42 姉妹デート③
「じゃあ次は、アリアをお願い」
「かしこまったわ〜。じゃあラティーア様、今日はどんな宝石をお探し?」
ニコニコ笑顔で問われ、私は返答に困った。
なにしろ、自分で宝石を選んだことというのが、私はほとんど無いのだ。前世ではそういうものとは無縁の人生を送っていたし、今世でも引きこもっていたため、アクセサリーを自分で買うことはほとんどしたことがない。普段使っているのは、メイドや父が買ってきた物ばかりだ。
「あらあら、お困り? もしかしてこういうこと、あまり経験が無いのかしら〜?」
「お恥ずかしながら……」
「お二人は今日は、二人で遊びに来ているのかしら?」
唐突に変わった話題に、少し戸惑いながらも頷く。
「それじゃデートね。なら、今日の思い出にぴったりのヘアアクセがあるのよ、今持ってきてもらうわねぇ」
店長はまたもや、バチっとウィンクをした。
「おーいルナちゃん、アメシストも追加でー」
「すみません……」
「謝ることなんかないわよぉ、このくらいのお歳の子にはよくあることよ。それに、見繕う私達も楽しませてもらってるんだから、むしろこっちがありがとうって言いたいくらいよ」
「ありがとうございます」
「そうそう、何か言うとしても『ありがとう』でいいの。宝石選びは任せてよ、プロなんだから」
「そうよアリア、こんなだけど、店長の目はすごいんだから。今上級貴族のマダム達の間で話題なのよ」
「ちょっとバートネット様、『こんな』て何よ、何が言いたいのよ」
二人の仲良さげなやり取りに、思わずふふっと笑いが漏れた。
丁度そこに、ルナさんがアクセサリートレーを二つ持って現れる。
「ご苦労さま。さぁてバートネット様、ラティーア様。こちらが、私イチオシのヘアアクセよ〜」
そう言って店長が、ベロア生地のトレーの中身を見せる。
二人、トレーを覗き込み、
「「ふわわわ……!」」
感嘆の息を漏らした。
視線の先には、大きな石のついた二つのバレッタが照明の光をキラキラと反射して鎮座していた。
片方は、丸くカットされた淡い桃色の石。所々透き通っていて、周りの小花の形をした白い石も合わさり、透明感と可愛らしさが溢れるデザインだ。
そしてもう片方は、同じく丸くカットされた、紫色の石。大まかなデザインは桃色の方と同じだが、こちらは小花ではなく若葉モチーフなのだろう、明るい緑の石が控えめな輝きを放っている。大人っぽいながらも瑞々しさの感じられるデザインだ。
「この石、まさか、カトリーアの瞳の色……!?」
「ご名答! バートネット様のはローズクォーツ、ラティーア様のはアメシスト。どちらも水晶の仲間の石よ。お嬢様方にはクリスタルと言った方が馴染みが深いかしら。シャンデリアとかに使われてるあれね。透明度が低めだから少し価値は下がるけれど、お嬢様方のお小遣い的には嬉しい価格なんじゃないかしら。このマーブル感が良い味を出してるのよね。もちろん、デートの思い出にもぴったりよ」
「店長、こちら頂くわ!」
カトリーアがすかさず言った。即決だ。
「いいわよね、アリア!」
アメジストの瞳を輝かせてこちらを見つめてくる。
私も間髪入れず頷いた。即決だった。
「勿論」
「お買い上げ、ありがとうございます! こちら、身につけて帰られますか? それともお包みいたしましょうか」
「両方とも包んでもらえるかしら。帰ってから開封する時のワクワク感がたまらないのよ。開封の儀っ! って、アクスタ開ける時みたいなドキドキワクワクがもう本当にさいっこうで――」
「カトリーア、ストップ。オタク出てる」
「ごほん、失礼。とにかく今日は、いいものをありがとう。店長って、見た目とか喋り方はこんなだけど、アクセサリーを見る目は本当に大したものよね」
「さっきから、こんな、こんな、ってうるさいわよ。何か文句ある?」
「いいえ? ただ貴方のその慧眼を誉めているだけよ」
「本当この二人は、仲が良いのか悪いのか……」
呆れて方をすくめると、アクセサリーを紙に包んでいた店員の一人が苦笑いしているのと目が合った。
そうこうしているうちに包み終わったようで。
「じゃあ、また来てよね。お待ちしてますわぁ。今度は愛しの殿下も一緒にね。エメラルドとアメシスト、たくさん仕入れておくわ」
「もう、知らないからっ」
紙袋を受け取ったカトリーアは頬を膨らませていたが。
その耳はほんのりと赤く染まっていた。確実に、照れている。
「カトリーア、可愛い」
「もうっ、貴女までラギさまみたいな事言わないでよっ」
……拗ねられた。そんなカトリーアも可愛い。
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