異世界で薬師をしていたら子供を拾ったのだけど数年後弟子に迫られていた〜そんなふうに育てたつもりはなかった〜
一人で俯いて体育座りをしていたから声を掛けた。
誰でも良かった。
けれど、出来るだけ愛想のいい子が良かったのが理想だが簡単に純粋な子など見つかるわけがない。
一人で生きるには、世界が違いすぎた。
どうしても同居人が良かった。
飛び切り面倒見がよくて懐いてくれる子。
何故声をかけたのかと問われた時、その答えを正直に言うと怒り狂うかもしれないと思うので言わないことに決めていた。
でも、彼を選んで良かったと今では確実に言える。
「ユイス、あれを、ヤナッペイの草を持ってきて」
目を横に流す。
薬師として営んでいる店を、手伝わせている男の子に頼む。
彼は楽しげにしている癖に、渋々といった風を装おい草をこちらへ届ける。
彼が夜遅くまで、本にかじりついているのを知っているんだからね。
「ん」
素っ気ない態度は今では微笑ましい。
にやけそうになる口許を閉じて、にやけぬように我慢しつつ受け取る。
ユイスはまた薬草をすりおろす作業に戻ると、ごりごりと作業音が耳にこだました。
客の実入りは多く、途切れることはない。
薬草は珍しくないが、それを煎じて飲む為に草を乾燥させたりする薬師は殆どが王宮からひっぱ抜かれたりする。
下町には先ず一人居たら、その場所に住んでいる人はこぞってやってくる。
医者と違うのは医者は高くて、庶民には手が出せない。
この店は少し高めに設定してある値段だが、手が出せない程ではない。
だから、こぞって人が押し寄せてくる。
開業して五年、忙しさに忙殺されそうになったからユイスを雇った。
一人増えても相変わらずな忙しさに、もう一人雇おうかと悩んでいるのが最近。
「おれは一人でもやれる、こなせる」
背伸びする発言。
「んー、でも、なぁ」
と会話をしたのもつい昨日だ。
いくら男の子でも、まだ働き盛りという程筋肉も体力もない。
無理をさせると身体を壊すかもしれないし。
こういう薬師の仕事をしていると、たまに勘違いをする輩が居る。
安く売っているのなら、もっと高く売れるように転売する人達が。
転売するのは構わないが、そんな事をうちの商品でされては店が危機に見舞われる。
それに、転売しそうな人達には売らないと言ってあるのに客を差別するのか、なーんて言う人達も居る。
それならば店を隣町に移転させるぞ、とこちらも反撃を喰らわす。
口をむぐっとつぐむ相手にスカッとなる。
嫌なら人が嫌がる行為は止めるこった。
遠回しに言うとズコズコ去っていく。
そんな商魂逞しい事をしていると名前も売れてきて、遠い所から来る人もいる。
「あ、なんか掴めた」
「徹夜したな。また」
サラッと彼から怒りの声が聞こえてきた。
早数年。
そろそろ隣町へ行こうかな。
ユイスがまだ後ろで色々言っているが、逞しい顔を見るとニヤニヤしてしまう。
カッコいい人がいるとにやついてしまう。
「カッコいい顔が台無しだよ。笑顔笑顔」
にこにことなる。
「誰が怒らせているとっ」
キィキィと怒るユイスは見ていて、からかうのが楽しい。
そんなに怒らんでも。
ほうほうと宥めるようにへらへらとする。
「笑顔がスキだから笑顔~」
「っ、ふん。お前はぼんやりしてるから客から舐められんだぞ」
青年とはまだ言えない年齢なので、少し背伸びしている感がある。
そこもご愛嬌だろう。
まだぐちぐちと言うので、ユイスのぷにぷにな頬っぺたをぐにぐにと引っ張って堪能する。
「止めりょバカぁ」
されるがままになっていても口が達者である。
可愛い可愛いと猫可愛がりしているのに、なかなかデレてくれない。
「町のお姉さん達に可愛がられている癖に可愛いなぁ」
「っ、ふんっ」
掛け声と共に手から抜け出してこちらを睨み付ける子供。
「あーあ。もっちりしてたのに」
「うっせー。仕事しろ」
