43 姉妹デート④
アクセサリー店の次は、またお菓子屋さんに行った。
とはいえ、先ほどのりんご飴とは違うお店だ。掲げられた看板は『ノワール』。
「ノワールって確か、カトリーアが前に持ってきてくれた……」
「転生バレした日のことね。そういえばそんなこともあったわねぇ。今の前世込みのテンションに慣れちゃって懐かしいわ。もう四、五か月前になるのね」
「あの時のマカロン、すっごく美味しかった!」
「でしょう? ノワールのお菓子は絶品なのよ。我が家でも時々お茶菓子で登場するくらいね。私のおすすめはミントのムース。店内でしか食べられないあの冷たさと爽やかさが、夏には最高なのよ」
「それはぜひとも食べてみたい……!」
「じゃあアリアはムースに決定ね。私はどうしようかしら、スコーンとかも美味しいんだけど」
結局、カトリーアは注文する直前まで迷いに迷った挙句、チョコチップスコーンとマカロンを頼んだ。私は勿論、ミントのムース。二人で二口ずつ交換もして、お昼ご飯がわりのスイーツとお茶を楽しんだ。
「次は、本屋さんに行くわよ!」
食べ終わりお茶を飲み干してほっと息をついていると、カトリーアが意気揚々と次の目的地を宣言した。
「いよっ、待ってましたっ」
合いの手を入れて、二人同時に席を立つ。
「ショッピングといったら絶対に外せないのが本屋!」
「転生しても、本好きだけは変わらないのよねぇ」
「他にも変わってないところいっぱいあるけどね」
「やっぱり、貴族って本が身の回りに溢れてるのが良いところよね。図書館、図書室、書庫、家にも領地のお屋敷にも図書室がついてるし。本屋さんにも気軽に行けるもの」
「それは私達がお金持ちの部類に入るからじゃない? 高位貴族のキャラに転生させてくれた女神様には感謝だね」
そんな話をしながら道を歩いていると。
ふいに、奇妙な音が耳に飛び込んできた。
クァアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……
小さくてぼんやりしているけれど、でも確かに聞こえる。何かを引っ掻いたような甲高い音。何か、良くないものな気がする。直感がそう告げている。
「――……アリア? どうしたの?」
突然立ち止まった私を、カトリーアが振り返って不思議そうに見る。
「何か、変な音がしない?」
「…………いいえ、何も聞こえないけれど」
「そっか、じゃあ空耳かな。それか第六感とか」
「第六感は少し違う気がするけど」
「うーんまあいいや、気にしないで。さっ、行こ!」
クァアアアアアアアァァァァァァァッ
――今度ははっきりと、聞こえた。
立ち止まると、カトリーアがやはり不思議そうな目を向けてくる。
「ねえ、やっぱり聞こえない?」
「アリア、貴女どこか悪いんじゃないの。一度、お医者さんに診てもらったら?」
「うーんやっぱり第六感かなぁ」
「第六感じゃなくて聴覚ね。……本当に、大丈夫?」
「頭の方なら大丈夫だよ、冗談冗談!」
「そういうことじゃなくてね……」
「きっと空耳だって。大丈夫だから」
へらっと笑って言って、カトリーアの横に並んで歩き出す。ただし意識は聴覚に集中させ、音の出所を探る。嫌な予感がしたのだ。あの、キャベツに青虫がついていた時の背筋のゾワゾワっとする感じ。それに似ている。
クァアアアアッ
また、音がした。いや、音というよりは何かの声に近い。
――上からだ。
カトリーアの半歩後ろに下がり、空を見上げる。
すると建物の陰に、黒いものが見えた。
――あれは、……鳥?――なのだろうか。
確信が持てないのは、自分が知っている鳥とは大きく異なる点があるからだ。
それは、大きさ。パッと見は烏のようなソレの体長は、店の煙突と良い勝負なのだ。
クァアアアッ
奇妙な鳥もどき。だがその存在に気がついた人は、今のところいなさそうだ。
黒い体、不気味で奇妙な鳴き声、図鑑などには絶対に載っていないであろう奇妙な大きさ。
おそらくあれは、魔物の類だ。夏のバートネット領で出くわした、あの黒い狼と似た気配のような雰囲気のようなものを感じる。
ちょっと、光魔法を撃ってみようか。そうすれば、あれが魔物かどうかも自ずと分かるはずだ。
使うのは、ついこの間開発した新魔法。
「『鏃』」
烏らしきモノに、手を翳す。細長い棒状に集まった光の粒が飛んでいって、ぶすりと鳥もどきに刺さった。
鳥もどきは音もなく塵となり、風に吹かれて消えていく。
それは、私の予想通り、魔物だったという証だ。
正解して嬉しい気持ちよりも、不安や疑問の方が大きい。
――……何故、こんな人の多い王都なんかに。
不吉な予感がする。近々、何か良くない事が起こりそうな。
頭に浮かんだ疑問は、それからも一日中、消えることはなかった。
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