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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
6/68

6 魔法を教えて①



***



 翌日。

 今日は待ちに待った、授業が始まる日だ。前世でも学校はあったが、当然ながら魔法の授業はなかったため、転生してからはとても楽しみにしていた。

 私達は、五人揃ってグラウンドの一角にある魔法訓練場に来ている。白い煉瓦の壁に囲まれた広い正方形の空間に、クラスメイト四十人が集まり、かれこれもう五分ほど駄弁っていた。

 そこに、魔法科担当の男性教師が入ってきた。

 やっと、待ちに待った授業が始まる。最初はどんなことをするのだろうか。


「授業を始めるぞ、全員並べー」


 その声に、気ままに話していた生徒達が座席の並びで整列する。


「よし、揃っているな。俺は魔法科の実技担当のウォン・ラザードだ。これからよろしく」


 全員が位置についたのを確認して、教師が話し始めた。サバサバした、でも熱量を感じる話し方。一言聞いただけで、好きなタイプだと思えた。


「今日は、すべての魔法の基本、『放出』からだ。やり方は簡単だ、胸の前で指を組んで魔法の見た目をイメージしながら『放出』と唱えればいい。やったことのある奴がほとんどだろうが、魔力量がわかるし、魔法制御の訓練にもなるから今日はこれがメインだ。それではまず、君たちの実力を見させてもらう。全力で複雑なものをやれ!」


 生徒達が広がると、ウォン先生は端から一人ずつ『放出』を見ていく。私は席が反対側の角なので、披露するのは一番最後になる。


 『放出』は、それぞれの属性の色の光を発した後、魔法が形となって現れる。各属性の色は、火が赤、風が緑、水が青、そして光が白。本の中じゃないホンモノの魔法に目頭がじんとなり、慌てて気を引き締めた。

 これまで私の周りには風属性の人がいなかったため、王子やクラスメイト達の風魔法は新鮮で、見ているのが楽しかった。度々泣きそうになるのを堪えながら、じっと彼らを見つめる。

 それでも、小さなつむじ風や風に巻き上がる木の葉を見ていると、どうしても胸がいっぱいになってしまう。

 堪えきれなかった涙が一筋流れた頃、隣の席のカトリーアの順番が来た。彼女が終われば、次はやっと、私の番だ。

 カトリーアが胸の前で指を組む。その動作の優雅さに、皆が見惚れるのがわかった。


「『放出』」


 その瞬間、カトリーアの全身から青い光が発せられた。

 瞬く間にその光は小さな水の粒となり、カトリーアの周りを公転し始める。

 単純ながらも、とても綺麗な魔法だった。どこからともなく、感嘆のため息が聞こえてくる。

 カトリーアが目を開けると、水の粒は全て弾けて消えた。


 皆が感心している中、その関心を一身に集めている本人は俯いている。

 何か、納得がいかないことでもあったのだろうか。


「次。えー、アリア・ラティーアか。君はたしか、二属性の使い手だったな。両方やってみろ」


 様子に違和感を覚えたカトリーアを横目に、私のテンションはぐんぐんと上がっていく。


「はい!」


 皆と同じように、胸の前で指を組んだ。毎日のように研究と練習を重ねていたから、本当はこんなことしなくてもできるのだが。

 目を閉じる。

 さて、どんな見た目にしようか。


 数秒後。


「『放出』!」


「「「わぁ……!」」」


 場は一瞬静まり返った後、うっとりとしたため息に包まれた。

 私がしたのは、ウサギの形をした水の粒が、元気よく私の周りを螺旋状に跳ねながら上っていくイメージ。さらにその外側を、幾つもの細かい光の粒がキラキラと輝きながら降り注ぐという、光と水を両方使った魔法だ。

 二つの属性の同時使用に加えて、ウサギや光の粒の数も多い。さらに魔法の運動の方向が交差するという、『放出』でできる中ではかなり複雑な魔法だ。


 魔法で重要なのはイメージ。複雑な魔法も、原理がわかって魔力とイメージがあれば、あとは魔力を操作する技術が必要なだけだ。

 とはいっても、その技術の修得が最も難しいのだが。


 魔法は、複雑であればあるほど、また、大きければ大きいほど難易度が高くなり、必要な魔力の量も増える。私が見せた『放出』は、優秀な三年生くらいの複雑さだった。ちなみに学園は三学年しかないので、今の魔法は学園を卒業できてしまうレベルである。


 どうよ、私の六年の研究と努力の成果は。まだ半分も発揮できてないけど。

 この六年間、『放出』の練習は毎日していたため、大きなものも、複雑な制御もお手のものだ。『放出』で雨を降らすことも、この訓練場くらいの広さであれば容易い。


「片方ずつでよかったんだが……」


 先生は呆れつつも、楽しそうな目をしている。いや、楽しそうというより、これは美味しそうな獲物を見つけた肉食動物の目だ。


「ラティーアさん、すごいわ!」

「あんなに複雑で大きな魔法が使えるなんて!」

「光魔法って、初めて見たけど綺麗だな!」


 褒められると、少しこそばゆい。


「静かに! 残り時間は、各自魔法制御の練習だ! 質問があれば何でも俺に聞いてくれ!」


 騒いでいた生徒たちが、一瞬で静かになる。貴族だからなのか、真面目な人が多いクラスである。

 前世ではまだ中学二年生の年齢なのに、こんなにも静かに授業を受けられるとは。前世とは大違いだ。こっちの世界の先生の方が、授業がしやすそうである。

 授業はあと十分ほど。

 もう一度『放出』をしようと目を閉じると、誰かに肩をつんつんとつつかれた。


 目を開けて、つつかれた方を見る。

 カトリーアが胸の前で両手を組んで、こちらを見つめていた。


お読みいただきありがとうございます!

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