やだ、徹夜したもん。
「徹夜したのにー?」
「じゃあ寝ろ!」
「寝る寝る。お休み」
「止めっ、俺を引っ張るなぁ!」
抱き枕に君を拝命する。
スチャッとユイスを抱き上げる。
まだまだ彼は軽いし幼いので持ち運びは楽だ。
子供扱いされるのが嫌なのか、暴れる。
はっはっはー、暴れても無駄無駄。
こちらの方が背も高いし年上だから腕力でも勝てる。
でもきっと数年後には、背なんか越えられちゃったりするのかもしれないな。
この生意気さが抜けない子がどうなるのか楽しみでもあり、今から何とも気が早いが、寂しさも感じる。
「離せっ。たくっ。お前の明日の仕込みしなきゃご飯食えねぇんだぞ」
「あ、困る。腹ペコ」
「今は食べたから満腹だろ」
言われてみればそうだった。
ユイスはマショリィの管理をきっちりしてくれるので、毎年毎年本当にいい拾い物をしたと実感する。
勿論愛情は本物だよ。
ユイスを撫で撫でしながら「ならやるの見てる」と言うと彼は眠いし、多分お前は寝ると言い切るので、確かに寝てしまうだろうなと苦笑を浮かべる。
愛想のいい子よりも、今はユイスがスキで(愛でる方向)情が移ってしまっていた。
ダメだダメだと思ってしまう。
何故なら、ゆくゆくは旅立ってもらい一人で暮らしてもらい、一人でも生きていけるように考えているのだ。
ユイスには言っていないが、賢いからいづれ察するかもしれないけれど、それはそれで任せる。
「うーん、いい匂い。食欲爆発する」
「だから、さっき食ったろうが」
「味見だもん」
「だもんって止めろ」
むくれればユイスがツッコミ要員を埋めてくれる。
ユイスはからかったりして鋭く望んだ如くサラサラと言ってくれるから嬉しい。
ボケッとしても答えてくれるその人。
「朝が楽しみだ。ふふっ」
ユイスを降ろしてキッチンまで付いていく。
どうしてもその光景を眺めたいから、ジーッと待っている事にした。
見ていても彼は特にリアクションすることなく、淡々と手際よく料理の下準備をしている。
見ていると分かる、彼の器用さは舌を巻く。
グツグツと煮だった音、かき混ぜる水音。
「明日はいつも通り店を出すのか」
うちは露店を出している。
そうしないといつまでも客が来ておちおち休憩も出来ないのだ。
薬師となって少し経ったが様々な事に対応するにはちゃんと時間を決めねば、キリがない。
「うん。でも、明日は早めに閉めて薬草を取りに行こうかと思ってる。まだ店番は任せられないの。悪いわね」
「いや、まだおれは幼いし、店主でもないから舐められるし、客も不安だろうから、気にしてねぇ」
やっぱり彼はとっても賢い。
短い言葉だったのに沢山の含められている内を理解している。
ここで何故任せてくれないのかと駄々をこねたり、むくれたりしてはやりにくい。
物分かりがよくて大変好ましい。
ユイスにおやすみと言い、邪魔になるだろうから退散する事にした。
翌朝、町の鐘の音が聞こえた。
ゴーンゴーンと耳にこだまし、清い空気に脳が覚醒する。
目がしっかり覚めているわけではないが、待っていても眠気がして枕に顔を埋めてしまいそう。
ユイスが二度寝したマショリィを起こしにきてしまうから、今回はしっかりせねば。
自堕落的な生活とこういう時、無性に望みたくなる。
鳥の声も聞こえて漸く起き上がれる気持ちが整い、ふらふらとキッチンへ向かう。
座るところへ向かうとふわわんと香ばしい香りが漂ってきてユイスがもう起きているのかと感心。
くんくんと嗅ぎながら待っているとユイスが出来たと声をかけるのでキッチンへ足早に向かい、浅いトレーを渡されて次々に乗せられていくお皿。
その中にはユイスの手作りが入っている。
前に運ぼうとしたユイスがつんのめるのを見てからは自分で運ぶことにしている。
足腰を鍛えているが背丈は子供な彼にとってトレーとは危ないのだ。
まだ、やらせてはいけない。
