表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/124

59 たったふたり①



***



 実技試験が終わり、冬休みがやってきた。

 年末年始は、生徒はみんな帰省する。私も、王都の屋敷に帰った。普段は領地にいる執事や侍女達も集まり、久しぶりにみんなで豪勢な料理とお喋りを楽しんだ。

 そして短い冬休みが明け、少し経った。


 二月に入ると、気温はさらに下がり、池の水も凍るほどの寒さが毎日続いている。

 私の魔法研究は、着々と進んでいた。第二段階も最終局面に入り、あとは細かい調整や確認をするだけだ。それが終われば、第三段階。私は、この第三段階を来年の夏前までに完成させる計画を立てている。

 世界が『まじらぶ』通りに進めば、魔物との大きな戦いが起こる。それが、来年の夏休み前なのだ。


 私は、これまでよりさらに研究に没頭するようになった。食事の時間になっていることに気づかなかったり、徹夜して研究したりすることも増えた。

 そんなある日、ハンナがとうとうキレた。


「お嬢様! お肌と髪に悪いので早く寝てくださいと、何度言ったらわかるのですか!」


 ……ごもっともです、はい。


「徹夜なんて、脳や身体にも悪影響しかありませんよ! 食事だって、集中しているからといって抜いてはなりません! 魔法を使うと、エネルギーを消費するんです! 若いお嬢様は気づいていらっしゃらないかもしれませんが、御身は相当お疲れですよ! こんな若いうちから、身体に負担をかけてはなりません!まだ十五歳でしょう」


 ……返す言葉もございません、はい。


「それにお嬢様、明日からテスト期間に入るのでしょう? 前回の数学のあの点数、ハンナは忘れておりませんよ。……お嬢様、まさかとは思いますが、試験の存在を忘れていたなんて言いませんよね?」


 ……かんっぜんに、忘れておりました……すみません……。


 最近、ハンナがさらに般若のようになっている気がする。

 まあ、すべて私が悪いのだが。





 そんなこんなで、私は今、図書室にいる。

 昨日、ハンナにこっぴどく叱られたからである。


 図書室には、他にも勉強している人が多くいた。皆、真剣な顔で机にかじりついている。衣擦(きぬず)れの音ですら、たてるのを(はばか)られるほどだ。

 その中に、知り合いを見つけた。

 途端に心臓がとくとくと脈打つ。

 彼の隣の席は、ちょうど空いている。私ははやる胸をおさえ、その椅子を引いた。


「お隣、失礼してもいいですか。ユーリさま」


 声をかけると、彼は顔をあげた。


「ああ。どうぞ、アリア嬢」


 その声音が耳を撫でるだけで、私の心は舞い上がる。


「ありがとうございます」


 私は、椅子に腰掛けた。

 彼の肩が、とても近くにある。こんな距離は、秋、裏庭で読書をした時以来だろうか。

 心臓がうるさい。隣の黒髪を、肩を、ペンを持つ筋張った手を、意識してしまう。ちらちらと、目で追いかけてしまう。


 ――だめだだめだ。集中!


 こんなんじゃ勉強になりやしない。

 私は頭を振って、雑念を心から追い出した。

 そして、数学の教科書とノートを開く。ペンを握り、問題文を読み始めた。





 数分後。

 私はペンを握ったまま、数分前と変わらない姿勢で固まっていた。


 ―― 何もわからない。


 目の前には、見覚えのある記号の羅列。

 それらを授業で習ったのは確かだ。板書をした記憶もある。意味も使い方も、ちゃんと覚えている。

 なのに問題が解けない。解くための手がかりが、何も思い浮かばないのだ。


 真っ白なノートを見つめて硬直していると。


「……アリア嬢」


 ユーリさまが小声で話しかけてきた。


「違ったら申し訳ない。だが、先ほどからずっと固まっているようだが、もしかして、解けないのか?」

「情けないことに……はい……」

「情けなくなどない。これからたくさん演習すれば、きっと解けるようになる。だから、その……だな」


 ユーリさまは、言いづらそうに俯く。

 そして、さらに小さな声で言った。


「俺が、教えようか」

「いいのですかっ?」


 周囲の生徒達が、一斉にこちらを向く。

 しまった、つい声が大きくなってしまった。


「教えていただけるのならぜひ、お願いしたいです!」

「ああ。どの問題だ」

「えっと、教科書の、この問題なんですけど……」


 ユーリさまにも見やすいように教科書の向きを変えると、彼は覗き込むように顔を近づけた。

 爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。ユーリさまの香水の匂いだろうか。

 落ち着いていた心臓が、またとくとくと脈を打ち始めた。ユーリさまの顔が、とても近くにある。


「ああ、この問題か。これなら、――」


 そう言いながら彼は顔を上げ、


「っ!」


 ばっと後ろにのけぞった。つい反射的に、というふうだ。

 その頬はほんのりと赤い。


「す、すまない、近づきすぎた」

「だ、だいじょうぶですっ」


 私も、顔が熱くなる。


お読みいただきありがとうございます!

次話は1月5日(月)18:00に投稿します。更新通知が来るので、ぜひブックマーク登録をしてお待ちください!


「面白いな」「続きが気になるな」と思ったら、ブックマーク、評価(☆)、リアクション、感想、イチオシレビューをよろしくお願いします!作者が飛び跳ねて喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