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 人に仕官の斡旋を頼んでおきながら、主君からの言葉が気に食わないと言って、間際になってわがままを言い出すとは――岩間角兵衛いわまかくべえは内心困り果てた。


「もう関わるまい」と思い、心の中でこう自省した。


(後進を愛するのはよいが、後進の間違った考えまで甘やかしてはいかん)


 だが、角兵衛はもともと小次郎という人間が好きだった。凡庸な者ではないと感じていたからだ。そのため、彼と主君の間に挟まって悩んでいた時は腹が立ったものの、数日が経つと考えが変わってきた。


(いや、あれが彼の偉いところかもしれん)


 もし凡庸な人物なら、お目見得の機会があれば喜んで出向くはずだろう、と善意に解釈し、むしろ若い者にはそれくらいの気概がある方が頼りがいがあると考え始めた。小次郎にはその資格があると思い直し、ますます彼が大きく見えてきた。


 そして四日後。


 角兵衛はその間、宿直があったりして小次郎と顔を合わせる機会がなかったが、ある朝、ふと思い立って小次郎の住まいを訪ねた。


「小次郎どの――昨日も御館おやかたから戻ろうとした際に、忠利ただとし公がまだかと、そちを催促されておった。どうじゃな、お弓場ゆばで会おうとのお言葉だから、気軽に出向いてはどうだ?」


 小次郎はにやりと笑ったが、特に答えはなかった。


 角兵衛はさらに続けた。


「仕官をするならば、一度お目見得をすることはどこでも当たり前のことで、何もそちの恥辱にはなるまいが」


 小次郎は、少し間をおいて、


「だが、御主人」と口を開いた。


「うむ」


「もし、気に入らぬと断られたら、この小次郎はもう価値がなくなるのではないか。小次郎はまだ、自分を商品として売り歩くほど落ちぶれてはおらん」


 角兵衛は焦って、


「わしの言い方が悪かったのだ。殿の仰せは、そういう意味ではなかった」


「では、忠利公へどうお答えなされたのか?」


「――いや、まだ特にどうともお答えしてはおらぬ。それで、殿も心待ちにしておられるらしい」


「はははは。恩人のあなたを困らせるのは、さすがに申し訳ないな」


「今夜も宿直の日じゃ。再び何か訊かれるかもしれぬ。だからわしを困らせず、まず一度藩邸へ顔を出してくれんか?」


「よろしい」


 小次郎は恩に着せるように頷き、


「行ってあげましょう」


 と答えた。


 角兵衛は喜んで、


「では、今日にも?」


「そうだ、今日参ろうか」


「それがよい」


「時刻は?」


「いつでもという仰せだが、昼過ぎならお弓場におられるから、窮屈でもなく気軽に拝謁できるだろう」


「承知した」


「間違いないな」


 角兵衛は念を押してから先に藩邸へ向かった。


 その後、小次郎は悠々と支度を始めた。普段から身なりに無頓着な豪傑を装っているものの、実はかなり洒落者で、見栄えを気にする性質だった。薄物のかみしもや、輸入物の織りのはかま、新しい草履や笠まで出させ、岩間家の中間ちゅうげんに尋ねた。


「馬はないか?」


 すると、坂下の花屋に主人の乗り換え用の白馬が預けてあるという。小次郎はその花屋の軒先に立ったが、今日も老爺おやじの姿はなかった。


 境内の方に目をやると、寺の横で花屋の老爺や僧侶、近所の人々が大勢集まり、何かに首を寄せ騒いでいた。



「何があったのか……」


 そう思った小次郎は、騒ぎの元へ行ってみた。すると、地面にこもをかけられた死体があった。それを囲んでいる人々は、埋葬について相談をしているようだった。


 死者の身元はわからない。年の頃は若い侍だという。肩先から深く斬られており、血は黒く乾いていた。持ち物は何もないらしい。


「この侍を見かけたことがある。四日ほど前の夕方だった」


 花屋の老爺が言った。


「……ほう?」


 と、僧侶や近所の人々が彼の顔を見つめる。


 老爺は何かを話し始めようとしたが、そのとき誰かが肩を叩いた。振り返ると、そこには小次郎がいた。


「おぬしの小屋に、岩間殿の白馬が預けてあるそうだが、出してくれ」


「あ、これは……」


 老爺は慌てて辞儀をし、


「お出ましで」


 と、急いで小次郎とともに家の方へ戻った。


 小屋から馬を引き出してきた老爺が月毛つきげを撫でると、小次郎は言った。


「良い馬だな」


「はい、よい馬でございまする」


「行ってくる」


 老爺は鞍の上に座る小次郎を見上げ、


「お似合いなさいます」


 と言った。小次郎は巾着の中から少し金を取り出し、馬上から老爺に渡して言った。


「これで、線香と花でも供えておいてくれ」


「……へ? どなたへ?」


「今の死人にだ」


 そう言うと、小次郎は坂下の寺門前から高輪街道へと出て行った。


 馬上からベッと唾を吐き捨てる。さっき見た死体のせいで、不快な生唾がまだ残っていた。――四日前の月夜、研ぎ上がったばかりの物干竿で斬った人間が、さっきの菰を跳ね返して、馬の後ろから追いかけてくるような気がしていた。