転びそうになった時にはひやひやしたから。
テーブルへ付いて、二つあるトレーを一瞥し、ユイスが椅子に座るのを合図に食べようかと声をかけた。
本当はいつでも自由に食べてもいいのだが、師弟の関係を強く押している彼からしたら、納得が出来ないのかもしれない。
それからは、ちゃんと声をかけている。
マショリィはズボラな方だから、勝手にやってくれたりする方が楽だ。
でも、ユイスは真面目だから仕方ない。
一肌脱ぐことにしている。
手間をかければかける程、ユイスが懸命になっていくのを分かっていて、やるのだから。
彼は可愛い。
食べてしまいたいくらい猫可愛がりしたいが、ユイス本人はこんな感じなので甘んじていーこいーことさせてくれない。
「今日も美味しいね。流石はわたしの一番弟子ね」
「料理スキルが他のスキルよりも上がるのが早いのは複雑だけどな」
「まぁまぁ。美味しいは正義なのよ」
本当は嬉しいくせに照れ隠しで文句を言う。
そこも結構ユイスの可愛い所である。
言葉にしたりすると怒るから今は言わない。
ポロッと言うかもしれないけど。
「んん。よし」
食べ終わると大きく背筋を伸ばして伸びをする。
これをするとスッキリする。
ユイスはスキル云々と関係のない鍛練をしている。
腕立て伏せ、だっけ。
それをしていて、先程から運動を繰り返している。
食べて直ぐは運動してはいけないとか聞いた事があるから止めよう。
「脂肪はまだ付く歳でもないでしょ。あと三十分我慢しなさいな」
説明が出来ないから適当に誤魔化す。
ユイスは多分こいつ理由がよく分かってないなと思っていると思う。
素直に言葉を従ってくれたようで、腕立て伏せを止めた。
安堵していると薬草をごりごりを潰すことに移行したらしく、作業場へ消える。
仕事熱心だね。
マショリィは二度寝したいと思っているのに。
今日は早く上がると言っても、別に早くから開店するわけではない。
いつでも好きなように開いたり閉めたりすることが出来るから店を出しているのだ。
それに、露店だから雨が降ればそこで切り上げるのも自由。
いやはや、露店万歳である。
薬にする為に薬草を潰すにしても開店まで長くはないので、直ぐにここへ戻ってくるだろう。
三十分程して、彼が部屋へ入ってくるのを見ると、だらけていた身体を起き上がらせて外へ行く。
家から出発して露店を出しているいつもの位置に屋根を出す。
一番目のお客様は小さな女の子で、ユイスを見ると目をぱちくりさせた。
マショリィは怠けてユイスだけに店先へ立たせている。
頻繁に客が来る事も無いのでずっと立つのも疲れる。
ユイスが捌けない程来たなら別だが。
「ねぇ、あなたがここの店主?」
彼女の目線からはマショリィが見えていないようだ。
尋ねた返答をユイスはぶっきらぼうにする。
「違う」
「ふーん?頭痛に効く薬が欲しいの」
「ならこれだな。金額は──ーだ」
「え?そんなにするの?高い……」
人件費とか色々考えたら、それくらい値段を設定した。
他の店より効き目はいいのだから当然、他より少し高め。
しょぼんとなる女の子にユイスは値下げするなんてことはなく。
再度どうするのだ、買うのか、など言う。
もう少し安くならないのかと言う女の子にユイスは表情を変えることなくならない、と述べる。
なるのなら初めから価格は高くない。
後ろから聞きながら内心呆れる。
「わたしたち、同じ歳でしょ?」
「買うのか?どっちなんだ」
「うーん。これしか今は無いの」
と、金額を指で表す女の子に彼は鼻で笑う。
「買わないのなら決めろ。安くならないからな」
「どうして?」
「理由なんてない。あるのなら初めから言っているし、強いて言うなら商売だからだ」
教えた事を反響させている。
うんうんと頷くマショリィ。
「でも、でもぉ」
ぐずぐずと泣き出した女の子に、ユイスは激しく面倒そうに見ている。
