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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
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9 魔法を教えて④





 放課後、私達は図書館に来ていた。


「アリアさま、こちらに、こんなにたくさんの恋愛小説が……!」

「カトリーアさま、今日は魔法の本を探しに来たのですよ? 早く魔法の本を探しましょう」

「恋愛小説にはしゃぐカティも可愛いな。普段城の図書館に行くことは少ないから新鮮でいい」

「うお、剣術の本があるじゃねえか!」

「おい、図書室では静かにしろ」


 ……私達は二人で来たはずなのに。なぜ、王太子や側近達までいるのだろうか。ああほら、周りの生徒達が完全に萎縮してしまっている。可哀想に。


「あの、皆さまはなぜこちらに?」

「カティが魔法が苦手な原因がわかるのなら、知りたいじゃないか」

「それに、学園の図書館に一回行ってみたかったんだよ!」

「僕は、ヘレンが暴走しないか見張るためだ」

「んなっ。そんな心配はいらない! だいたい、お前はいつもそう言うが、俺がいつ図書館で暴走した?」

「さっきも剣術の本を見て騒いでいただろう」


 少しは静かにしてほしい。将来国を背負う人間が図書館で騒いでいて大丈夫なのだろうか。


「あの、皆さま、ここは図書館なのでお静かに、ね?」


 私の隣から、優しい注意が飛んでくる。

 さすがカトリーアだ。わちゃわちゃ騒ぐ三人を一瞬で黙らせた。幼馴染というだけのことはある。


「では気を取り直して、魔法学の本を探しに行きましょうか」


 私はそう言うと、魔法の本がある棚へと歩き出す。後ろからついてくるのはカトリーアだけだ。他の三人は、自分の読みたい本でも探すのだろう。少し歩いて目的の場所に着くと、足を止め、本棚を見上げる。

 魔法学園という名前なだけあって、魔法に関する本は多い。本棚まるまる一列分が、水魔法に関する本で埋め尽くされていた。しかも、基礎から国家魔法士レベルの本まである。だがそれでも収まりきらなかったようで、私たちの背後の棚にも、論文集や参考書などが何冊も置かれている。


「この辺りから、よさそうな本を何冊か選びましょう」

「具体的にはどんな本なの?」

「そうですね、絵が多いとイメージに繋げやすいので、絵が描かれている本を。わかりやすい初級のものがあればいいのですが」

「わかったわ」


 絵が描かれている本は高価だ。印刷の技術があるとはいえ、やはり複雑な絵の印刷は大変なのだろう。しかしこの図書館には、絵入りの本も多くありそうだ。

 十数分後、私達は二つ並べた椅子に座っていた。目の前には、机に積まれた三冊の本。絵のある本の中でも、大きくて見やすいものを集めた。


「カトリーアさま、こちらをご覧ください。ほら、『渦中』は真ん中に氷の棒が描かれていますよね」

「本当ね! じゃあ、これをイメージすれば、私も『渦中』ができるようになるのね」

「あと、カトリーアさまの場合は、それに加えて渦の勢いを少し弱めた方がいいかと。たぶん、渦の方に集中し過ぎているのだと思います。放出の時も、渦の勢いがかなり強かったので」

「まあ、そうだったの。自分では全然気づかなかったわ。アリアさま、ありがとうございます。また今度試してみるわ」


 嬉しそうにカトリーアは微笑んだ。




 その後も、いくつかの水魔法のイメージについて指導した。

 カトリーアは理解が速く、とても教えやすい。一時間ほどで、主要な魔法の解説が終わってしまった。


「今日はこのくらいにしておきましょうか。それにしても、カトリーアさまは本当に飲み込みが速くて助かります」

「こちらこそ、教えてくださってありがとう」


 そう言って微笑んだ後、カトリーアは目を輝かせた。


「では、特訓も終わったことですし、私は恋愛小説を見てきますわ!」


 ぱたぱたと奥の本棚へ駆けていくカトリーアを見送って、私はふうと溜息を吐いた。

 さて、私も魔法学の本を見てこよう。ここには、領地のお屋敷にはなかった希少な本や難しい本も多くあるから、どれから読もうかわくわくする。

 魔法学の本の棚の前に行き、光魔法の本を手に取りぱらぱらとめくっていると、王太子がこちらへ歩いてきた。手に持っていた風魔法の本を向かいの棚に戻すと、真剣な面持ちで口を開く。


