履いていた。
着ているシャツは大きな骸骨のマークが書いてあり
女の子じゃなかったら趣味が悪いなぁ、
と言う印象が見ただけで分かる。
石化串焼きの外炭を落としながら
少年は女の子に問いかける。
「お前、なんて名前だ?」
女の子は鶏肉を素手で掴みながらニコニコと笑う。
「yet!」
「は?」
「わたしの なまえは yet です」
「めんどくせーな、じゃあエトって呼ぶわ」
少年は串を持ったままお手上げのポーズをする。
「え…と?」
「嫌か?でも面倒くせぇからエトな。よろしくなエト」
「エト!」
「なんか喜んでるよ…」
「あなたは だれ ですか?」
「何て言うかな…俺別に受肉するたびに違う見た目だし、いちいち名前とか決めたりしねぇからな…」
少年は一考した後、小さく頷いた。
「…そうだな。じゃあエスって呼べよ、許可してやる」
「エス!」
「おう、でお前は?」
「エト!」
「よーし、話が早くて良いガキだ」
エトと呼ばれる事になった女の子は、
結局調理された物の殆どを平らげ、
エスはそれを見てため息をつきながら
火の始末をする。
「中がこれなら…外はどうなってるやら」
エスは小さく呟くと、
こちらを見上げるエトの頭をつつく。
エトは輝かんばかりの笑顔を咲かせて、
「パパ!」
「パパじゃねーよ」
「エス?」
「そーだよ間違えんな」
そんなやり取りをしながらエスは中庭を後にする。
…肩には巨大な刃を持った黒光りする
【大鎌】を背負って。