泣くことは営業妨害にひとしい。
泣き落とし作戦でやろうとしているのか。
「さっさと向こうへ行け。買わないのならお前は客じゃないんだろ。買う気があるのなら初めから安くなる、とは聞いてこない」
正論をこれでもかとかます。
女の子は泣いたままどこかへ行く。
やれやれと今にも言いそうな程、溜め息を吐くユイスにお疲れ様と言う。
労りをかけるとこちらを向き全くだと愚痴る。
「泣けばどうにかなると思ってるやつは嫌いだ」
「あの女の子は、大人の真似をしたんだと思うよ」
あの値切り方は年相応とは思えなかった。
こういう露店をしていると色んな客が来る。
小さい女の子も珍しい。
ちょっと特別感を演出しているので、高めなのだ。
小さい子に手出しできるものではない。
それなのにこの店に来たということは、だれか大人に言われた可能性もある。
そうと予測すれば、対策を立てておかなければ。
ユイスに、朝言っていた通りに早めに店を閉めて、森へ薬草を探しに行く。
リュックを背負い、せっせと森へ入るとユイスも慣れた手付きで薬草を探しリュックに詰めていく。
マショリィも頑張って薬草を摘み、リュックへ入れる。
ユイスのリュックよりも大きくて小さなリュックよりも沢山入るようにポケットも多く付いているリュック。
おかげで薬草を摘むのが捗る。
本当はもっと摘めて作りおきしたりして、余裕のある仕事をしたい。
しかし、贅沢は言えぬ。
「ユイス、少し休憩しよ」
リュックが半分程薬草で埋まるのを確認して、ユイスが少し疲れているのを察知し、休憩を足す。
マショリィが言わねば彼は真面目な子だから、言わないと休憩を取らない。
地面に座り込んだ彼は布を取り出し、額を拭く。
「今日の夜ご飯は何?」
「そうだな……なにかリクエストはあるか」
聞かれて、むー、と悩む。
今日は薬草を摘むという作業をした。
この作業は日常の中での貴重な運動だ。
十分程休憩していると、やはりユイスは機敏に動き出して、薬草を摘み始める。
労働者の鏡のようだ。
ユイスが動くのでマショリィも摘む。
ちょこちょこと動く姿を見ながら和む。
和むと作業も捗り、リュックがぱんぱんに膨らみ丁度いい時間にもなったので、町へ降りる。
家へ着くと、薬草を出して乾燥させる為にそれ用の場所へ置く。
本当は外がいいのだが、薬草を盗まれるので中の方が安全に乾燥させられるのだ。
ユイスは疲れているのにいそいそと手伝う。
休んできても構わないよと言っても、やると言って聞かないのだ。
マショリィがやっているからやるのだと知っているから、それ以上は強く言えない。
子供の体力は大人より少ないのに、本当に真面目なんだなと少し気にかかった。
「よし。終わり。甘い飲み物を入れてあげるから、椅子に座ってなさい」
言い聞かせるように言うと、コクッと首を動かす。
それを見てサッとキッチンへ向かう。
ご飯の用意をユイスがするのは、単純に自分よりも美味しいからだ。
前は食べるのが己のみという環境だった故に、味に頓着しなかった結果はユイスの不味いという顔を体現させるもの。
話し合いとユイスの腕前を見て、ユイスにご飯を作ってもらうことにした。
キッチンで飲み物を用意しコップを持っていけば、ユイスは椅子の上で船をこっくりと漕いでいた。
眠いのだと一目で分かり、コップを置くとユイスが目を開けてコップを持ちちびちびと飲む。
コーヒーではないので眠くならないというものでなく、寧ろ、促進させる甘さ。
これを飲めば深く眠れるだろう。
「これを飲んだら自室に戻って寝てね」
「でも、仕込みが」
「それくらいはわたしがやっておくから。眠いままで手作業が狂う方が大事よ」
これよりもユイスが嫌だと言ったら困るので、断れないように一言付け加える。
納得したのか、大人しく寝ることに理解を示した。
賢いから助かる。
我が儘過ぎるのも嫌だが、真面目過ぎるのも困りものだと内心苦笑をする。
