56 元・姉が詰め寄ってきます
とある秋の日の午後。
私とカトリーアはお茶会をしていた。場所は食堂。なぜなら……
「わあっ、この栗とチョコのモンブラン美味しい!」
「こっちのキャロットケーキもよ。まさか、にんじんをそのままクリームに練り込むなんて想像もしていなかったわ。案外甘いのね」
秋の限定ケーキの期間がやってきたのだ。
春は花をあしらった可愛らしく華やかなケーキだったが、秋は落ち着いた雰囲気で温かみがある。
「ねえカトリーア、ひときれ交換しよ!」
「いいわよ。私もモンブラン食べてみたいわ」
「やった! じゃあありがたく、いっただっきまーす!……んん、おいひい!」
オレンジと白のクリームの載ったスポンジケーキを頬張る。
優しい甘さが口の中でふわりと香った。
「あら、モンブランも美味しいわ! 特にこの栗の風味、最高ね!」
目の前のカトリーアも瞳を輝かせている。
やっぱりカトリーアは可愛いなあ、と見つめていると。
「どうしたの、アリア。そんなに見つめて」
「いやー、やっぱりカトリーアって可愛いなと」
「そりゃあ悪役令嬢だもの。可愛くなきゃつとまらないでしょう。それに、それを言うならヒロインである貴女だって」
「自分の顔は、もう見慣れたから」
「私もそうよ。それにしてもこのケーキ、本当に美味しいわね」
「うん。幸せ……」
二人して、とろけた顔をする。
ふいに、カトリーアが顔を引き締めた。今すぐにでも溶け出しそうな顔をしていたのに、一瞬で固体になったかのようなかっちりした目つきになる。
「そうだ。私、アリアに訊きたいことがあったのよ」
「ん、何?」
カトリーアは、こほん、と咳払いをひとつして、
「ズバリ! 貴女、ユーリさまとはどこまでいっているの?」
――特大の爆弾を投下した。
「ほへぇっ?!」
ちょうど紅茶を口に含んだところだった私は、吹き出すのを寸前でこらえる。
「なななななな、なん、何言ってるのカトリーア?!」
「え、だって貴女、ユーリさまのこと好きなんでしょう」
「いいいいいやいやいやいやいや、好きじゃないよ?!」
自分がものすごく動揺しているのがわかる。
「動揺しているのが証拠よ。貴女、体育祭の日以降、彼と話したでしょ」
「そりゃもちろん」
「その時、ドキドキしなかった? うずうずしなかった? 胸がきゅうううぅってならなかった?」
「し、してないよ?!」
「もっと近づきたいなあって思わなかった? 離れたくないなあって思わなかった?」
「思ってない!」
「偶然ぶつかっちゃって、焦ったことは? うまく喋れなくなったことは?」
「ないないないないない!」
「あるでしょ?」
「ないよ!」
「ユーリさまのこと好きでしょ」
「全然?!」
「ドキドキするでしょ」
「しないよ!」
「いいえ。私は断言するわ。してる!」
「してない!」
「してる!」
「しない!」
「嘘よ!絶対してる!」
心当たりがないと言えば嘘になる……気もする。
確かに、あの秋の日、裏庭で。
心臓が高鳴っていたのを覚えている。肩がぶつかって、焦ってしまったのを覚えている。会話がぎこちなくなってしまったのを覚えている。
けれど、私はそれらを、恋と認めるわけには――
「貴女、恋してるわよ」
恋。
その文字は、心にスッと入ってきて、もやもやしていた思考をすとんとまとめてくれた。
「………………」
悔しい。
認めてしまった。ずっとそらしていた目で、正面から見てしまった。
この気持ちを、恋と呼ぶのだと、私はとっくに知っていた。
「……認める。……私は、ユーリさまが、好き……」
口に出すと、しっくりきた。
「好き。好き。好き……」
「やっと認めた? だから言ったでしょう」
「カトリーアに負けたみたいで、ちょっと、悔しい……」
「私は貴女の姉なのよ。妹のことなんて、お見通しなの」
もやもやしてまとまりがなかった感情に名前がつくと安心するのはなぜなのだろう。
『恋』という言葉の威力は絶大だった。
『恋をしない』という決心と意地を捨てさせてしまうほどに。
この温かい想いを大事にしたいと思ってしまうほどに。
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