45 私の魔法①
***
「ねえアリア、魔法を見せてよ」
ある日の昼休み、カトリーアはそう言った。
秋、朝晩が冷えるようになってきた頃だった。私は夏休みが明けてからというもの、授業が終わると部屋にこもって魔法の研究をする日々。なかなかうまくいかない日が多く、頭を抱えている状況だ。
私がこんなにも研究を急いでいるのには、理由がある。
この世界の原作小説、『まじっく・らぶ!』は、ただのほのぼのとした令嬢学園ラブストーリーではないからだ。
ストーリーでは、二年生の終わりに決戦がある。学校に侵入した強力な魔物を、光属性を持つヒロインと、ヒーローである王子が退治するのだ。この時、ヒロインは女神様から『消失』という魔法を授かって、魔物と、魔物と共に現れた邪悪な闇の女神をこの世界から消し去ることに成功する。けれどヒロインは『消失』を使うと同時に意識を失って、目覚めた時、王子が告白して想いが通じてハッピーエンド――そういう物語だった。
けれど私は、魔法を一発使ったくらいで意識を失いたくはない。意識を失う原因は魔力切れなのだが、そんな事は、魔法オタク、そして研究者を名乗る私のプライドが許さない。
それに、『消失』を自分の手で開発してみたいという野望もある。授けてもらう方がそりゃあ楽に決まっているけれど、やっぱり自分で魔法を開発してみたいというのと、そもそもシナリオ通りに進んでいない現実で、女神様が本当に魔法を授けてくれるのかという不安もあるからだ。
さらに、――これは私が頑張ればいいだけの話ではあるのだが――現実での私は、王子だけでなくその側近や悪役令嬢とも親しい。私が戦いに行くといえば、彼らは間違いなく、ついていくと言うだろう。その時は、全力で止めるつもりだ。高位貴族でもある彼らを巻き込むわけにはいかないし、なにより私が、危険な目にあってほしくないと思っている。けれどもし、それでもついていく、戦うと押し切られたら。私自身、特にカトリーアに対しては甘い自覚があるので、押し負ける可能性はある。その時は、せめて、魔物や女神を相手に彼らが戦えるような魔法を教えるしかない。その時に私にできる事はもう、それくらいしかないのだから。
だから、私は、強力な新しい魔法を生み出し、ついでに自分自身の魔力量も増やすべく、毎日訓練と研究をしているのだ。
そんな私の決意など知らないカトリーアは、私がどんな研究をしてどんな魔法を生み出したのか、気になるようで。
確かに言ってないもの、披露していないものも多くあるし、魔法オタクを人生二回にわたって見てきている姉のことだ。転生して魔法を使えるようになった妹が、何をそんなに熱心に研究しているのかと、不思議に思っても仕方がない。
「いいよ。どこでやる? 私としては、屋根がなくて広いところがいいんだけど」
「やったっ。なら、中庭はどうかしら? 普通の魔法を使うのには十分に広くて、屋根もない。完璧じゃない?」
「確かに! じゃあ中庭にしよっか。今日の放課後でいい?」
「ええ。楽しみにしてるわね」
「任せて! すごいの、見せてあげるから」
さて、こうなったら、何を披露するか考えないと。
***
そして今は、待ちに待った放課後。
午後の授業には全く身が入らなかった。板書もそこそこに、どの魔法を披露するか真剣に悩んでいたのだ。見て欲しい魔法が多すぎる。光魔法も水魔法も、その二つを組み合わせた魔法も。せっかくだから最新の研究進捗を見てもらいたいけれど、カトリーアでも使える水魔法をメインにする方が楽しんでもらえるだろうか。
「アリア! はやくはやく!」
教室の入り口で、カトリーアが急かしてくる。楽しみで待ちきれないと言った様子だ。
「今行くー!」
机の間をぬって、小走りで彼女に駆け寄る。
「待ちきれないわ! 中庭が誰かに取られちゃう前に行きましょ!」
お弁当を食べる生徒が集まる昼休みならともかく、放課後の中庭に人がたくさんいるところなど見たことがないのだが。
「大丈夫だって。でも早く行こ。私も早く見せたいし、魔法!」
廊下を小走りで進む。すれ違った先生に、「廊下は走ってはいけません!」と注意されつつ。
「じゃあ、いくよ!」
中庭。思った通り、周囲に人はいない。ひとりも、だ。カトリーアの心配は杞憂に終わった。
地面に両掌を向ける。すっと軽く息を吸って、くっと手に力を込めて。
「『光球』!」
イメージするのは、ただの光の玉ではなく、地面を跳ねる、
「わあっ、うさぎ! 犬も! こっちは、猫?」
光球は光る球を出す魔法。
今回はそれを応用して、ウサギや犬などの形を出してみたのだ。動かすのも自由自在。投げたボールが飛んでいったり地面を跳ねたりする要領で動かすだけだから。
不規則な動きは繊細な魔力操作が必要だけど、私はそんなのはお手のもの。いくらでもできる。
「これはテディベア?! 動いてるわ! まあ、ちょうちょが飛んでる!」
カトリーアは可愛い動物攻撃をフルにくらい、興奮して辺りを跳び回り駆け回り、きゃいきゃいと声を上げている。
「アリアすごいわ! かわいい! 他にはどんな魔法があるの?!」
飛び跳ねながら、次の魔法を促してくる。
「じゃあ次は、『降水』」
地面に向けていた両手を、次は空に向ける。
さああっと、霧のような小さな水粒が周囲に広がった。
「『陽光』」
これは、以前も見せたことのある、思い出の魔法。
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