程なくして飲み終えたのか、コップを置いてフラフラと自室へ消えていくユイス。
それを見送り、ユイスのコップをキッチンへ置くために己の飲み物も喉へ流す。
ふぅ、今日も一日働いた。
疲れた身体を解す仕草をして、椅子から立ち上がる。
まだ寝るわけにはいかない。
二日後に店へ出す薬草を袋に詰めねば。
数回しばたきながらコップを持ち上げた。
店を出す日、いつものようにのんびりと店番兼ぼんやりをしていると男の人がこちらへやって来るのが見え、客だろうかと視線を合わせないようにする。
見ていると男性は薬を一瞥して、次いでマショリィを見た。
ユイスも店に居るが、ユイスを通り越し尚見てくるので内心怪訝に思いながらも笑みを浮かべるように、努めた。
「いかがしましたか?」
尋ねてくれと、遠回しに言われているのかもしれないと思うくらいには見ているので、店主という立場で聞かざるをえない。
相手に話しかけると男は肩凝りに効く薬はどれだろうと聞いてくるので、効能を知りたいのだと分かり、クレームでなかったことに安堵。
効能を説明しながら薬を指で差し、これだと述べる。
その後も薬の説明をするのだが、どうにも男は説明することにたいして耳から聞き流しているように感じた。
笑みを浮かべ始める男に不気味な思いを抱きつつも、相手は客だし、と思考を放棄することは出来ない。
彼は聞き終えるタイミングで、計ったように詳しいんですね、と言う。
まぁね、詳しくないと売れないというわけではないが、あとからどうこう文句を言われることを少なくするには補完させるに限る。
ここの人達は完璧主義でないから、文句を言うことは滅多にない。
しかし、どういうつもりで言っているのか解らないので、人当たりのいい笑みを返しておく。
もしかして、と男の思惑を汲み取りかけて、そんな事もないか、と考えている事を変える。
この男が己に好意を抱いているなんてご都合的過ぎて、小説の読みすぎかと反省。
恋愛でもロマンスでもないのに、妄想とでも呼べそうなものだ。
微かに自嘲も含ませた叱りに、わたしはもう何年色恋沙汰から離れているのだろうと遠い目をする。
男性が話さなくなったので、どうしたのかと相手の鼻を見る。
目を見るよりも効率的で圧迫感を感じないからね。
しかし、段々と男の挙動は客としてどうなのか、という態度になっていく。
「いつこの店は閉まるの?」
いつの間にか敬語がなくなっている男に顔色を変えず「その日によって変わるので分かりません」と答える。
男はふうん、とおざなりな応え。
「今度の休みに君を誘いたいんだけど、構わないかな」
(めんどいな)
「すみません。そういったことはお断りします」
「は?客を拒否するのか?」
まだ、お前は何も買ってないだろ。
おまけに、客とデートと休みはなんの関係もない。
冷たい目をしながらにこやかに対応する。
「すみません。お断りしています」
「また来るよ」
もう来るんじゃねーよ。
スマイルを浮かべてにこやかにお見送り。
自分で器用だなと誉め称えた。
「あの男の誘い、また断るのか?」
閉店の準備をしているときにユイスが気難しそうな顔をして聞いてくるので、ははは、と軽く応えた。
「勿論」
ユイスからすればお誘いに見えたかもしれないが、マショリィからすれば立派に客という身分振りかざす暴漢である。
暴力を振るわれたわけではないがパワハラ。
「好みじゃないしね」
ふう、と仕方なさげに呟く。
(それなら、ここまで育てたユイスと散歩する方がずっと有意義)
「デートなら、ユイスと行った方がきっと楽しいし、なーんて」
カラカラと笑う。
「……してやってもいい」
「ふふっ。気持ちだけもらっておくわ」
朗らかに笑うと、冗談に付き合ってくれる男児は頬を赤くさせる。
おやおや、若いことで。
もしかして勇気を持って行ってくれたのかな?
