ぱぱは、おこっている
シリアスな話は如何でしょうか。
あたつよを読んで疲れた人は
是非…お楽しみ下さい。
ピッ…ピッ…ピッ…
無機質で、一定間隔で静寂を叩くその音は、
苔むした廃墟に響き渡る。
光の届かないその一室には、
机、椅子に腰掛けた白骨、
隅に置かれた中身のない金属コンテナ、
そして…薄青く光る円筒形の構造物がある。
【予備バッテリー残量1%】
【充電設備をメンテナンスして下さい】
円筒の中には、小さな人の影。
【冷凍機能に障害発生】
【三分後に強制覚醒プロセスを実行】
機械から異音が響き渡る。
それと同時、円筒形の構造物に繋がれた
コンテナの一つから煙が出る。
【生命維持機能にエラー発生】
【致命的なエラー発生】
【致命的なエラー発生】
【致命的な…】
煙はだんだんと勢いを増して、
とうとう小さな火が引き起こされる。
刹那
バァン!と言う音と共に円筒形の構造物の半分が
吹き飛んだ。
同時に薄青い光は消え、機械的な音はしなくなる。
静寂。
「…けほっ」
小さなえづきが聞こえ、
大きな呼吸音。
この一室にはもう既にその呼吸の音しか
聞こえない。
「…?」
それは、小さな女の子だった。
肩まで伸びた色素の無い白い髪。
珍しい黄緑色をした瞳は暗闇の中で何故か光っていて、
青いワンピースには汚れひとつない。
「…あ…あー、ぁぁー」
円筒の中で横たわる女の子は身じろぎする。
そして…
「ふぎゅ!」
べちゃっと音を立てて女の子は地面に滑り落ちた。
背中をさすりながら恨みがましい視線を
円筒形の構造物に向ける女の子。
息を一つ、よろよろと立ち上がる。
小さな炎しか灯りの無い、闇の中でも、
女の子の光る黄緑色をした瞳は物を映していた。
女の子はまず机に向かう。
座ったまま白骨化した骸に、一言
「…ぱぱ?」
と声をかけた。
反応は当然ない。
椅子に手をかけると、
その衝撃で骸は地面に転倒し、
大きな音をたててバラバラに砕け散る。
「ひっ…!!」
女の子は小さく悲鳴をあげると、
弾かれたようにその一室を後にした。
ぺたぺたと裸足で駆ける、その足音は、
だんだんと聴こえなくなっていく。
壊れた円筒形の機械から漏れる火の灯りだけが、
仰向けに倒れた研究服の骸を照らす。
その火も数分で小さくなり、
数世紀の時を経て、
この部屋に完全なる静寂が訪れた。
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yet。
それが女の子の名前だった。
記憶の中にあるこの場所は光に満ちていて、
時折来るパパとママ、そしてその友達達が
色々な遊びを教えてくれた。
それが一転して、この場所は闇に満ちている。
駆けても駆けても、何の灯りも無いその場所を
女の子は必死に走る。
恐怖。
それは女の子が初めて抱いた感情だった。
どれほどの間そうしていたのか。
気づけば女の子は月明かりが差し込む中庭に
大の字になって横たわっていた。
瞳は濁り、だんだんと焦点が合わなくなっていく。
空腹による衰弱。
この放棄され、生命の気配が無い施設内には、
地面に生えた苔以外に食べられるものは残っていない。
そもそも女の子にとって食べる物といえば、
温められたスパム缶や代用小麦パンのような、
そんな食事が普通であり、
その他の物は食べる物として認識出来なかった。
お腹から漏れるぐぅ、
と言う音の正体を彼女は知らない。
生理的な欲求が欠如しているのか、
近くの苔や何かの植物を食すると言う本能が
彼女には何故か存在しなかった。
だんだんと寒くなっていく身体を震わせながら、
女の子は最後に、か細く、小さく鳴いた。
「…鳥のやつ、が、いい…」




