34 湖のほとり②
「じゃあお昼ご飯にしましょ。今日はサンドウィッチよ」
カトリーアの隣に腰を下ろした。地面を覆っている草がクッションの役割を果たしてくれて、お尻はちっとも痛くない。
カトリーアが、持って来たバスケットを置く。道中、殿下が何度も持とうかと打診しては、あっさり断られていた物だ。どうやら、大事な物は重くても自分で持っていたい派らしい。
ユーリさまとヘレンドさまも、持っていたバスケットを置いて座った。
「これの中身はサンドウィッチだったのか」
「でもこれ、サンドウィッチにしては重くないか?」
屋敷を出た時からバスケットを持っていたヘレンドさまが、怪訝そうに言う。
「これ本当にサンドウィッチ?」
「そうそう、ヘレンのは全部飲み物よ。私達五人分」
「うわ、そりゃ重いわけだ」
「文句も言わず運んでたでしょ。いいトレーニングになったんじゃない」
「いやあまあこの中で一番重い物持てるの俺だから持つけどさ……」
「さ、食べましょ食べましょ」
カトリーアはバスケットの蓋を開けた。
「一人二つずつね。卵と野菜があるから、どっちも一つずつ」
言うが早いか、バスケットからサンドイッチを取り出す。野菜のサンドウィッチ。レタスやトマト、それにきゅうりが挟まれている。
そして大きく口を開けると、がぶりとパンに噛みついた。
「んんっ、うま!」
心底幸せそうな顔で二口目もかぶりつく。
そしてそれをこれまた幸せそうに見つめる殿下。
「まったく、これが公爵令嬢で次期王妃なんて、知らない人が見たら思いもしないよね」
口調ははしゃぐ子供を宥める母のそれだけれど、殿下も殿下で、大きな口で手に持ったサンドウィッチにかぶりついた。
「今は人目を気にする必要がないからいいのよ。領地でくらいのびのびさせてくださいませ」
「うん、そんなカティも可愛いから思う存分のびのびしちゃって」
「もう……。すぐそんなこと言う。あんまり甘やかしすぎると、結婚したらお城でもぐうたらしちゃうかもしれませんよ」
みるみるうちに、殿下の顔がぱあああっと華やぐ。
「カティが結婚って言った……! 大好き!」
殿下が、食べかけのサンドウィッチを手に持ったままカトリーアに抱きついた。三口目を食べようとしていたカトリーアは、避けようとしてパンを落としそうになり、すんでのところで握り直した。
「ちょっとラギさま、食事中ですわっ」
「カティ可愛い……好き……」
カトリーアが身体を引き剥がそうとするも、殿下はぎゅうぎゅうと身を寄せてきてなかなか離れようとしない。
「まったく、こんなのが次期国王夫妻だなんて、知らない人が見たら思いもしないよな」
「自覚なしバカップル……」
ヘレンドさまとユーリさまが、いちゃいちゃする二人にちらりと視線をやり、揃って肩をすくめた。
「さぁて、じゃあ僕らもいただくとするか」
バスケットから野菜のサンドウィッチを取り、カトリーアや殿下のように大きく口を開けて噛みつく。シャクっと新鮮なレタスを噛み切る音がした。
「ん、これは何だ? 初めて食べるソースだな」
「味が濃くて美味しい」
二人は、サンドウィッチを見つめて驚いている。
一昨日食べたたこ焼きにはかかっていなかった、お好み焼きやたこ焼きには欠かせないモノ。前世の私が、よく苦手なセロリにつけて食べていたその白いソースの名は――
「マヨネーズだ! ねえカトリーア、これってマヨネーズでしょっ!」
「そうなの! 昨日の夜、やっと完成したのよ。今日に間に合ってよかったわ」
やっとのことで殿下を引き剥がすことに成功したカトリーアが、ぜえはあと息を切らしながらも興奮したように叫ぶ。
どうやら、昨晩カトリーアのテンションが高かった理由はこれにあるようだ。
「マヨネーズっていうのは、卵に油とかお酢とかその他色々を混ぜて作る調味料よ。満足のいくものがやっと完成したから、来年からはバートネット祭りのたこ焼きにもこれをかけるわ。リニューアルよリニューアル!」
「これをたこ焼きに……?」
「間違いなく美味しいですよ、ユーリさま。私が保証します」
「アリア嬢はマヨネーズとやらを知っているのか」
「はい」
「じゃあ来年の夏を楽しみにしてるな」
「ええ。まだまだ改良を重ねて、いずれは特産品として売り出すつもりよ」
来年はより前世に近いたこ焼きを食べられるらしい。今から楽しみだ。
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