「アリア嬢」

「はい……?」


 何を言われるのだろうか。私は何かしただろうか。心当たりが全くない。

 思わず身構えると。


「カティと仲良くしてくれて、ありがとう」

「へっ?」


 予想外の言葉に、間抜けな声が出てしまった。

 意味がわからずぱちぱち瞬きをしていると、王太子が言葉を続ける。


「僕らに話しかけてくる人は、ほとんどが身分や肩書きに媚びる人ばかりだから、アリア嬢のように、裏表なく接してくれる人は珍しいんだ。よければ、今後もカティと仲良くしてくれると嬉しい」


 王太子は、どこか困ったような、それでいて寂しそうな、悲しそうな笑みを浮かべていた。その表情を見て、一瞬だけ言葉に詰まる。


「……私に、裏表がないと、どうして思われたのですか?」

「話すとだいたいわかるんだ。何かしら隠している思いが、うっすらとだけどね。でも、アリア嬢からは、何も感じなかった。ヘレン、ユーリと同じように、下心なく接してくれてると思ったんだ」

「巧妙に隠しているだけかもしれませんよ」

「僕だってだてに十四年も王族やってない。それに、こうやって話をしても全く動揺していないことが何よりの証明じゃないかな」


 幼い頃から、ずっと周りの計算や下心にさらされて育ってきた。それはどれだけ辛かっただろうか。どれだけ孤独だっただろうか。

 彼らは、単なる登場人物ではない。現実に生きている、一人の人間なのだ。


「そうですね。確かに私には出世願望とかはないので、下心はありませんね」

「それに、僕達とも臆さず話してくれる。そういう人は、本当に少ないんだ」


 確かに、うちは伯爵家の中では家格は高い方だが、公爵家や王族と比べると、やはりかなり低い。しかもヘレンドさまの辺境伯家は、伯爵という名前は同じだが侯爵家と同じ扱いを受けている。普通の伯爵家の人間であれば、まず身分差に怖気付くだろう。


「すみません、ご無礼でしたよね……」

「いい。学園は平等だ。だから、これからも、カティと仲良くしてやってほしい。昔から、なかなか同性の友達ができないと悲しんでいたから」


 殿下の声は、カトリーアのことがどれだけ大切かを物語っている。殿下の瞳は真剣な色をしていた。

 その瞳を見つめて、私は頷く。


「もちろんです。私でよければ、喜んで」


 そう言うと、殿下はふわりと笑った。


「ありがとう」


 世のご令嬢方を次々と保健室送りにしそうな笑顔。大切な人を想う心が、その笑顔を一層輝かせているのだろう。


「愛されてますね」


 ボソッと呟いた声は、誰にも届かない。

 思えば、最初から彼らの言動や展開は『まじらぶ』原作のストーリーとはかけ離れていた。関係ない世界なのではないかと思ってしまうほどに。

 けれど、それも考えてみれば当たり前のことで。私も彼らも、この世界で自分の意志を持って生きている。一つでも掛け違えられたボタンがあれば、当然、その後の流れも変わってくる。

 そしてそのボタンが私である可能性は、非常に高い。例えば私が記憶が戻って早々に領地に引き篭もったこととか、ラティーアの領地内どころか隣の領地まで魔物を一掃してしまったこととか、新しい魔法をあれこれ生み出していることとか。それが、これまでの物語に僅かでも影響を及ぼしているのだとすれば。

 そうでなくても、ここは現実だ。目の前の彼らが意志を持って生きている以上、ストーリーが変わっていても何ら不思議じゃない。


お読みいただきありがとうございます!


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