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91 あなたのことがたいせつだから。④


 ――――お願い、消さないで……――――



 声が聞こえた。

 微かに、悲しげに、寂しげに。

 私の『消失』を消したのと同じ声だ。


 声の主は知らない。

 誰だっていい。そんなことは、今はどうでもいい。

 私は決めたのだ。

 何を犠牲にしてでも、カトリーア達は絶対に守るのだと。


「わかったよ」


 必ず闇に打ち勝つと決めたのだ。

 理由は知らないけど、消しちゃいけないのなら、別の手を考えるまで。

 今でなくても構わない。いつか、絶対、倒してみせる。

 だから、不敵に笑って。


「また魔法を消されちゃ、たまらないからね」


 使うのは、私のオリジナルの魔法。私が一から作った、私しか使えない魔法。

 原作には、こんな魔法は登場しなかった。


 きっと、私は闇の女神を倒すためにここにいる。そう思った。


 迷いはない。

 もう足も震えていない。

 よく通る声で、凛と言い放つ。




「『封印』」




 白い光が炸裂すると同時に、黒い光も炸裂した。


「アリア!」


 カトリーアが何かを叫んでいる。

 けれど、それに応えることは出来ない。集中しないと、この魔法は完了しない。

 今の私にとって、最高傑作ともいえる魔法なのだ。


「ぐ、ぐわあああぁぁぁぁっ」


 闇の女神が悲鳴をあげる。大地を震わす断末魔。

 同時に、私も、お腹に熱い塊が飛び込んでくるのを感じた。

 真っ黒に燃える、闇の矢だ。


「っ!!」


 身体を抉るような痛みに、顔を歪めた。

 白と黒の光が入り混じる中、私は右の横っ腹を押さえてうずくまる。

 浅い呼吸を繰り返す。


 微かに目を開け、闇の女神が立っていたところを見ると、そこには何もなかった。その奥に、折れた木がただ並んでいるだけだ。


 魔力が尽きた。水も光も、もう体内のどこにもない。

 魔力がないから『魔力移動』も使えないし、治癒魔法もかからない。

 目を閉じる。



 ――ああ、私、死ぬのかな。



 腹をえぐる熱さを抱えたまま、ぼんやりとそう思った。


「アリア!」


 カトリーアの声が聞こえて、またうっすらと目を開けた。


「アリア、血が! お腹から血が出てる!」


 カトリーアがあたふたと慌てている。

 その隣には、殿下とユーリさま。こちらも心配そうな顔で私を見つめている。


「アリア嬢、治癒魔法は……」


 私はゆるく首を振った。

 魔力切れだ。私は使えないし、たとえ誰かがかけてくれたとしても効かない。


「と、とにかく止血だ! 布!」


 ヘレンドさまが、私の腕に布を巻き付ける。

 そこで初めて気がついた。お腹だけではなく、腕や脚にも傷があるということに。

 お腹の痛みと熱さに全てかき消されて気付かなかった。


「アリア嬢、アリア嬢!」


 ユーリさまが必死に呼びかけてくれている。

 けれど、それに応えられる気力も体力も、もう無い。

 私は力無く瞼を閉じた。


「アリア嬢、目を開けろ、アリア嬢!」

「アリア!」


 魔法は成功したのだ。闇の女神は、きちんと『封印』されている。




 だから、大丈夫だよ。

 貴方達を守れたよ。

 私は少し、眠るから。

 身体ももう痛くないや。

 あたたかい。柔らかい何かに包まれているような心地がする。


 お願い、泣かないで。

 貴方が泣いてるのは嫌だ。

 私がつらくなるから。




「アリア、アリア!」


 私は、残っているわずかな力で、口角を引き上げる。

 うまく笑えているだろうか。

 私は大丈夫だよ、と。

 きっと眠るだけだから、と。


 貴方を守れてよかった。

 だって。




「だいすき、だよ」




 それを最後に、私の意識は途切れた。







 昇っていく。

 暗いところへ。

 けれど、光のあるところへ。

 真っ逆さまに落ちるように、昇っていく。





 ――――貴女にはまだ、使命があるわ――――





***



「――ここまでは、あなたの知らない記憶。ううん、()()()()()()()、と言ったほうがいいかしら」


 声がする。聞き覚えのある声だ。でも、誰のものかはわからない。

 ふわふわと、あたたかいところを漂っている。緩やかに上下する意識の塊。

 肉体の重みは感じない。

 熱さも、痛みも、苦しさも、ここには何もない。ただ、あたたかい明るさに包まれているだけ。


「そしてここからが、貴女の覚えている記憶。もう一度、その目で見ていらっしゃい」


 声の主はどうやら、私をどこかへ送り出そうとしているようだ。

 その言葉に押されるように、私はふよふよと旅に出る。

 知らないどこかへ。

 けれど知っているはずのどこかへ。




「――お願い、消さないであげて……――」



 微かな呟きが聞こえた。


お読みいただきありがとうございます。

第二章は次話で完結となります。しかし、物語はまだまだ続きます!

ハッピーエンドをお約束します!


第二章最終話は3月20日金曜日18:00投稿です!

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