桁違いの二人、観覧車の頂点で誓い合う ※ 全キーワード使用してます
カレンダーの日付を確認する。いよいよ卒業の日が近づく。ルームメイトの千華と初めて会った日に、ベランダから紙飛行機を飛ばして叱られたのが、つい昨日の事のように感じられる。
私、百華と千華は、水泳の強化選手候補として、プールとトレーニング施設のある高校へと進学して来た。不慣れな寮の生活に不安はある。
同室になった桁違いの名前の私達は気が合う。朝夕は寮食が出るので、お昼は自炊か学食だ。私達は毎日のお弁当を一緒に作って食べた。
勝負の世界は時に残酷だ。卒業を控えた私達の実力は、名前程差はなかったように思う。千華の実力なら一緒に高みへ行けると思っていた。
「何で私だけ⋯⋯」
悔しがる千華の寝言を聞いてしまった私は、胸が締め付けられる。次のステップへ進む度に私も、千華も通って来た道だ。ギュッと自分の掌を握って耐えた。
親友でありライバル。だからこそ慰めの言葉が見つからなかった。
代表のかかる強化選手に選ばれたのは私だけ。競争に勝った私が、彼女に何も言えない日が続く。
悔しさを隠し、明るく振る舞う千華が、気晴らしに散歩に行こうと誘って来た。
「練習ばかりで遊んでなかったね。卒業記念に次の休み、遊園地に行こうよ」
並んで歩く千華の横顔に淀みがない。気持ちを切り換えたのかな。強いし、優しいな千華は‥‥そう思った。
二人で行動するのは寮や学校、トレーニング中でも同じだ。こうして遊びに出かけて、違う景色を楽しむのは新鮮だった。
「観覧車があるね。百華、乗ってみようよ」
ジェットコースターを二度乗って、色んな感情や思いを吹き飛ばした後、私と千華は観覧車へ乗った。
遊園地に誘われた日から、千華はやけにスッキリした顔をしていた。寝言を呟いて、うなされるくらい苦しんでいたのが嘘みたいだ。
観覧車へと乗り込み、私と千華は対面に座る。観覧車って、何故か特別な空間に感じてしまう。胸の内に溜まったものを吐き出すならここだと、千華も決めていたのかもしれない。
「心配かけたね、百華」
千華が話を切り出す。観覧車が少し風に揺れながら頂点に近づき、ドキドキして来た。
「私ね、補欠で選ばれたの。だから、春からまた一緒に目指せるよ」
告げられた朗報に私は、思わず千華と抱き合う。恥ずかしい妄想や恐怖ではなくて、純粋なライバル宣言だ。
桁違いの二人は互いに切磋琢磨し、世界の頂点へ辿り着く事になる。その原点は観覧車での誓いにあると、二人は仲良く答えるのだった。
お読みいただきありがとうございました。