夏の終わり
不動さんとの激戦を終え、俺たちは日を改めて教会へと訪れた。
「爺ちゃんってさ。ここの皆んなと仲良かったのか?」
「ああ、そうだな」
「お前は寂しくなかったのか?」
「……颯太ほどじゃない」
教会の裏手には爺ちゃんのお墓があった。
この森の住人が作ったものらしい。
もちろんそこに遺骨は無いし、形だけ真似た偽物のお墓だが、如何に爺ちゃんが慕われていたのかが分かった。
庭の井戸からは毎日変な人や変な生き物が湧き出てくるが、キリが無い為今は再び封印している。
とはいえ蓋をして重しを乗せた簡素なものなのだが、河童曰く形式はとても大事なことで、気持ちを込めればそれは儀式となり、それなりの効果を発揮するようだ。
隣にいる河童もあの井戸から出てきて爺ちゃんと仲良くなったのだろう。
俺が頑なにこいつを河童だと認めていなかったのに、急にそう考えるようになったのには理由がある。
というのも昨晩、河童を河童と認めざろう得ない出来事があったのだ。
仲直りした河童と不動さんは夜更けまでパジャマパーティーで盛り上がっていた。
それを尻目に俺が居間で疎外感を味わっていた時、ある人物が家を訪ねてきたのだ。
そう、何を隠そう河童の両親である。
不動さんが言ったように河童は半妖だった。
父親がどっからどう見ても河童だったので間違いない。
デフォルメされたぬいぐるみなんかではなく、リアルな質感の真緑の河童。
嘴は黄色いし、頭の皿はよく見ると剥き出しの頭蓋骨のようにも思えた。
そして手には作りたてのモッツァレラチーズのような白い塊を手にしていた。
一方母親は河童——陽菜に良く似た人だった。
あいつが大人になったらこんな優しそうな人に成長……するとは到底思えないが、一目見て親子なんだなと分かった。
二人は娘が心配で様子を見にきたらしいが、俺が爺ちゃんの孫だと話すと安心したようだ。
尻子玉を俺に渡すと会釈をし森へと帰って行った。
「しかし……父さんも早とちりだよな。まさか颯太に尻子玉を渡すなんてさ」
「なんでそれが早とちりになるんだよ」
「だって尻子玉を渡すってことは……えっと、その」
「まさか! こ、殺されるのか!?」
「……ははっ、あははは! そうだぞ、覚悟しといた方がいいかもな!」
無邪気に笑う河童の笑顔とても美しく、どこか懐かしい気持ちにさせられた——。
……ん?
懐かしい?
「さてと! 帰りますか」
「なあ」
「なんだよ」
「俺がまだこっちに遊びにきてる時、お前と会った時なんてないよな?」
「……さあ。どうだろうな」
以前見た夢と重なったのだろうか。
縁側で爺ちゃんと河童が笑って話している夢だ。
「そうだよな、勘違いだよな」
「ここでは会ってないけど、井戸の中では会ったことあるぞ。お前あの時ちんちくりんだったもんな。泣き叫んで鼻水垂らしてさ。今思い出しても不細工が際立ってたよ」
「ま、まじで!? お前いつから気づいてたんだよ」
「お前に醤油かけられた時からだよ」
一番最初じゃねえか。
「あ、あとお前の爺さん。多分生き返るぜ」
「……は?」
「多分魂が向こうに縛られてる。颯太を助け出すのに相当無理したからな」
「なんでそういうこと早く言わないの?」
「今言ったから信じたんだろ」
「確かに。そりゃそうだ」
「爺さん助けるんだったら手伝うぜ。行ってみるか? 井戸の世界に」
まじで言ってんの?
「走れ河童! 今すぐ行くぞ!」
「嫌だよ。こんなにクソ暑いのに走りたくないよ。歩いて行こうぜ」
「……お前は最後までマイペースだな」
どうやら俺の夏休みは、まだまだ終わりを迎えそうにないようだ。
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