57 魔法練習①
「もうすぐ実技試験ねぇ」
その日は、カトリーアの憂鬱そうな一言から始まった。
朝晩の気温が下がり、真冬がもう目の前まで来ている季節の朝休み。
「それが終われば短い冬休みで、それが明ければ筆記試験でしょ……。どうしてテストなんてあるのかしら」
「学校に通っている以上、仕方のないことだよ。カティ」
机に突っ伏すカトリーアの隣で、殿下がその頭を撫でながら苦笑している。
「あーあ。実技試験、成功するか不安だわ……。成績が低いと、年末に帰省したとき、お父様が心配するのよ……」
「あぁ、公爵はねえ。『公爵家の人間たるもの!』って言いそう」
「お父様、その台詞そのまんま言うわよ……。はあ……」
「それなら私が教えようか、カトリーア」
カトリーアのどよどよオーラにいたたまれなくなった私は、そうっと名乗り出た。
「アリア! 救世主!」
ガバッと顔を上げて、カトリーアが叫ぶ。
「私そんなにすごい人じゃないよ?」
「私にとっては神様よ! 教えて! 手解きお願いします、アリア様〜」
私の手を両手で握り、涙目で上目遣いをしてくるではないか。
「もちろん、いいよ」
「ありがとうございます、アリア様ぁぁぁぁぁ」
もう半泣きだ。そんなに、実技試験が怖いのだろうか。
「任せて」
「アリア嬢なら安心だな。な、カトリーア」
突然、ユーリさまがにゅっと会話に参加してきた。
「ひゃあぁ?! ゆ、ユーリさま!」
自分の恋心を自覚してからというもの、彼と自然に喋れなくなってしまった。焦って、テンパってしまうのだ。
落ち着け、落ち着け、と毎回自分に言い聞かせているが、それでも心臓は跳ねるわ、頭はぐるぐるするわで大変である。でも、ユーリさまと話すと嬉しくなるし、たくさん話せた日は幸せで、口元がその日一日緩みっぱなしになるのだ。
「あ、ありがとうございますっ。精一杯頑張りますっ」
「ああ。頑張れ」
ユーリさまはそう言うと、私の頭にポンと手を置き、微笑んで、自分の席へと戻っていった。
「――…………?!」
私は突然のことに、その場で固まる。
「罪作りだねえ、ユーリも」と、殿下が呟いた。
***
「きゃあああああぁぁぁっ?!」
カトリーアの甲高い悲鳴が、校舎の窓をビリビリと震わす。
中庭の真ん中には、頭からつま先までびしょ濡れになったカトリーアが棒立ちしていた。
「ちょ、何をどうやったら出した水を全部かぶるわけ?!」
放課後の中庭には、私とカトリーアの二人しかいない。
だから、好きなだけ場所を使えるのだが。
「なんで、広範囲に展開しようとした『水球』が、全部Uターンして自分の方に戻ってくるの?ちゃんとイメージ、できてる?」
「してるのよ! してるんだけど、なぜかこうなっちゃうの! アリア、イメージの参考にしたいからお手本お願い!」
「はいはい……」
お手本を披露するのも、今日で三回目だ。
「『水球』」
刹那、私を中心に、同心円状に、丸い水の玉が飛び出した。そのまま、地面と平行に飛んでいく。そのうちのいくつかは木にぶつかり、いくつかは校舎の壁や窓にぶつかり、パシャン、パシャンと音をたてて消えた。
ついでに、無詠唱で『陽光』を使い、カトリーアを照らす。今は冬だ。びしょ濡れのままでは、風邪をひいてしまう。
「わっ、あったかい! これ『陽光』?ありがとう、アリア」
私は、ほとんどの魔法を無詠唱で行使できるようになった。噂が立つと面倒なことになりそうなので人前では基本的に詠唱しているが、一人の練習の時には積極的に無詠唱魔法を使っている。
さらに、『物に魔力を込める魔法』の研究もかなり進んだ。今は、金属であれば魔力を込めて、金属を媒介にして魔法を発動させることができる。相変わらず、木剣に魔力を込めることはできないのだが。
それもこれも、ここ数ヶ月の研究と練習の賜物だ。
『物に魔力を込める魔法』について書かれた本は、結局見つからなかった。
だからここまで、ハンナにも手伝ってもらいながら、手探りで進めてきたのだ。それが今、やっと形になってきたところなのである。
「よしっ、私、まだまだ頑張るわ! 今日中に、『水球』の基礎は完璧にしておきたいの」
「試験は、全方位の動く的当てだからね」
「ええ。もっと練習して、的の動きを追いかけられるようにならなくちゃ。気合い入れていくわよー!」
「うんっ」
――私も、気合い入れないと。
『物に魔力を込める魔法』は、まだまだ粗い。確かめなければいけないことが、たくさんあるのだ。
私は、スカートのポケットから、一本の釘を取り出した。これには、ハンナの魔力が込められている。今朝込めててもらったのだ。
ハンナは、いつも私の研究(に使っている部屋の荒らしよう)に文句を言ってくるが、あれでも魔法はかなり優秀なのである。誰かに聞いた話だが、国家魔法士の資格を持っているとか、持っていないとか。本人は自分のことをあまり喋ろうとしないので、確かめたことはない。けれど、私が幼い頃は、ハンナが魔法について色々教えてくれていた。
指先につまんだ釘を見つめる。
「…………『点火』」
釘をつまんだ指先が、ほわりと熱を帯びる。
ロウソクのような、小さな火が釘の先に点いた。
「やった!」
空いている手でガッツポーズ。
『他人の魔力で魔法を発動させる』と『属性の違う魔力で魔法を発動させる』の項目、クリアだ。帰ったら研究ノートにチェックつけておかないと。
「『水球』!」
カトリーアは、集中を途切れさせることなく練習を続けている。目を閉じて、水の球をあちこちにひたすら飛ばしている。
だから、気がついたのは私だけだった。
渡り廊下から、こちらへと歩いてくる人影があることに。
あけましておめでとうございます。2026年もまほオタをよろしくお願いします。
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