だとしたら真剣に断らなきゃ。
「そういうのは……好きな子が出来てから言えばきっと喜ばれるから」
助言したつもりなのだが、ユイスの反応が思わしくない。
しかし、思春期だから気にしまい。
難しい年頃なのだ。
からかったつもりは少しあるけど、可愛いからずっと見ていたい。
店を畳み家に向かう。
ストーカーがついてきてないか確認しつつね。
無事帰ってこれたので、二人して焼きたてパンを食べる。
ほかほかしていて幸せな心地になる。
そんな日々を過ごしていると家に役人が来て、ユイスの魔力を調べたいと言われる。
この世界では普通。
誰も彼もがすることらしい。
知りたいな。
手続きして、ユイスの魔力を調べると役人の人が興奮した様子で多いと言った。
学園の特別枠に入れますよと言われたが、本人の意思でしか通さないつもりなので行きたいか聞いてみた。
行きたくないと案の定言う子。
しかし、役人の押しが強い。
色々資料を持たされて読んでみた。
ユイスにも読むように言うと渋々。
読んでいくうちにユイスの瞳に色がつきはじめた。
行きたかったら構わないよと言うと、弾かれたように顔をあげて俯く。
どうしたのだ、行きたいのではないのかと眉を下げる。
離れ離れになるだろうと言われる。
ユイスを拾うまでに、ずっと一人だったことはこの際言わない方がいいのかな。
「言った責任は取れよ」
「……え?」
「デートしろって言ってんだ」
熱烈なお誘いに言葉を失う。
ユイスの願いを叶うことはやぶさかではない。
頷いた。
「絶対だぞ」
約束だ、と念押しされてうんうんと首を振る。
どこに出たいかと聞くと、湖に行きたいと言うので弁当を作ろうと提案した。
「弁当か。美味しく作れよ」
うん、と頭を撫でた。
子供扱いすると怒るけど、今回は大人しく撫でられていた。
2日後、ユイスとピクニックを始めた。
歩いていくと空気を楽しむ。
「楽しい?」
「歩いているだけなのに楽しいもなにもない」
うん、正論だけど、ほら、なんていうか、うん。
子供に望むのも酷かな。
「湖ってちょっと遠いけどよく知ってたね」
「たまに来てる」
「そうなんだ。スキなの?」
「見てるとなにも考えないで過ごせる」
随分黄昏れた思考してるな。
「ふうん。伸び伸び過ごしてるようで安心したよ」
「お前のお陰だ」
「どーいたしましてぇ」
素直な所も可愛い。
可愛くないときが多いけど大人びた子供だし、仕方ない。
「よし、着いた。足疲れたや」
「揉んでやろうか」
「気持ちだけ受け取っとくね」
子供の力じゃ限界もあるし、子供にそういうのをされると流石に罪悪感がある。
お弁当を用意して食べる。
湖を見ながら食べていくと、ユイスももぐもぐと摘む。
味覚にフィットしたようで、食べ進めている。
「美味しい?卵が今日上手くいったんだよね」
「いける」
お褒めにいただいた。
二人してぼんやり過ごした。
デートじゃなくて鑑賞である。
「ユイスはここがスキなんだね」
「気に入ってるな」
ぽつりぽつりと話した。
楽しいデートだった。
ユイスはすくすく育ち、ついに学校の卒業をする。
男の子はとても頭脳明晰だったので、学校で一番成績がよく、他の学校への誘いを受けている。
彼は家から離れるつもりはないと言ったが、誘われている学校の人達がわざわざ来た。
「お宅のアンドレファくんは本当に優秀で期待されております」
と、わたしに言われても本人に決めさせているので。
無言の笑みで回避した。
特にわたしから何かを言うことはしなかった。
彼は未来を考えている。
