エスのばか!
「…っ、うぇぇ…」
すっごくあたまがいたい。
なにこれ、誰がたたいてるの。
腕を使って起きあがろうとして失敗し、
「ふぎゅ!」
と悲鳴をあげて繭に頭を突っ込む。
(また…寝てる間にだしちゃった…)
これはエトが出した物だから、
エトが片付けないといけないってエスが言ってた。
エスはまだ起きてないのだろうか。
辺りを見回して、エトは絶望する。
(わあ、流石に…これ、おこられるよね)
見渡す限りの繭の量に…背筋が少し寒くなり、
「…クシュン!!」
(ちょっと寒い…かも…)
エトはここで、自分が何も身につけて居ない事、
それと少し離れた場所で下半身に小さな下着のみを
身につけたエスが…
エトよりも更に真っ青な顔で震えているのに気づいた。
「エス…おはようございます。エスもさむいの?」
「…や…」
「や?」
「や………
やっちまったぁぁぁぁァァァァッッッ!!!!!!」
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やってしまった。
やはりダメだ。
もうエトの前で飲むのはやめよ…
いやもうどっちみち手遅れか、
飲み過ぎだけ気をつけよう。
じゃなくて!!!
ショッピングモールのエントランスじゅうに
雪が積もったかと言う勢いで
全てが繭に覆われていた。
2階部分にまで侵出していて、
これをエト一人に任せるには気が引けてしまう量だ。
…と言うか。
明らかに一晩で生成される予想量を遥かに超えている。
こんな量見た事がない。
何故こうなったのか、理由は二つ考えられる。
ひとつは飲酒による影響。
これが原因なら対処は簡単だ。
もう二度とエトに酒を飲ませなければいい。
もう一つだった場合最悪だ。
…いやもう状況的に十中八九そうなんだろうと思うが。
エトに、
その、
男として手を出してしまった事による影響。
「ノォォォォォ………!!」
「エス、あたま痛いの?エトも痛い」
俺の9000年培われていた鋼の理性はどこ行った。
恋人がいた事もあったけど、
そいつも上に送ってやっただろう?
9000と何百歳だぞ俺。
こんな子供相手に欲情するわけないだろう?
エトは服を着るのが下手だから
何度も素面で手伝ってきただろう…?
一番デカかった時期が本当にやばかったが
今は若干ちんちくりんになってるから
割と平静に付き合う事が出来ていたはずだ…!
でかいけど!出るとこ出てるんだけど!
「ねぇ、エス…」
「待ってくれ。今名前を呼ぶのは待ってくれ」
「…はい。待ちます」
この誤ちでもし…出来てしまっていた場合は…
うん。もう大人しく腹を括ろう。俺は大人だからな。
なぁに二人旅にもう一人増えたところで
エトと世界を巡ってみる旅に支障はあんまりない。
そうだ、どうせ支障は無いんだ、
ならもう少し楽しんだって…
「いいわけねぇだろう!!!」
「ひぅ…!怒らないで…ごめんなさい、ちゃんと一人で片付けます、だから…」
あぁいかんな。精神生命体の死神とて、
普通に子供を作る事はあるし、
そういう欲求だって有るのだ。生きてるんだから。
特に俺のような長い時を地上で受肉して過ごした
ロートルは特にそう言った欲求に振り回されやすい。
何故なのかは諸説ある。
元々死神は人間だった、と言う説とかな。
…そうだ。俺自身はどうなんだ?
マジで手を出したなら身体が反応するはずだ。
「…エト、ちょい来い」
「は、はい…」
何故か怯えた顔でエトが歩いてくる。
服は着ていない。
起きてそのまま待たせてるわけだからそりゃそうだ。
「よし、そこにいろ」
「うん………あ」
俺はエトを抱きしめた。
変わらずやはり何か懐かしい香りがして、
柔らかくて暖かい。
……………ん?
