46 私の魔法②
「あっ、虹!」
カトリーアが空を指さしてはしゃぐ。
「これもアリアが? 『降水』は水魔法、『陽光』は光魔法ね。なるほど、二つの属性を合わせるとこんなこともできるのね」
「この魔法の虹、前も見せたことあるんだけど覚えてない? あの時はカトリーアのために作ったわけじゃなかったけど」
「え? うーん、……あっ、もしかして花祭りのときの? あれってアリアの仕業だったのね」
「そう! やっぱり気づいてなかったんだね、カトリーア」
「だってあの時は見惚れてたんですもの! それに、虹を作り出せる人があの場にいるなんて、考えもしないじゃない」
「私、いたけどなあ」
「そこまで思い至らなかったの! 逆に、気づいた人は誰かいたの?」
「ユーリさまは気づいて声をかけてくれたけど」
「あら、よかったじゃない」
「なにが?」
カトリーアがくすくすと笑う。
「心当たりがないあたり、貴女らしいわね」
「だから何が……」
「こっちの話よ。それにしても、アリアは本当、すごいわね。花祭りの時も今も、誰かを笑顔にする魔法を使える」
「そ、そんことないよ」
面と向かって不意打ちで褒められ、照れる。
「そんなことあるわよ。人を笑顔にできるって、すごいことなのよ? 感動して泣かせるよりも、ずっと。貴女がこうして魔法オタクとして転生して、こうしてたくさんのすごい魔法を生み出して、見せて、誰かを笑顔にする。それをそばで見ていられるなんて、私は幸せ者だわ」
「そんな、大袈裟な……」
背中がむずむずする。嬉しいような、恥ずかしくて隠れたくなるような、そんな気持ち。
けれど彼女の言葉は、驚くほどすとんと私の中に入ってきた。
――魔法で人を笑顔にする。
私が転生した意味を、教えてもらったような気がした。
決戦なら、小説のヒロインのままでも十分に勝てるだろう。悪役令嬢が王子とくっついていても、国を救うためなら王子だってヒロインに力を貸すだろうから。『最終決戦に勝つ』という目的において、私がヒロインに転生した意味は無い。
だから、自分がなぜ転生したのか、ヒロインになったのかがわからなくて、最近ずっと不安だったのだ。
そんな時、彼女の言葉が、私を肯定してくれた。貴女はここにいていいんだよ、アリアでいいんだよ。そう、言ってもらえた気がした。
――私は、人を笑顔にできる魔法を生み出すために転生したんだ。
そしてその笑顔を、守るために。
これが正解かなんてわからないけれど、今は、そう思っていたい。
「でもありがとう、貴女にそう言ってもらえて嬉しい」
「私こそ、こんな素晴らしい魔法を見せてくれてありがとう」
二人、お互いの瞳を見つめ合って微笑み合う。
やっぱり、この嬉しそうに細められるアメシストを、守りたい。
お出かけの時に感じた不穏な予感の正体は、未だわかっていない。杞憂に終わればいいのだけれど……。
でもそんなことより今は、目の前のカトリーアだ。
「まだもうひとつ、これは研究途中なんだけど、見る?」
「俄然、見てみたいわ!」
「わかった。次にやるのは、物を使うんだけど」
そう言って、ポケットから釘を取り出した。
研究用にと、ハンナに取り寄せてもらったものだ。ポケットに入るサイズだから、いつでもどこでも実験ができる。
「これに魔力を流して、武器を強化できないかなって考えてるんだけど」
「ふむふむ。……ってそれ、下手したら国家機密扱いされない?」
「まだ一度も成功したことないけど」
「でも成功したら、軍事力が上がるかもしれないわけでしょ。そんなの他国に知られる前に囲っておきたいのが政治ってものでしょう?成功する前に王城にお呼びがかかってもおかしくないわよ、貴女……」
カトリーアがこめかみを押さえてため息をつく。
「大丈夫、バレないようにするから! やばいものができちゃったら、秘密にして墓まで持ってくよ」
「不安だわ……とりあえず黙っておくけど」
「ありがと、カトリーア」
未来の王妃がそれでいいのか、とは思わなくもないけど。
「じゃあ改めて、釘さん、よろしくお願いします。カトリーア、多分この大きさだと爆発することはないと思うから大丈夫だと思うけど、念のためバリア張っとくね」
カトリーアに、無詠唱で『障壁』をかける。
「爆発するような研究してるのね、貴女……。アリア自身は大丈夫なの? 怪我しない?」
「大丈夫! 私は咄嗟に『障壁』張れるから」
「そう。ならいいけど、気をつけてね」
「うん。ありがとう」
手のひらの釘を見つめる。
いちど深呼吸をして、釘を優しく握り、身体を流れる光の魔素を、ほんの少しだけ手のひらに集める。
そっと、釘に魔素を流してみた。魔素は、すううっと滞りなく吸い込まれていく。
もう少し、あと少し…………よしっ。
釘がぷるぷると震え出したところで、魔素を止めた。
握っていた手を開くと、釘が、弾け飛ぶことなくそこにある。少し、いやかなり発光しているけれど。
「せ、成功っ?!」
思わず、声を上げてしまう。
初めて、爆発させずに魔力を込められた。あとはこれと同じことを、木剣や剣、槍なんかでもできれば、実用化できる。……完成するまでは国に知られないようにしないといけないけれど。
「アリア、これってもしかして、……」
「うん、成功! これを誰でもできるようになれば、それか誰かが力を込めたものを他の人が使えるようになれば、すごく便利になると思わない? 火属性じゃない人でも火を起こせたり、水属性じゃない農民でも畑に雨を降らせたりできるし!」
「それに、魔力を込めた武器で、攻撃と魔法を同時に使えるようになれば、魔物とも戦いやすくなる……アリアはそう考えたのね。本当、貴女らしいわ」
「そう。釘一本ではまだ何もできないけど、この魔法の使い方は無限大なんだ!」
ずっと失敗ばかりだった研究に、光が見えた。
それは少し落ち込んでいた私に、大きな勇気を与えてくれた。
「とりあえずこの釘で、光が灯せないか試してみるよ」
そう言って、魔力を釘を握り締め、魔力を流す。
入れた分だけ出てくるように、循環させて――
パアァン!!
「「あ」」
興奮して流し入れる量を間違えたらしく、釘は粉々に弾けてしまった。
「『障壁』、『治癒』っ」
咄嗟に、釘を手ごとバリアで囲って、さらに傷ついた手に治癒を施す。
「爆発しちゃった……」
「しちゃったわね……」
カトリーアと顔を見合わせて、二人、苦笑いを浮かべるのだった。
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