彼らが帰ったあと、二人でキッチンへ立つ。
「都市に行く」
するりと出てきた言葉に手を止める。
「誘われたところに行くの?」
「違う」
「そっか」
都市に行くのなら、家から出ていくということだ。
マショリィは笑う。
「引き止めないのか?」
「引き止めて欲しいの?ユイスはさみしんぼだねー」
「お前が寂しくないのか」
聞いてくるが、クスッと笑う。
「ふふ。そうだね。流石にしんみりするよ」
鍋がぐつぐつとにだつ。
「行かないでくらいは、言って欲しいな」
彼はからかう様に言う。
あの無愛想な会話からパワーアップした。
だいぶ会話力、コミュニケーション能力が増えた。
マショリィはふふふ、と笑みを零す。
「毎週帰ってくる」
「え、いやいや大変だしいいよ」
残念そうな子は、にやりと笑い毎月帰ると伝えてくる。
そんなに帰ってこなくてもわたしは居なくならないよ。
ちゃんと居るよ。
「どこかの馬の骨野郎に攫われたくねぇ」
ふふ、なにそれ。
変な言葉に笑みが浮かぶ。
育ての親を取られるのは嫌なのか。
ユイスは可愛い所もあるものだ。
ほほえみも浮かべてしまうというものだ。
そうして過ごしていれば、あっという間に彼は都市へ行ってしまう。
時間というのは、早く過ぎるものなのだなと切なくなる。
一人だと時間が遅く感じるのが、更に物悲しくさせた。
都市に付いたことは手紙で知る。
学園ではなく、どこになにをしに行ったのかと気になったが、時が来たら教えてくれる筈。
それから2、3ヶ月に一度程手紙は届く。
都市へ向かい2年が経過した。
1年に3度帰ってきたが多いのか少ないのか。
なにをしているのか今も知らない。
仕送りを会うたびに渡されるが、お金には困ってない。
「たまに宝石が混じってるのよね」
仕送りではなく綺麗なものに反応しずらい。
「がっかりするから貰うしかない」
あの、しょんぼりした顔。
あの顔にわたしは弱いのだ。
我ながらチョロい。
3年目に突入した時、迎えに来るという手紙を寄越された。
なんのことかと首を傾げ、約束なんてしてないよと返す。
帰ってくるまで待っていると、手紙と共に本人が来た。
目を白黒していると馬車から降りてくる彼に、目をしばたかせる。
すっごい背が伸びている。
スタスタと軽やかにこちらへ来ると、説明とやらをやっと始める相手。
こちらはまだすべてを飲み込めてないというのに、次々出てくるそれらに目をしばたかせる他ない。
待って待ってと辛うじて出てきたそれに、彼は悪い笑みをウカベル。
イタズラが成功した妖精の様だ。
彼はくくっ、と笑うとさらに距離を詰める。
(かっこよくなっちゃって)
染み染み。
感慨深い。
こちらへ手を差し出してきた。
久しぶりの手の温もりに嬉しさが溢れてくる。
おかえり、と声をかけたらああ、と返された。
それと、迎えに来たぞとかけられたので、手紙の件なのだと思い出す。
なんの迎えかと聞くと、ニヒルな笑みをまた浮かべる。
ユイスは意味ありげに顔を覗き込む。
「お前と結婚する」
「……??、けっ??こん?」
脳が理解を拒む。
何を言ってるんだこの子は。
混乱するわたしを置き去りにして、話を進める。
コラコラ、すすめないで。
「向こうで起業した」
と、言われても。
「き、ぎょう?」
会社を起こしたということか。
「ああ。ここで仕事ができる様に手筈も整えている。迎えに来たのは起業した奴らにお前を紹介する為だ」
色々言われても全部初耳なのである。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って、待って、本当に、すとっぷ」
