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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
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8 魔法を教えて③


「他の魔法もできますか?」

「ええ」

「どれか、二つほど見せていただいても?」


 カトリーアはこくりと頷くと、手のひらを空に向けた。


「『降水』」


 言い終わるが早いか、ざああっと雨が降り出す。私達を避けて地面を濡らす水滴は見事だ。

 カトリーアが手を下ろすと、雨が止んだ。


「今のは、私が一番得意な魔法なの」


 そこで一度言葉を切った。


「簡単だし……地味、でしょう?」


 俯きがちに放たれたその言葉は、いつも凛と、堂々としている彼女ばかりを見てきたからか、少し意外に感じられた。

 次期王妃として、国民全ての頂点に立つ存在として、目立たなくてはならない。周りに埋もれてはいけない。そう言い聞かされてきたのだろう。


「いいえ。むしろ、『降水』は素晴らしい魔法だと思います」

「えっ」


 カトリーアが顔を上げ、目を僅かに見開く。


「だって、雨を降らせられるんですよ? 応用すれば虹も作れますし、冬には雪だって可能です。雪遊び、楽しいじゃないですか」

「ふふっ。それは確かにそうね」

「それに、『降水』は干ばつが起こりやすい地方の農民達にとても重宝されているんです。雲の上のような存在の王妃さまが自分たちと同じ魔法が得意だと知ったら、民も親近感が湧くのではないでしょうか。貴族にとっては必要ないものかもしれませんが、彼らにとっては、必要不可欠な魔法なんですよ。初級の魔法の方が、生活の役に立つものが多いですからね。初級魔法が得意なのも、実用的で良いんじゃないですか。まあ、王妃様になったら使わないかもしれませんが」

「アリアさま……」

「それで、結局何を言いたいのかというと、得意不得意を恥じる必要なんてないと思いますよってことです。誰だってあるものですから」


 そう言って、にこっと笑う。

 そういえば、これは前世でもらった言葉だったと思い出す。優しい彼と大好きな姉。前世で親しかった二人に、こっちの世界で幸せにやっているよ、と伝えたい。それができないことが、今になって、ひどく悲しいと思えた。


「ではカトリーアさま、得意じゃない魔法も見せていただけますか?」

「ええ……。笑わないでね?」


 カトリーアは、今度は両手のひらを前に向けた。

 それを見て、憶測が確信に変わる。やはり、彼女が苦手なのは。


「『渦中』」


 細長い水の渦が、壁に向かって一直線に飛んでいく。

 だが。


「あっ」


 その渦は、壁にあたる前に、パキンと音を立てた。形が崩れ始め、やがて消える。


「どうしても、こうなってしまうの……」

「カトリーアさま」


 先ほどの確信を、彼女に問う。


「イメージする時、渦巻きをイメージしていませんか?」

「ええ」


 『渦中』はただの渦ではない。中心に、氷の柱がある。それによって殺傷力を上げる、攻撃魔法だ。


「今のは、詠唱によって柱ができていますが、カトリーアさま自身が氷をイメージできていないため、すぐに崩れています。そのため、『渦中』として成り立たなくなり渦が消えているのです」

「そうだったのね。私、イメージが苦手で……」


 昔の私と同じだ。そしてあの時、私が編み出した練習法は……。


「カトリーアさま」


 瞳をまっすぐ見つめて、告げる。


「図書館に行きましょう」

「えっ? 魔法の特訓をするんじゃ……」

「はい。どうやらカトリーアさまは、とりあえずイメージから始めた方がいいと思ったので」


 課題が明確になると、教えやすい。魔法の感覚や技術について語れないのは少し残念だが。


「本で、魔法の見た目について勉強しましょう!」


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