36 守りたいもの②
魔物と戦うのは初めてだ。怖い。呼吸が浅い。足が地面についているのかすら怪しい。身体中が強く脈打って、感じ得る全ての感覚を掻き消そうとしてくる。今すぐこの場から離脱してしまいたい。
けれど、それでも必死に意識を繋ぎ止めて、戦う。私の後ろには、護らなければいけない人達がいる。
もっと。もっと、この魔物達を一瞬にして掃討できるような魔法は無いのか。私の中に、何か手掛かりになることは無いか。必死になって、頭の中の研究ノートを捲る。
「『発射』!」
騎士の後ろに魔法を放った時、しまった、と思った。考え事の方に気を取られていた。
群れから外れた狼が三匹、こちらへ向かって突進してきていた。それに気づいた時にはもう、遅かった。
足がすくむ。身体中が脈打っている。思考が停止し、何も考えられなくなる。この状況を打破できる魔法がどこかにあるはずなのに、それを思い出すことができない。
怖い。ただ、怖い。ここまでか、という諦めもあった。一度死んだことがあるのに、死ぬのが怖いと感じた。もっと、カトリーア達とくだらない話をして、笑っていたかった。
せめてもう少しだけ、早くに気付けていたら。『発射』は遠距離型だ。遠ければ遠いほど魔法は加速し、威力が上がる。逆に、敵が近い時にはその力を発揮しない。
せめて敵の数を減らしてから死のうと、騎士の後ろに向けてまた『発射』を放った。そして、目を閉じる。
――いい人生だった。魔法が使えて、友達もできて、姉とも再会できた。だから、――
「『発射』!」
知っている声が辺りに響いた。
いつまで経っても、魔物は襲ってこなかった。その代わりに、同じ声がまた耳に届く。
恐る恐る目を開けると、魔物が二匹、塵になって消えかけているところだった。
「アリア嬢! 無事か?!」
ユーリさまがこちらへ駆けてくる。意外と速い。
「ユーリ、さまっ」
気付けば、涙が溢れ出していた。彼のその速さが、今の私にはとても安心できた。
私の目の前に滑り込んだ彼の背中が、溢れ出した涙で滲む。
「こわか、った」
「ああ。無事で、よかった」
一瞬だけ、周囲の音が無くなり、時が止まったかのような錯覚に陥った。だがしかし、すぐにまた臨戦体制に戻る。
狼がもう一匹、こちらへと走ってきていた。それを無詠唱の『発射』で跳ね返し、そういえば、と思い出す。涙は一瞬で引っ込んだ。
「もう一匹は?!」
私が尋ねると、同じく魔法を撃っていたユーリさまは、振り向くと一瞬にして顔を強張らせた。
その刹那、森に悲鳴が響き渡った。
「キャアアアアァァァァァッッ!!」
「カトリーア!?」
声のした方を見ると、狼が一匹、彼女の方へと駆けていくのが見えた。その後ろを、さらに十匹ほどが追いかける。
先頭を走る狼は、さっきユーリさまが私を助けてくれた時に取り逃がした個体だろう。
猛スピードで駆けていく狼を追って、私も走り出した。両手を後ろに投げ出し、無詠唱で『発射』を放つ。勢いよく吹き出した水の勢いに押されて、走るスピードがぐんと上がった。
間に合え、間に合え……っ!
「『障壁』っ!」
「ひゃっ」
カトリーアを見つめて、叫んだ。
狼がカトリーアに襲い掛かろうと跳び上がるのと同時。カトリーアの眼前に、白い光を放つ、半球の透明な壁が出現した。
『障壁』。空気中の魔素を集めて壁をつくる、防御魔法。今使ったのは、広範囲からの攻撃を受け止められるよう、半球型に私が改良したものだ。前世で見たサッカーボールが役に立った。
狼は突然現れた壁をものともせず突っ込んでいき、バンッという大きな音ともに地面に崩れ落ちた。障壁も、役割を終えたと言わんばかりに、光の粒となって消えていく。
さらにカトリーアに迫り来る狼。カトリーアは一歩後退り、彼女の前に騎士が立ちはだかる。だがカトリーアは怯えた表情で縮こまって震えている。
私は狼の群れを追い越すと、騎士と群れの間に飛び込んだ。
「アリアッ?!」
背後で、カトリーアが叫ぶ声が聞こえた。
お読みいただきありがとうございます!
次話は明日18時に投稿します。第一章最終話です。
「面白いな」「続きが気になるな」と思ったら、ブックマーク・評価(☆)・リアクションをつけていただけると、作者がめちゃくちゃ喜びます。
さらに、感想・イチオシレビューも書いていただけると、作者が飛び跳ねて喜びます。
何卒よろしくお願い致します!!