呂律が回らない。
いった、舌噛んだ。
ま、待ってと声を変える。
「かくにん、させて。ユイスはわたしが女として好きって言ってる?」
たずねると彼はあぁ、と肯定。
あー、そうか。
ああ、と項垂れた。
「そう、なのね」
わたしを好きなんだ。
それは養い親だからじゃないのか、と口にしそうだったが、耐えた。
考えた時に彼の眼光の圧が強くなったもん。
「疑っているな」
「疑っているっていうか。特殊な好みをしてるなとは、思ってます、ハイ」
あまりにも追随を許さぬ目で言われて、素直に喋る。
それに、ふん、と仰反る相手。
「そんなのは、まぁ、予想していたが」
していたんかい。
「わたしなんていき遅れだよ」
この世界は、十六や十八で世帯を持つなんてよくある。
「それがなんだ。どうでもいい」
「それに、わたしはあなたのおかあさんでしょ」
「は?んなわけねぇだろ」
否定されて混乱。
「え?えええ」
きっぱり否定された。
まぁ、わたしも母よりは姉っぽいとは思うけど。
保護した年齢が高かったし。
「会った時から好きだった。本心だ」
突然の告白。
「あ、うん」
ギラギラしている視線。
「連れていくのは決まっている」
決まってるんだ!?
「わたしは出来たら住み慣れた場所に居たい」
出たくないのだけど。
「住めば都。おれのところも住めば快適になる」
快適と言われ眉を下げる。
「ううーん?」
疑問が頭を独占。
「良し、準備しろ」
よくわからない。
「え?急だって」
グイグイとわたしの部屋へ押し出そうとしている。
されるがままに部屋へ入り、彼が出した入れ物にモソモソと服を入れていく。
そうしているとお昼になったので何か食べねばと立ち上がる。
くん、くんくん。
「いい匂い」
リビング方面から香ばしい香りがする。
ニオイのもとを辿り、足を動かすとユイスがフライパンを使って料理をしていた。
これまた、久しぶりの光景。
懐かしい。
ユイスはこちらを見ずに椅子に座れという。
言われた通りチョコンと行動する。
「うわ、美味しそう」
香りもいい。
「美味しいに決まってる」
彼はドヤッと自信満々で、皿に料理を盛る。
「食べていい?」
問いかける。
「あぁ」
彼の作ってくれたので、丁寧に味わう。
咀嚼すると旨みが口内で溢れる。
「うん!美味しい!さすがっ!」
褒めると彼は肩をすくめて、お前には叶わないと褒め返ししてくる。
会わない間に褒めるボキャブラリーが増えたんだな。
「どうして都市にこだわるの?」
「おれの研究するための施設と素材が豊富にある。お前が来れば完璧になる」
これでもかと、いいところだとプレゼンしてくる。
「そう……なら、行くよ」
その、こちらを考えに考えられた言葉に心が動かないわけがなかった。
「!──本当か」
カタッと動く相手は期待した目で見てくる。
それを見返して再度頷く。
すると、ぎゅっと抱きしめられてふふふ、と笑う。
わたしも彼を抱きしめ返すと「不自由はさせない」と耳元にくる。
不自由でも気にしない。
あなたが居るのならどこでも楽園になるよ、と得意げに秘密を囁いた。
「やっぱり弟子は師匠をなかなか超えられねぇんだな」
さらに腕の力が強くなった。
その力強さがホッとする。
悔しそうに呟くそれに、どうだまいったかと、彼へ自慢げに胸を膨らませた。
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