40 姉妹デート①
***
「アリア、ちょっと付き合ってくれない?」
ある日の放課後、終礼後。
魔法研究で木剣を爆発させた日から、二週間ほど経っていた。
ここまで、研究は失敗続き。爆発まではせずとも、ぷすぷすと煙を出したり粉々になったりという事態は頻繁に起こっていた。しかも、偶にある、「これはいける!」と思った術は発動すらせずに終わる始末。そろそろ何か成功への手掛かりを掴めてもいい頃だと思うのだが、兆しすら見えない。
昨日はこうして失敗したから今日はああしよう、それともこうしたほうがいいだろうか、と魔法研究のことを一人考えながら鞄に教科書やノートを詰めていると、カトリーアに声をかけられた。
この後は研究以外に予定はなく、スケジュール変更も可能である。そのことを頭の中で確認して、予定変更した際の対応をざっとまとめてから、返事をする。
「何? どこか行く? この後なら大丈夫だし付き合うけど」
「いいえ、今日じゃなくて次の土曜日……街に行かない?二人でデート、的な」
カトリーアと二人でデート。なんて素敵な響き。
私は、土曜日も研究以外の予定がないことを瞬時に確認して、身を乗り出した。おそらくカトリーアから見れば、私の目はキラキラしているだろう。
「え、行きたい! 行く! どこ行くの?」
「それはまだ決めてないんだけどね、二人きりでお店巡りとかしたいなって」
そして周りを気にするように顔を近づけると、囁くように言った。
「ほら、前は、呉羽の体調がいい時はよく商店街とか行ってたでしょ。呉羽結構嬉しがってたから、こっちでもできないかな、って思って……。あ、嫌だったら全然いいのよ、強制とかじゃないから!」
「嫌じゃない、というか行くってゆってる」
自分を卑下するかのようなカトリーアの口調に、私は唇を尖らせて返した。
大方、彼女は、前世と今世で私の性格や好きな事が変わってしまっている可能性を考慮したのだろう。
けれど、カトリーア――前世での姉が、私のことを生まれ変わっても遊びに誘おうかと案じてくれるように、私もまた、姉であった人との友人関係が今も続いていることが嬉しいのだ。両親が早くに他界した前世の私にとって、姉は唯一の家族で、憧れで、家族でありながら親友のようにも思っていた存在なのだから。
それに、たとえ彼女が私の元・姉でなくても、私はカトリーアという一人の人間を好いている。初対面の時から彼女が悪役令嬢っぽくなくて拍子抜けしたから、そういう理由もあるけれど、一緒に過ごすうちに、彼女の性格や人柄や、そういうものを私は気に入ったのだ。だから、やはり彼女とのお出かけは、前世での思い出にかかわらず、その言葉を聞いただけでも心が躍る。
「カトリーアと、行きたい」
「じゃあ、朝十時に寮の前集合で。忘れないでよね」
「もちろん。そちらこそ、忘れないでよね」
こうして、私達二人は今、王都に来ている。
街はいつ来てもキラキラと輝いている気がする。隣に大好きな人がいれば、尚更だ。
デートだ、デート。記念すべき初デート。うきうきるんるん。
前世、姉妹だった時には何度かしていたが、親友としては初。どうしようもなくワクワクして、今すぐにでも駆け出して、王都一周してやりたくなる。
しかもこのデートは、向こうから誘ってくれたのだ。そのことを思い出すと、王都と言わず国一周くらいは軽々と走れそうである。
「アリア、とりあえず私、りんご飴食べたい!」
カトリーアは街に足を踏み入れるやいなや、目の前に見えているお菓子屋さんへと駆け出した。私も慌ててその後を追う。
「ちょっ、走らないでってば。私迷うよ? 王都知らないよ?」
「ついてこれてるからいいじゃない。一日しかないんだから、満喫し尽くすわよ」
「お姉ちゃん、昔からそればっかだったよね。その勢いに付き合わされる病人の身にもなってほしいものだよ」
「別にちゃんと気遣ってたわよ。しんどくなったら座ったりとか、呉羽がついてこられる速さで歩いてたでしょ。呉羽もまじらぶのイベントとかは爆速で歩いてた、というか走ってたし」
「そりゃあまじらぶだからね。気合いも入る」
「それに今は病人じゃないでしょ。だからちょっとくらい走っても大丈夫」
「そうだけどさ、体力的に一日持たなそうだなと……」
「その時はアイスでも食べながら休めばいいじゃない」
「そんな時でも食い意地は相変わらずなのね。はいはいもうわかった、任せるから。ただしはぐれるのは嫌だから、あんまり走らないでよね」
「はーい、気をつけまぁす」
カトリーアは空返事。ちゃんと聞いているのだろうか。
軽く口を尖らせながらも、昔のような砕けた会話に懐かしさで胸が温かくなる。
話しているうちにお菓子屋さんに着いた。ちょうど空いていて、手早くりんご飴二つ分の会計を済ませたカトリーアが、両手に握った赤い塊の片方を何も言わず差し出す。私もそれを、慣れたように受け取った。
「ありがと」
「ん。いっただっきまっす」
カトリーアはまたもや空返事。視線は目の前の赤い艶々の球体に向いている。
そして大きな口を開けてそれにかぶりつき、
「んんんっ!」
ぱああっと、瞳を輝かせた。
無言で、しゃり、しゃり、と食べ進める。
ものすごいスピードで半分ほどを食べ終えた時、まだりんご飴に口をつけていない私をちらりと見て、
「ほれ、いらはいほ? はらわらひがもらふけろ」
おそらく、「それ、いらないの? なら私がもらうけど」と言いたいのだろう。口に物を詰めすぎて、何と言っているのか聞き取れない。
「勿論食べるよ」
美味しそうに食べるカトリーアを、かわいいなあと見つめていたのがバレたらしい。
握ったままのりんご飴に視線を落とす。
艶々の赤を壊したくないなあと思いつつ、少しの勇気を出して、思い切りがぶりとかぶりついた。
「うん、美味しい!」
そう言ったきり、私も無言で食べ進める。
前世で夏祭りに行った時に食べたりんご飴と同じ味。懐かしい。また食べられるとは思わなかった。というか、この世界にりんご飴が存在していることすら知らなかった。まあ、ここは日本の小説の中の世界だし、そういうことがあっても不思議ではないが。
二人とも、りんご飴まるまる一個をぺろっと食べ終えた。ふう、と息をつく。
「ああ、美味しかった。腹ごしらえもしたことだし、次はアクセサリー屋さんに行くわよ」
そう言うが早いか、カトリーアは歩き出した。
「あっ、ちょっと待ってってば」
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