66 ラブハプニングなんて起こらないっ!①
***
「アリア! 今年も花祭りに行きましょう!」
五月は、カトリーアのそんな一言から始まった。
もちろん大賛成だ。
お昼休みの教室の一角。いつものメンバーで集まって雑談をしている時のことだった。
「花祭りか。この間父上に相談したら、最近魔物が増えているから護衛を増やして行けと言われたんだよね」
「最近、出没件数が増えているからな。ほとんどは人間に危害を加えない個体らしいが、対策しておいて損はない。被害報告もゼロではないしな」
「うちの父上も度々騎士団の仕事で討伐に駆り出されてるもんなあ。実際、団長が行かないとならないクラスの魔物も出没してるわけだし」
殿下達の言う通り、魔物は、ここ数ヶ月は人間の多い街中にも出没するようになった。
学園は国家魔法士である先生方がいるから魔物が出ても即対応可能だが、街中ではそうはいかない。王城所属の国家魔法士は多忙で、出動要請にすぐに応じられる人は少なく、魔物の討伐はおもに騎士団の仕事になっている。
「討伐部隊の中でも、怪我人が出ているとか……。心配よね」
カトリーアが沈んだ声でぼやく。
魔物が増えている上に、強さも以前に比べてレベルアップしている。世界は、『まじらぶ』に書かれていた通りに進んでいる。
私もカトリーアも、これから何が起こるかも、なぜ魔物が増えているのかも知っている。けれど、それを他の人に漏らすわけにはいかない。「私には前世の記憶があって、その前世でこの世界の話を読んだから、今何が起こっているのかも、この先何が起こるのかも知っているの」なんて言っても、頭がおかしくなったと思われるだけだ。誰にも信じてもらえないだろう。
それに、知っているからといって、対策できるわけでも、魔物を殲滅できるわけでもない。今すぐに解決できるだけの力は私には無いのだ。ただ無力に、魔物が増えていくのを見守るだけ。決戦のその時をじっと待つことしかできないのだから。
その代わり、私はその時になったら、自分で対処する。誰も巻き込まない。一人の犠牲も出さない。
最終決戦が起きることを前から知っていたのなら、負けるわけにはいかないのだ。原作では勝った戦いなのだから、勝ち方も知っている。一撃で、とはいかなくとも、弱点をついていけば、いつかは倒れる。
「まあ、でも魔物の心配ばかりしてたらどこにも行けないからな! せっかくの花祭りなんだし、楽しもうぜ。ラギには護衛がつくし、どうせカティもユーリも、実家から護衛がつけられるだろう。俺は一人でも戦えるし、アリア嬢だって戦闘力は十分だ。魔物に遭遇しても何とかなるさ」
「お前はいつも楽観的だな。襲われた時の対策くらい、きちんと考えておけ」
「はいはーい、わかってますよぉ。まったく、ユーリはいっつも心配性なんだから」
「おい、やめろ」
調子にのってユーリさまの脇腹をこづいたヘレンドさまは、ユーリさまに嫌そうな顔をされてもニヤニヤ笑顔を隠さない。ユーリさまをこづく腕を加速させる。
「うりゃうりゃっ」
「あの、ヘレンドさま、そろそろやめておいた方が……」
ああほら、ユーリさまのお顔がどんどん怖くなっていく……。まるで私の研究部屋を覗いた時のハンナのような……。
「やめろって言っているだろう!」
雷が落ちた。
「……まるで般若ね……」
カトリーアが私の隣で呟いたその言葉は、きっと私にしか聞こえていない。
「うちの侍女も般若みたいな顔するんだよね……」
「ああ、ハンナさん? 貴女、あの方との相性、良さそうよね。きっとユーリさまとも相性良いわよ」
「な、なに言ってるのカトリーア?!」
カトリーアがうふふとイタズラっぽく笑う。
「あら、そこは素直に喜んでおきなさいよ」
「いやいや、ハンナとユーリさまに共通点とか無いから! 全然違うから! ユーリさまの方が百倍優しいから!」
「慌てすぎよ。それに、ユーリさまが優しいですって? へええ、貴女は彼の優しいところが好きなのね」
「どーだっていいでしょ!」
「ま、花祭りでラブハプニングが起こることでも願っておこうかしら。貴女達の仲が進展するように、ね」
「そ、そんなことしなくていいからっ!」
この花祭りが想像もしていなかったような一日になることを、この時の私はまだ知らない。
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