「怨まれる筋はない」


 彼は心の中で自分の行為を正当化しようとした。


 白馬は炎天下を駆け抜け、道行く人々が避けていく。町家の人々も、旅人も、侍たちも、彼の姿を目で追って振り返った。


 実際、彼の馬上での姿は、江戸の街に入っても目立つほど堂々としていた。――どこの武士だろうと、人々は彼を見やった。


 細川家の藩邸に着いたのは、ちょうど約束通りの真昼だった。馬を預け、邸内に入ると、岩間角兵衛がすぐに飛んできて、


「よくぞお出でくださいました」


 まるで自分のことのように労い、


「少し汗でも拭いて、お控えでお休みください。只今、殿にお取り次ぎをいたします」


 と、麦湯や冷水、煙草盆を差し出して下にも置かない様子だった。


「では、お弓場へ」


 ほどなく別の侍が案内に来た。もちろん、小次郎の自慢の物干竿は家臣に預け、小刀だけで従った。


 細川忠利ただとしは今日も弓を射ていた。夏中、百射を続けるということで、今日もその途中だった。


 大勢の近侍きんじが忠利を取り巻き、矢を抜いたり介添えしたりしながら、弓の音を固唾を飲んで見守っていた。


「手拭い、手拭い」


 忠利は弓を立てた。汗が眼に流れ込むほど、射疲れていた。


 角兵衛はその時を見計らい、


「殿」


 と、側にひざまずいた。


「何だ?」


「あれに、佐々木小次郎が参って御拝謁を待っております。お言葉を賜りたく存じます」


「佐々木? ああ、そうか」


 忠利は目もくれず、次の矢を弦にかけ、足を開いて弓を引き絞っていた。



 忠利ただとしばかりでなく、家臣たちも誰一人として、控えている小次郎に目を向ける者はいなかった。


 やがて百射ひゃくしゃが終わると、忠利は大きな息を吐きながら「水、水」と言った。家臣たちは井戸から水を汲み、大きなたらいに満たした。忠利は、上半身を脱いで汗を拭い、足を洗った。家来たちはそばでたもとを持ったり、新しい水を汲んだりと介添えを怠らなかったが、その様子はお大名というより、野人じみた粗野な風情だった。


 国元にいる三斎さんさい公は茶人であり、先代の幽斎ゆうさいはそれ以上に風雅な歌人だった。小次郎は、さだめし忠利も公卿風くげふうの優雅な若殿だろうと考えていたので、この意外に粗野な忠利の姿に驚きを隠せなかった。


 忠利は足をしっかり拭くこともなく草履を履き、ずかずかと弓場ゆばへ戻った。そして、岩間角兵衛いわまかくべえの顔を見て、何か思い出したように言った。


「角兵衛、会おうか」


 すぐに幕の陰に床几しょうぎを用意させ、九曜の紋を背にして座った。


 角兵衛に招かれ、小次郎は彼の前にひざまずいた。この時代、人材を愛し、士を厚遇する風潮があったため、謁見を受ける者はまず礼を取るのが常だった。しかし、すぐに忠利の方でも、


「床几を遣わせ」


 と言った。これにより、小次郎は客としての待遇を受け、膝を上げて


「お許しを」


 と軽く会釈しながら、床几に腰を下ろし、忠利と対面した。


「角兵衛から聞いているが、出身は岩国いわくにと申すか」


「御意にございます」


「岩国の吉川きっかわ広家ひろいえ公は英邁えいまいで有名だ。そちの父祖も吉川家に仕えていた者か?」


「遠くは近江おうみの佐々木の一族と聞いておりますが、室町幕府の滅亡後、母方の里に隠れたと聞いており、吉川家のろくはいただいておりません」


 その後も、家系や縁者に関する質問が続いた。


「侍奉公は初めてか?」


「まだ主取しゅどりは経験しておりません」


「当家を望んだと角兵衛から聞いたが、どこに惹かれて当家を望んだのか?」


「死に場所として、死に心地の良さそうなお家と存じました」


「む、む……」


 忠利はうなった。どうやら気に入った様子だった。


「武道は?」


巌流がんりゅうと称しております」


「巌流?」


「自身が発明した兵法でございます」


「とはいえ、何か源流があるだろう?」


富田五郎右衛門とみたごろうえもんの富田流を学びました。また、郷里の隠士・片山伯耆守かたやまほうきのかみ久安ひさやすという老人から居合いあいを授かり、さらには岩国川のほとりでつばめを斬り、修行を積んでまいりました」


