47 待ちに待った体育祭!①
***
「フルーツェア魔法学園体育祭の開会を、ここに宣言する!」
指揮台に乗った校長先生が高らかに叫ぶと、整列した生徒達は、一斉に歓声をあげた。
今日は体育祭。毎年この時期に、文化祭か体育祭を開催しているそうで、今年は体育祭の年というわけだ。
カトリーアに魔法を見せてから一ヶ月ほどが経過した。研究は少しずつだが進んでいて、小枝に込めた魔力を循環させても破裂しなくなった。実用化への道のりはまだまだ遠いが、地道に堅実に歩んでいくつもりだ。
「アリア、頑張りましょうね!」
隣に立つカトリーアが、キラキラした笑顔を浮かべている。種目決めや応援練習などがあるたびに、「楽しみすぎて破裂しそう!」なんて訳のわからないことを言っていたから、相当楽しみだったのだろう。頼むから、楽しすぎて破裂とかしないでね。
とはいえ私も、体育祭は楽しみにしていた。前世では体が弱くて行事には参加できないことも多かったから、健康な身体で思いっきり楽しめると思うと、ワクワクして仕方がない。
「紅組、勝つぞーー!」
「「「「「「おーーーーーー!!」」」」」」
ヘレンドさまの掛け声に、みんな一斉に、拳を空に突き上げた。
さあ、楽しい楽しい体育祭の始まりだ!
***
「オラ負けるな!白!」
「赤、頑張れーーー!」
「ノースウェーン、踏ん張れ! お前なら大丈夫だ!」
「負けるな、リリーハント!」
「うおらあぁぁぁ! いけえぇぇぇぇ!!」
「パワーーー!!」
怒号のような声援が飛び交う。
今行われている種目は、障害物リレー。ハードルを超えたり、フラフープを片足跳びで超えたり、棒を地面に立てて額をつけ、ぐるぐると回ったり。前世で常識として知っていた種目も多くある。
いつもなら叫ばないようなおっとりしたお坊ちゃまお嬢様方も、今日は汗を煌めかせて走り、叫んでいる。全力で学校行事を楽しんでいる様子だ。
生徒達はクラスごとに紅白のチームに分かれて戦う。今は点数では紅組がぎりぎりリードしているが、両者の力はほぼ拮抗していて、取られたら取り返し、取り返されては取り返し、の一進一退の勝負を繰り広げている。いつ逆転されてもおかしくない状況だ。
さらにこの障害物リレーでは、紅組の走者が一度転倒し、白組に大きく差をつけられている。残っている種目はあと二種目。逆転勝ちされる可能性も、十分にある。
ふと、女子の黄色い歓声が聞こえた。
何事かとトラックの中央に目を向けると、そこにはよく知っている顔があった。
「キャアァァ、殿下ーー!」
「頑張ってくださいましーーー!!」
顔の良いラギリス殿下は、婚約者にベタ惚れだというのに、女生徒からの人気が高い。しかし恋愛対象というよりかは、アイドルやマスコットキャラクターのような扱いだろう。カトリーアもセット商品のように思われているので、二人の幸せな行く末を応援している者も多い。カトリーアもそれをわかっているから、いちいち嫉妬などはしない。
「あれ?」
ふと隣から負のオーラを感じた。
見ると、カトリーアが複雑そうな表情をして、殿下を見つめている。
「カトリーア?」
「わかってるのよ、わかってるんだけど……どうしても、モヤモヤするのよね……」
どうやら、嫉妬は普通にするらしい。
ふふっと笑みがこぼれた。
「カトリーア、かわいい」
「う、うるさいわね」
頬を少し赤らめて、カトリーアが私の脇腹を肘で小突いてくる。
「あ、ほら、集中しないと、殿下次走るよ」
「あらほんと。ラギさまーー! ファイトですわーーっ!」
両手を顔に添えて叫ぶカトリーア。
声援を受けた殿下は、こちらに目線をやり、甘く蕩けるような笑みを浮かべた。
私達の周りにいた女生徒が、呻き声をあげて次々と倒れていく。
「殿下、やりすぎです……」
それに対して、真正面から殿下の笑顔攻撃をくらったカトリーアは、幸せそうに微笑んでいる。いや、頬が無意識に緩んでいると言ったほうがいいかもしれない。によによと殿下を見つめて、二人だけで交信しているようだ。
――まったく、この二人は。
呆れていると、殿下がカトリーアに小さく手を振って、コースへと歩き出した。
スタートラインに立つと間もなく、全走者が走ってきた。タッチを交わして、殿下に交代。
すぐさま殿下は、ものすごいスピードで走り出した。軽々とハードルを走り超え、縄をくぐり、ぐんぐん追い上げていく。
試合は、ここまでで一番の盛り上がりを見せていた。
歓声が、どんどん大きくなっていく。
私の前に座っている男子生徒達が立ち上がり、叫ぶような応援を始めた。
私も立ち上がるが、身長が足りずレースが見えない。
カトリーアはというと、いつの間にか私の隣からいなくなっていた。最前列にでも移動したのだろう。
やがて、ピイイイーーと笛が鳴った。見えないが、どちらかがゴールしたようだ。
応援が一瞬止み、
「勝者、白組!」
ふたたび「ワアアァァァ!」と歓声があがる。白組の生徒が、手を取り合って喜んでいる。対して紅組は、がっくりと肩を落としている。いい勝負をしていただけに、悔しさや落胆もひとしおだ。
障害物リレーに出場していた選手達が、ぞろぞろとクラス席へ戻ってくる。
その中に、申し訳なさそうに、悔しそうに肩を落とす殿下の姿があった。同じく障害物リレーに出場していたヘレンドさまに、励ますように背中を叩かれている。
「みんな、ごめん……」
クラス席に着くなり殿下はそう言った。
「いや、殿下のせいじゃないですって」
「殿下、すごく追い上げてたじゃないですか」
「謝るなら、転んだノースウェーンですよ!」
「あはは、みんなごめんな。俺のせいだ! 殿下はよく頑張ってくださった!」
「そうですよ! それに、まだ挽回の余地はあります!」
「まだ点数は僅差ですからね! 次、最終種目の全員リレーは、一番配点が高いですし、勝てば逆転勝利! ですよ!」
「勝つぞ、紅組!」
「「「おーーーー!!」」」
期待のこもった声に、身体が強張る。
私は、これまでにないほど緊張していた。転んでしまったらどうしよう。バトンをうまく渡せなかったらどうしよう。クラスのみんなに迷惑をかけてしまう。
その時、ガチガチに強張った私の肩を、誰かがポンと叩いた。
「大丈夫だアリア嬢」
振り向くと、そこにはユーリさまが立っていた。
「もし失敗しても、僕がカバーしてやる。次の走者だからな」
「あ、ありがとう、ございます……」
とくん、と心臓が温かく鳴った。
全身の緊張がほぐれていくのがわかる。
「お互い、頑張ろう」
「はいっ」
頼もしく笑いかけてくれるユーリさま。
私も自然と笑顔が浮かぶ。
「いよいよ次が最後の種目になりました。生徒は全員、トラック内に集合してください」
アナウンスがかかる。グラウンドのあちこちから歓声が上がり、会場は今日一番の熱気に包まれた。
「行きましょう」
私達も意気揚々とグラウンドの中央目指して駆け出した。
――これから何が起こるのかなど知らずに。
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