53 秋の裏庭②
「サリヴィア先生?!」
「あら、ラティーアさん。何か、探し物?」
先生は柔らかく微笑んだ。しかし、その顔には疲れが見える。研究が忙しいのだろうか。
「珍しいですね。先生方はあまりこの図書室には来られないものだと思っていました。もっと大きな王立図書館とか、本屋さんや貸本屋さんに行くものだと……。なんなら、ご自分で本も書かれていますし」
「私も普段はそうなのだけれどね。少し、基本から詳しく調べなおしたいことがあって」
先生はそう言って、片手に抱えた本を指先でつつく。
「光魔法、ですか?」
「ええ。私は使えないけれど、あなたが入学してきて、もう少し詳しく調べてみようと思ったの。知識が無いわけではないけれど、何か見落としていることがあれば、属性によって教育に差が出てしまうかもしれないじゃない」
そして遠くを見つめるような瞳で付け足した。
「個人的に研究したいこともあるしね……」
「今されている研究は、光魔法についてなのですか?」
私が尋ねると、先生は唇に立てた人差し指を当て、片目をつぶる。サリヴィア・フラン先生は、そんな少女のような可愛らしい仕草が似合う顔立ちと雰囲気を持つ人だった。
「それは秘密」
ふふっと微笑む。優しいながらもそれ以上こちらが言葉を続けられないような、有無を言わさぬ空気が漂う。
「それでラティーアさんは、どんな本を探しているの?」
先生に訊かれて、答えてみても良いかなという気になった。
サリヴィア先生は魔法科が専門。もしかしたら、私の探している本を、なんなら魔法を、知っているかもしれないと思ったからだ。
「『物に魔力を込める魔法』について書かれた本を探していて……ですが、全然見つからないのです。何かいい本をご存知ではないですか?」
「…………知らないわね。あっ、でも、私は論理や属性の分野が専門だから知らないだけで、実技のウォン先生なら分かるかもしれないわ。ラティーアさんは、その魔法を使ってみたいの?」
「はい。私、もっともっと、魔法が強くなりたいんです」
「それはどうして?」
「大切な人達を、守りたいから」
「そう。魔法科の教師としては嬉しい言葉だけれど、危険なことはしないように。もちろん魔法で悪さをするのも駄目よ」
「わかっています」
「ならよろしい。じゃあ、私はそろそろ行くわね。貴女のやりたい事、聞けてよかったわ。頑張るのよ」
「はい! ありがとうございます!」
サリヴィア先生はニコッと笑うと、貸出カウンターの方へと歩いていった。
「さて、探すぞ!」
小さく声に出して、気合いを入れた。
そして、本棚にある本のページを片っ端からめくっていく。
魔法全集第六巻、わかりやすい上級魔法、キミにもできる上級魔法、簡単上級、上級魔法大全、A級魔法集……。
けれど探せど探せど、お目当ての魔法は見つからない。
既に読んだことのある本も読んでいくが、やはり載っていなかった。
「やっぱり、司書の先生に訊くしかないか……」
とりあえず、他の試したい魔法が載っていた本を数冊抱えて、カウンターへと向かう。
流石に重い。筋肉痛がなくなっても、腕が痛いほどだ。あまり長時間抱えていると、腰も痛くなりそうだ。
さらに今は足首を痛めているので、歩き方が不安定になっている。だから余計に、体の他の場所に負担がかかっているのだろう。
痛みを我慢しつつ、やっとの思いで貸出カウンターに辿り着いた。さっきまでいた本棚からここまでの距離はさほどない。普通に歩ける時は、三十秒もあれば余裕で着く距離だ。けれど今日は一分近くかかった気がする。
――この重さ、寮まで運べるだろうか……。
不安になってきた。
図書館に来ると、いつもいつも、本を借りすぎてしまうのだ。
――残念だけど、『物に魔力を込める魔法』の本を借りるのはまた今度かな。探しておいてもらえるように、今日は司書の先生にお願いだけして帰ろう。
「すみません、貸し出しお願いします」
カウンターに座っている声をかけると、座って手元の本に視線を落としていた女性が、こちらを向いた。メガネをかけた、落ち着いた雰囲気のこの人は、司書の先生。私は入学してから幾度となくこの図書館に足を運んでいるし、何度か書庫から古い本やあまり借りられていない本を出してもらっている。顔馴染みの先生である。
「あら、ラティーアさん。いらっしゃい。今日も重そうね」
先生が苦笑した。私が抱え切れないくらいの本を借りるのはいつものことなので、もう慣れっこである。最初の頃は「大丈夫?持てる?」と心配してくれたが、今では「頑張って運んでね」と、面白がっている空気さえある。
「はい……。つい、あれこれ読みたくなってしまって。あと、また、書庫で探していただきたい本があるのですが」
「いいわよ。どんな本?」
「『物に魔力を込める魔法』について書かれた本です。どんなことでも、何か手掛かりが書かれている本があれば、次回来た時に借りたいのですが」
「『物に魔力を込める魔法』ね……私も知らないわ。探しておくわね。はい、貸し出し手続き終わったわ。今日も頑張ってね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「任せて」
その時、誰かが図書館に入ってきた。
カウンターは入り口のドアの横にある。だから、誰かが入館したり退館したりするのは、全部見えるのだ。
「いらっしゃい。あら、ハントベアくん。今日も勉強?」
「いえ、今日は読書を。殿下に、自分の心と向き合えと言われたもので。……って、アリア嬢?!」
ユーリさまは、先生の向かいに立っている私に気がつき、驚いたような素振りを見せた。
「なんですか。私がいたら、おかしいですか?」
「いや、そういうわけではないんだが……」
「ラティーアさんも、よくここに来てくれるのよ。二人、知り合いだったのね」
「ま、まあ、同じクラスなので……」
ユーリさまが動揺しているように見える。どうしたのだろう。
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