「なるほど。巌流という名は、岩国川に因んでいるのか?」


「ご賢察の通りです」


「一度その技を見たいものだ」


 忠利は家臣たちを見回し、


「誰か、佐々木を相手に立つ者はおらぬか?」


 と尋ねた。



「この男が、佐々木か……最近よく噂に上がっている、あの著名な剣士なのか」


 家臣たちは、忠利と小次郎の応対を見守りながら、思いのほか若い小次郎に感心していた。そんな中、忠利が突然言った。


「誰か、佐々木を相手に立つ者はいないか?」


 その言葉に、家臣たちは一瞬顔を見合わせた。すぐに視線は小次郎に向けられたが、彼は少しも迷惑そうな様子はなく、むしろ「望むところだ」と言わんばかりの自信が顔に表れていた。


 しかし、まだ誰も名乗り出ないうちに、忠利が声をかけた。


岡谷おかや


「はっ!」


「以前、槍が太刀に勝ると論じたとき、誰よりも槍を推して譲らなかったのはお前だったな」


「はっ、仰せの通りです」


「いい機会だ、やってみろ」


 岡谷五郎次は恭しく応じると、小次郎の方に向き直り、


「不肖ながら、お相手をさせていただきますが、よろしいでしょうか?」


 と訊ねた。


 小次郎は大きく頷き、「どうぞ」と短く答えた。形式的な礼儀の中にも、何か冷ややかで凄まじい緊張感が流れた。


 幕の中で的場の砂を掃いていた者たちや、弓の手入れをしていた人々も、その雰囲気を感じ取り、皆が忠利の背後に集まってきた。


 日々、武芸を口にし、太刀や弓に慣れている侍であっても、実際の試合に立つ経験は一生のうちに何度もあることではない。


 たとえ――


「戦場に出るのと、試合に立つのと、どちらが怖いか?」


 ――という質問をここにいる大勢の侍にしたら、十人中十人が「試合の方が怖い」と答えるだろう。


 戦場では集団での行動だが、試合は一対一の勝負だ。必ず勝たなければ、死ぬか致命傷を負う。全身を味方につけ、全力で戦い抜かなければならない。誰かが戦っている間に休息を取る余裕などない。


 ――静かな緊張感の中、皆が五郎次の動きを見守っていたが、彼が落ち着いている様子を見て、少し安心した者たちもいた。


「彼なら負けまい」と。


 細川藩には、特に槍術の専門家はいなかった。幽斎ゆうさい公や三斎さんさい公以来、実戦経験のある者ばかりが重用され、足軽の中にも槍の使い手は多くいた。だから特に師範を必要とすることもなかったのである。


 だが、岡谷五郎次は藩内でも「槍の使い手」として知られていた。実戦経験を積み、日々の稽古に励む老練な武士だった。


「しばしご猶予を」


 五郎次は主君と小次郎にそう挨拶し、静かに後退していった。身支度のためである。


 朝、笑顔で出かけ、夕方には死体で戻るかもしれない侍奉公。今日はその心構えもあり、彼は下帯から肌着まで清潔な衣服を着ていた。それが支度を整える彼の心を、ふと涼やかにした。



 小次郎は立ったまま、身を開け放し、三尺の木太刀を手にしていた。袴のひだも整えず、ただ試合の場で待つその姿は、どこか悠々としていた。


 その姿は、誰が見ても逞しく、憎まれてもなお凛々しい男ぶりだった。特に、その横顔は鷲のように勇猛でありながら、美しく、普段と変わらない冷静さを感じさせた。


(どうなるんだろう?)


 岡谷五郎次を見守る家臣たちは、小次郎の異彩に心配を覚え、五郎次の支度に隠れた幕の方を見やり、不安そうな視線を投げかけた。しかし、五郎次は冷静に身支度を整えていた。それでも、彼がまだ支度に時間をかけていたのは、槍の先に濡れ晒布を丁寧に巻いていたためだった。


 それを見た小次郎は軽く笑みを浮かべて言った。


「五郎次殿、それは何のお支度ですか? もし、私に対する配慮だとすれば、無用の心配ですが」


 言葉自体は丁寧だが、その意味は明らかに傲慢な挑発に等しかった。五郎次が使おうとしていたのは、戦場で得意とする菊池槍で、柄の長さが九尺余りもある強力な武器だ。しかし、小次郎はその心配を軽視しているかのように言った。


