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38 決意①

「おはよう」

「おはよう、カトリーア。もう二学期かぁ、早いね」

「ほんと」


 夏休みが終わり、今日は二学期の始業式。

 夏休みが終わっても、秋の涼しさには程遠い。残暑――というより、まだまだ夏だといえるくらいの暑さだ。

 二人並んで、寮の廊下を歩いていく。


「……あれから、一か月も経ったのね」

「カトリーア、大丈夫?」


 カトリーアは、バートネット領から帰ってきてからの一か月間、ほとんど寮の外に出てこなかった。相当落ち込んでいたのだろう。

 私は同じ女子寮にいたから度々彼女の部屋を訪ねてはいた。けれど男子寮ゆえにそれすらできない殿下達は、ものすごく心配していた。


 普段、なんだかんだ言いながらも殿下や側近の二人と過ごす時間を大事にしているカトリーアらしくもなく、最初の二週間は彼らからの贈り物や手紙にも返信すらしなかった。だからカトリーアの状況は、私が代わりに殿下達にお知らせしていた。

 二週間を過ぎると、カトリーアは私が笑わせると笑顔を見せてくれることも多くなってきて、手紙にも返信するようになった。だが、それでも部屋の外には出ようとはしなかった。


 そして今日、カトリーアは一か月ぶりに外の世界に出る。


「大丈夫、心配ないわ」


 カトリーアは、にこっと笑う。だがやはり、その顔にはどこか影が感じられる。


「そう。無理、しないでね」


 明らかに、心配しないでいられる笑い方ではない。けれど彼女が何も言わないのであれば、こちらから尋ねることはできない。カトリーア・バートネットは、そして私の姉は、そんなにやわな人間じゃないと、私は知っている。


「ああ、殿下達にも心配をかけてしまったわね」


 カトリーアが、前方を見つめて言った。その視線の先、女子寮の門の向こうには、固まって立つ三人の男子。頭を突き合わせ、何やら話し込んでいる。

 ふと、そのうちの一人が顔を上げた。こちらに向かって、おーいと手を振ってくる。赤い髪。ヘレンドさまだ。

 それに続いて、後の二人も顔を上げ、こちらを見る。その瞬間、一瞬だけ、ユーリさまと目が合ったような気がした。


「おはようアリア嬢、久しぶりカティ。体調はもう大丈夫?」

「ええ。皆さま、心配かけてごめんなさい」

「いや、カティが謝ることじゃないよ。前も言ったけど、カティは何も悪くない。それに俺らも傷ひとつ無く戻ってこられたんだから、それでいい」

「ええそうね、ごめんなさい」

「だからカティが謝ることじゃないってば」


 五人固まって、校舎への道を歩いていく。朝とはいえ、綿のような雲の合間から差す光は、鋭くて熱い。その強い光に照らされた花壇には、私達の背をゆうに超える高さのひまわりが、重そうな頭をもたげて並んでいる。

 と、校舎の方から歩いてくる一人の人影が見えた。


「サリヴィア先生!」


 私が声をあげると、その人は俯いていた顔を上げた。手には、丼鉢のようなものを持っている。


「おはようございま――って、どうされたんですか?!」


 それまで流れていた暗い空気を断ち切るように、私は元気な声で挨拶しようとして、驚きに思わず違う言葉が口から飛び出してしまった。


「んー、新しく始めた研究がちょっと大変で。でも大丈夫、心配ないわ」


 そう言って笑うサリヴィア先生の目の下には、濃い大きなクマが。肌も一学期より荒れていて、肩に届く長さの癖毛は後頭部で雑に束ねられている。

 学園の魔法科の先生は全員国家魔法士の研究部門の人間だ。仕事自体は教師だが、やはり自主的に研究をする先生も多い。他の科目の先生も学者やその弟子が多いから、校内に『研究棟』という名前のついた建物もある。だからサリヴィア先生も、教員として魔法について教える傍ら、何かしらの研究をしていても何ら不思議なことはないのだが。


