83 同じ想いを胸に③
カティ視点です。
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「『渦中』!」
カトリーアは両手を前にかざして叫んだ。
迫り来る魔物の群れに、次々に魔法を撃ち込んでいく。
(アリアに魔法を教わっていて、本当に良かったわ。私がこうして魔法で戦えるまでに上達したのも、全部アリアのおかげ)
そう思うと、悪役令嬢に転生したことや、理由はわからないがラギリスが溺愛してくることにも感謝したくなる。
自分が転生し改変した過去のおかげで、そしてアリアも転生していたおかげで、今の関係を築けているのだから。彼女のことは、姉妹とか転生仲間とかそんなことは関係なしに、大切で大好きな大親友だと思っている。
そしてきっと、彼女もそう思ってくれている。
(だから私達は、生きて、魔物に勝利して、また王都に遊びに行ったり領地に行ったりお茶会をしたり、平穏な日々を満喫するの)
決意は固い。自分の足元から伸びる道を埋め尽くすほどの魔物を前にしても、僅かな揺らぎすら見せない。
カトリーアはアリアと同じ水属性だ。しかし、アリアほどの魔力量を持たず、アリアほどの技術を持たない。それどころか、魔法科実技は依然として苦手科目に分類されている。
それゆえに、カトリーアが魔法を連続して使うときには、数秒のタイムラグが生まれるのだ。
「『降水』!」
自分にできる最大出力で、雨を降らせる。大粒の雫が、真っ黒な魔物たちを次々に地面に叩きつけ、塵へと変えていく。
(私だって守れる。アリアやラギさま、ユーリさま、ヘレンを守るために。私の大事なもののために、戦うことができる。そのための力が、私にはある)
「カティ!」
ラギリスの声とともに、爆風がカトリーアの真横を駆け抜けた。その勢いを保ったまま魔物にぶつかり、かと思えば中型の魔物を何匹も巻き上げ、空中高くから地面へ叩きつける。
カトリーアが魔法を使えない数秒間も、魔物は速度を緩めることなく近づいてくる。目の前で倒れた仲間の体など、気にする素振りも見せない。
その数秒の間、カトリーアが自分の身を守る術は、ポケットの中の釘だけだ。釘には、アリアの手を借りながら込めた魔力が満タンに入っている。しかし釘を使うのは最終手段にしようと、事前にみんなで話していた。その代わり、自分が魔法を使えない間はラギリスが風を操って助けてくれることになっている。カトリーアはラギリスの負担が増えるのではないかと心配したが、本人は「心配いらないよ」という言葉通り、軽々とやってのけてしまった。
カトリーアは、倒しても倒しても現れ続ける魔物をキッと睨みつけた。
一瞬途切れた魔力の流れが回復したのを感じ、次の魔法を発動させる。
「『発射』!」
この魔法もアリアに教わったんだったな、と懐かしく思いながら渾身の一撃を放った、その時。
「ユーリ?!」
ヘレンドが叫んだ。
何事かと振り返ると、広場の中央で、ユーリが倒れている。
「『製氷』!」
迫り来る魔物との間に氷壁を作った。アリアほどの強度は出せずとも、それなりの分厚さを持たせたその壁を壊すのには時間がかかるだろう。しばしの足止め程度には使える。
魔物が壁を壊そうと衝突を繰り返しているのを確認してから、ユーリに駆け寄る。
「ユーリさま!」
ラギリスも、魔物を巻き込んでごうごうと音をたてる渦をいくつも放置して走り寄ってきた。
ユーリのそばに膝をついて手首を取り脈を測っていたヘレンドが、苦い顔で呟く。
「大丈夫だ、脈はある。出血もしていない。魔物に吹っ飛ばされたみたいだ。喋れるか、ユーリ?」
「ああ……」
ユーリは閉じた瞼を少しだけ開き、呻くような声を出した。
「痛いところは?」
「腹だ……猪に突かれた。あと、打った背中が痛い……」
「わかった。とりあえず、そこで安静にしていろ。魔物は俺達で片付ける」
「すまない……」
「謝らないの、ユーリ。君は何も悪くない」
ラギリスは心配そうに言い、次の瞬間には表情を引き締めた。戦う者の顔だ。
同じく顔を引き締めたヘレンドとおろおろしているカトリーアに向かって素早く指示を出す。
「作戦変更。ヘレンは引き続き攻撃。カティも広場の防御を気にせず、攻撃に集中して。アリア嬢ならこちらからの援助がなくても多分大丈夫だ。ひとりで頑張ってもらうことにはなるが」
「ええ。そこは私も信頼してるわ」
カトリーアは頷き、深呼吸をした。
動揺して中空を彷徨っていた手が、すっと体側に戻ってくる。
「僕はユーリを守りつつ、攻撃の手助けをするよ。風は遠隔操作しやすいから、離れたところからでも攻撃できる。三人の中では僕が適任だ」
「そうだな。任せた」
「早くアリアが来て、治癒魔法をかけてくれることを願いましょう」
「それまでは俺達で持ちこたえるぞ!」
「ああ」
「もちろん!」
三人は笑顔で頷き合い、それぞれの持ち場へと散っていく。
必ず守ると、同じ決意を胸に抱いて。
それから、アリアが異変に気づいて戻ってくるまで、あまり時間はかからなかった。
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