「真槍で結構です」


 小次郎は、彼の丁寧な準備を無駄だと言わんばかりに嘲笑った。


「本当に必要ないのですか?」


 五郎次は鋭い目で小次郎を見つめた。そのやり取りに、忠利も、他の家臣たちも皆、目を光らせ、まるで「やってしまえ」と言わんばかりだった。


 小次郎は焦らすように、さらに強い語気で言い放った。


「そうだ!」


「では――」


 五郎次は巻きかけていた濡れ晒布をほどき、長槍を中段に構え、進み出た。そして冷静に言った。


「お望みに従います。しかし、私が真槍を使う以上、あなたも真剣を使っていただきたい」


「いや、これでいい」


「いや、ならない」


 五郎次はさらに続けようとしたが、小次郎はその言葉を遮るように圧倒的な口調で返した。


「藩外の人間が、他家の君前で真剣を抜くなど無礼にあたりますので」


 五郎次はまだ納得がいかない様子で唇を噛んでいたが、忠利が苛立った様子で言った。


「岡谷、卑怯ではない。相手の言葉に従え。早く始めろ」


 その声にも、どこか小次郎に対する期待が見え隠れしていた。


「では――」


 二人は目礼を交わした。瞬間、五郎次はすばやく後ろへ跳んだ。しかし、小次郎はそれに合わせて、槍の柄の下へするりと滑り込むように突き進んでいった。


 五郎次は槍を繰り出す間もなく、急いで身を反転させ、石突きで小次郎の襟元を打ち下ろした。


 ――ぱんっ! 石突きが宙に跳ね返った。小次郎の木剣は即座に、五郎次の肋骨に向けて低く、鋭い音を立てて迫った。


「ちっ、ちっ、ちっ!」


 五郎次は息を切らしながらも、跳んでかわした。しかし、それでも小次郎の追撃は止まらず、まるで鷲に追い詰められた隼のように、槍は木剣の勢いに耐え切れず、折れてしまった。


 その瞬間、五郎次の魂が体から無理やり引き離されるような呻き声が漏れ、一瞬の勝負が決した。



 伊皿子の「月の岬」の家へ帰ってから、小次郎は、主である岩間角兵衛に問いかけた。


「ちょっとやり過ぎましたかな?――今日の御前で」


 角兵衛は、すぐに答えた。


「いや、上出来でござったよ」


「忠利公は、私が帰った後、何か言っておられたかな?」


「特には……」


「何かは言われたはずだが?」


「何も仰せられずに、そのままお座の間にお戻りになった」


「ふむ……」


 小次郎は不満げに顔をしかめた。角兵衛は、続けて言った。


「いずれ、そのうちに何かお沙汰があるでしょう」


「抱えられるにせよ、抱えられないにせよ、どちらでもよい……だが、噂にたがわず、忠利公は名君と見た。同じ仕えるなら――と思うが、これも縁次第だからな」


 角兵衛は、徐々に小次郎の持つ鋭さに気づき、昨日から少し不気味に感じていた。かつては愛すべき若鳥と思っていたが、今やふところで鷲に変わったかのような印象を抱いていた。


 昨日の忠利の面前では、少なくとも四、五名は相手にするつもりだったが、岡谷五郎次との最初の試合があまりにも残忍だったためか、忠利の一声で終わってしまった。


「見えた。もうよい」


 五郎次は後で蘇生したというが、おそらく跛行になるだろう。左の太ももか腰部の骨が砕けたに違いない。これだけ見せておけば、細川家に縁がなくても後悔はないと小次郎は内心思っていた。


 だが、未練はまだ残っていた。身を託すなら、伊達、黒田、島津、毛利に次いで、細川藩は確かな藩であると見ていた。大坂城という未解決の存在が風雲を孕んでいる中、藩選びを誤れば、再び素浪人に戻ったり、落人の憂き目に遭う危険がある。


 小次郎はその見通しを持っていた。三斎公が国元に健在である限り、細川家は安泰であり、将来性も十分にあると考えていた。こうした藩に身を寄せ、未来に舵を切るのが賢明だと思っていた。


(だが、良い家ほど、簡単には抱えもせぬ)


 小次郎は焦りを感じ始めた。


 数日後、小次郎は急に言い出した。


「岡谷五郎次殿を見舞ってくる」


 その日は徒歩で出かけた。


 五郎次の家は常盤橋の近くにあった。突然の小次郎の見舞いに、まだ病床にあった五郎次は驚きながらも、微笑を浮かべて言った。


「いや、試合は腕の差だ。未熟を恨むことはあっても、そなたを恨むことはない」


 五郎次は目に涙を浮かべながら、優しい言葉をかけた。


「お心遣い、ありがたく存じます」


 そして小次郎が帰ると、五郎次は友に向かってこう漏らした。


「立派な侍だ。傲慢な者かと思っていたが、意外にも情があり、礼儀正しい」


 小次郎は、彼がそう言うだろうと確信していた。そして、見舞いに来ていた者たちの耳に、小次郎の名が讃えられるのを、計算通りに聞かせていたのであった。

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