盂蘭盆会 その2
胡瓜と茄子、あとは割り箸も必要だな。
マシュマロは……買わなくてもいいよな。
罰当たりもいいとこだ。
だけど爺ちゃんが焼きマシュマロを焼いているところ見たら、きっとニコニコと笑いながらそれを眺めるんだと思う。
……はあ、仕方がない。
買っていってやるか。
うまく河童に乗せられている気もしなくもないが。
「あら、また来てくれたのね」
「はい。お盆のことすっかり忘れてて」
「きっと春原のお爺ちゃんも喜ぶわね。颯太くんのこと大好きだったから」
「そうだといいんですけどね」
本当にそうだったらいいなと思った。
もちろん俺も爺ちゃんが大好きだったし、爺ちゃんも俺を可愛がってくれた。
だけど最後のお別れの時、俺は爺ちゃんのそばにいてあげることが出来なかった。
爺ちゃんは最後まで「颯太は元気か?」と云っていたらしい。
俺の人生はもう少し続くのだろうけど、きっとこれ以上の後悔は無いのだろうなと思う。
失って分かる大切さを身に染みて痛感した。
もし仮にこの世界が漫画やゲームの世界であったとするのなら、便利な魔法で簡単に人を蘇らせることが出来るのならば俺は間違いなく僧侶の道を選ぶだろう。
それがどんなに困難な道であったとしても、それが爺ちゃんと同級生になるほどの時間をかけて修行をして体得できる魔法だとしても、俺はその道を選ぶと思う。
風鈴の音が鳴る縁側で、扇風機にあたって、スイカを一緒に食べながら、また一緒に将棋を指せたのなら。
そんなに嬉しいことはないだろう。
こんなに喜ばしいことは他にないだろう。
もしも願いが一つ叶うなら、俺はまた爺ちゃんの孫に生まれたい。
「爺ちゃん……ごめん」
何度も通った畦道の記憶には、どの瞬間を切り取っても爺ちゃんがいて、そしていつも笑ってて——。
はあ、なんか涙出そう。
「おーい、颯太ー!」
玄関の前で手を振る河童は、そんな俺の気持ちとは裏腹に満面の笑みで出迎えてくれた。
「あいつ悩みとかなさそうで羨ましいわ」
まさか河童の笑顔に元気を分けてもらう現実が訪れるなんて……人生とは分からないものである。
でもこんなこと言ったら調子に乗りそうだから、このことは墓まで持って行くことにしよう。
「おいおいおい。どうしたんだよ。目が真っ赤だぜ」
「こんなに夕焼けが綺麗なんだ。そのせいだよ」
「……キモ。やば、鳥肌が」
「てめぇ」
「そんなことより早く例のブツを出せよ。もう我慢できねえよ。ほら手の震えが止まんねえんだよ」
「胡瓜中毒なの?」
「……? マシュマロ中毒だけど……」
きょとんとしてるけど、お前がマシュマロ好きなんて情報一回も出てきてないからな。
「嘘……颯太、なんでそんなことも知らないの?」みたいな顔が本気で腹ただしい。
「じゃあ俺が胡瓜と茄子を担当するから、颯太はそこにあるドラムセットで肩慣らしでもしといてくれよ」
「はいよ、了解。シンバルの高さとか調整しちゃって平気?」
「ああ、俺は今回ボーカルだから。颯太の好きにしちゃっていいよ」
「椅子の高さも調整してっと。そうだな……爺ちゃんの好きだったジャズ調でいくとするか。きっと爺ちゃんもノリノリで帰省してくれる……って、こら」
ドラムなんてどっから持ってきたんだよ。
こんなボロ家の玄関前に本格的なドラムセット置くなんて、シュールなミュージックビデオじゃねぇんだぞ。
「え、なに?」
「あのね。普通はさ、金腕を鳴らしてご先祖様を呼び出すじゃん。でもこれってドラムじゃん」
「うん。これがこの村の風習だから。やるなら派手な方がいいじゃん」
「却下」
「え、ええっ!? ……まあ、でも颯太が言うなら仕方がないか」
何考えてんだこいつは。
頭の中にマシュマロ入ってるだろ。
しかし危なかったな、間一髪だ。
そもそも河童に任せようなんて大間違いなんだよ。
しかもこいつボーカル担当すると言ってたよな。
一体何を歌うつもりだったんだ。
「まあ、いいや。ほらよ。そうこうしている内に牛馬が完成したぜ」
「……」
すげえ……ペガサスだ。
すげえけどいいのそれ?
「すごいだろ? 胡瓜に関しては俺の右に出る者がいないと証明できたと思うと一安心だよ。ほらこっちも見てくれよ。自信作だぜ」
なんでミノタウロスなんだよ……。
「だって送り狼に襲われたらひとたまりもないだろ? 護衛は強いに限る。これは自然界の鉄則だ。弱肉強食の摂理には何人たりとも抗うことが出来ないのだから」
「無駄なクオリティの高さが、いかにお前が暇人だということを象徴していて素晴らしいと思うよ」
「……ありがとう、颯太」
「なんか本気で照れてお礼してるところ大変恐縮なんだけど、これ皮肉だからね?」
「皮肉? 聞いたことないお肉だ。なるほど、今日の晩御飯って訳だ。だけど残念ながらお供物にお肉は御法度だよ。おはぎなんていいんじゃないかな。ほら、これ」
「おにぎりじゃねえか」
「ちゃんと中にあんこ入ってるよ」
「逆なんだよ」
「ええ……もしかして、まさかのこし餡派かよ。はあ、つくづく颯太とは気が合わないな」
うん……。
本当にそうだね。