それだけだな…。
エトが背中に手を回してくるので、
とりあえずお姫様抱っこする。
「わ…」
「服着るぞ、まず服だ」
後は…エトが酒を飲んでも記憶が残ってるタイプなら
訊いてみて、考えよう。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おなか、すいてきた」
「エト君。ご飯の前に訊かないといけない事があります」
「はい…」
「昨晩、夕暮れごろまで飲まなきゃいいのにお互いお酒を飲んで、ちょい楽しい気分になって暴れ合った事は覚えていますでしょうか」
「…うん」
エトは上目遣いになりながら言う。
「…で、お前が寝るまで何があったか覚えてるか?」
「エトが寝るまで?」
「そう。こんな繭だらけにする前の出来事。覚えてるか?」
「ええと、二人でコロコロして、わちゃわちゃして…暑くなったからあついよって言ったら」
「言ったら?」
「エスがエトの服を全部とっちゃって」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
「ひっ…!?」
「…。あぁごめん。気にすんな。続けろ」
「そ、そしたら…えぇと、何だっけ」
「エト、何とか思い出せ。頼む、エト…これは俺が犯罪者になるかならないかの瀬戸際の、大切な問題なんだ…」
エトは痛む頭を片手で押さえながら
脂汗をダラダラ流している様子のおかしいエスを見る。
…こんなにおかしくなるんだ。
もう絶対、あの苦いのは飲んじゃダメだ。
あとでぜんぶ捨てないと。
「月が出てからね…二人で抱っこし合って」
「ファァァァァ!?…続けてくれ」
「それでね。やっぱり暑いよって言ったら」
「………言ったら?」
「『俺の事がそんなに嫌いなんだな、お前みたいなちんちくりんによくじょーしてたまるか』って言って」
「うっわ…誰だよそのジジイ、半殺しにしてやりたい」
「いったのはエスだよ?」
「…続けて」
エスはふと、旧友にそういえば、
エスは酔ったらすげえ面倒くなるから
もう一緒には飲めないって言われたのを思い出す。
「でね、そっちの方に行ってそのまま寝ちゃった」
「寝た?…その後起きなかった?」
「うん」
ぱあっとエスは気持ち悪いぐらい清々しい顔になる。
「だよなぁ!?やっぱり俺エスとそう言う事になるのって無いわー!お前のパパに申し訳たたねぇもん!」
「…もういい?」
「あぁ!ちなみに俺が寝てる間に変なことしなかったか?」
「…エトだけ服取られて、なんか嫌だったから」
…あれ、ぬか喜び?
「まさか…エト?」
「エスの服もぜんぶとった」
「エトさぁぁぁぁん!?」
…ふう…ふう…
「………エトさんや。…服とった後は何もしなかったんだよね?エトさん?」
「ちょっと抱っこしに行ったけど、眠くて寝た」
「……ほんとに?」
「うん」
「…よし、食事にしよう」
この後、持ってきた酒の瓶と樽を、
繭を片付けて紡績作業をしていた最中、
ちょっと目を離した間にエトが
ほとんど全て粉砕してしまうと言う暴挙に出て、
俺の何100年ぶりかの大人の時間は
見事に終わりを迎えたのだった。
ちなみに何とか料理用の酒とワインの一本だけは
これは調味料だからと説得して死守した。
…まぁ、余程の事が無ければ飲む事はないだろう。
死神だって学ぶのだ。
おかえり理性。さよなら酒精。
Q「死神って精神生命体だから酔えないんじゃ?」
A「彼らは嗜好品を人間以上に好む傾向があります。臓器は有りませんが、自らの判断力をわざと鈍くさせたり、快楽感情を鋭くさせる事で擬似的に酔っているわけです」
Q「じゃあ無くても擬似的に酔っぱらうこと出来る?」
A「彼らにとって『その物品によってそうなる』事が大事なのであって、理論上は可能ですが満足する事は出来ないらしいです」