 それにしても、これはやつれすぎじゃあないだろうか。


「お忙しいとは思いますが、今夜はたくさん寝てくださいね。サリヴィア先生の授業、楽しみにしてるんですから」

「あら、そう言われちゃ、張り切って眠るしかないわねえ。ふわーぁ」


 サリヴィア先生は大きな欠伸をした。ばつが悪そうに私達を見る。


「失礼。今のは忘れて……。じゃあ私はもう行くから、あなた達も始業式、寝ちゃだめよ?」


 悪戯っぽく微笑んで、サリヴィア先生は去っていった。


「大丈夫かな、サリヴィア先生。やっぱり心配……」

「アリアは先生のこと、大好きだものね」

「もちろん。魔法科の先生は、ウォン先生もサリヴィア先生も大好きだよ。だって、魔法科だから!」

「何それ。理由が本当に貴女らしいわ」

「いいでしょ、別に」


 口を尖らせてそう言うと、カトリーアがぷっと小さく吹き出す。よかった、今度は曇りのない笑顔だ。





 始業式が終わり、また五人で寮に帰って、部屋の前でカトリーアと別れる。

 ハンナが淹れてくれたお茶を、口に運ぶ。ふわりと香るリコル草に、固く緊張していた心がほぐれていく。


 カトリーアは、始業式の間中、いつも通りに過ごしていた。クラスメイトとも笑顔を浮かべて会話していて、側からずっと見つめていても、少しテンションが低いかな、と気づけるかどうかという程度。もしかしたら、彼女の言う通り、心配はいらないのかもしれない。

 けれどどうしても、心配してしまうのだ。


 最近ずっと、考えている事がある。

 ――私があの時、もっと強ければ。カトリーアを怖がらせないように、傷つけないように、魔物を片付けることができていたならば。

 彼女がここまで自分を責めて落ち込むことも、なかったのではないか。彼女が無理して笑顔を浮かべる(少なくとも親しい人間にはそう見える)必要も、なかったのではないか。だから、彼女の笑顔を奪った原因の一端は、私にあるのではないか。


 私の強さとは、私の二属性の魔法とは、いったい、何のためにあるのだろう。私は、どうして、『まじらぶ』のヒロインに転生したのだろう。

 少なくともそれは、彼女を苦しめるためではないはずだ。そして、大切な人達を、心配の渦に落とし込むためでもないはずなのだ。

 意味も、理由も、わからない。ただ、私は転生して、二属性の魔法が使えるヒロインとして生まれて、この世界を現実として生きている。そして彼女もまた転生して、そして私達は、再び出逢った。その事実があるだけ。意味も、理由も、そんなものがあるのかすらも、わからない。


 けれど確かなことがある。私は、彼らを、彼らとの平穏な時間を守りたい。誰一人欠けることなく、これからも仲良く笑い合っていたい。

 そのために私が今できることは、一つ。

 これから先、いつ、この前と同じような危険に巻き込まれても対処できるように。彼女の笑顔を、そして皆の笑顔を曇らせることがないように。薄氷の上に成り立つ『日常』という脆い幸せが、ずっと続いていくために。


 ――強くなろう。


 そう、決意した。

第二章、開幕です!

次話は明後日、11月19日(水)に投稿します。


ブックマーク、評価(☆)、リアクション、感想、イチオシレビューよろしくお願いします!!



【お知らせ】

いつもお読みいただきありがとうございます。

これまで、まほオタの更新は各イベント(エピソードタイトルが同じお話)ごとに連続更新をしていましたが、第二章からは毎週月・水・金の週3話投稿をすることにしました。投稿時間は変わらず18時です。


理由は、私が把握しやすいのと、第二章では1イベントにつき5話あるという事態が多発してしまい、週5話更新になると私の執筆ストックが激減してしまうためです(個人的な理由ですみません)。

更新予定一覧はじうのX(旧Twitter)に投稿しています。また、後書きにも次話投稿予定を書きます!


読者の皆様には、引き続きまほオタを楽しんでいただければと思います。

第二章からはいろいろなことが動き始めるので、お楽しみに!!



何卒よろしくお願い致します!!

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