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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
32/68

32 二人の秘密④



***



 次の日は午後からお祭りということで、朝から準備に追われていた。


「えーっと、鞄、お財布、鏡、……」


 持ち物の確認をした後は、着替えて髪をセットする。私は控えめなフリルのついたブラウスに、夏らしい水色のスカート。カトリーアは白いレースのワンピースだ。二人とも髪は三つ編みでお揃いにした。



「皆、準備はいい? それじゃ、しゅっっっぱぁーつ!」


 街の入り口近くで馬車から降りると、カトリーアは握った拳を天高く突き上げて高らかに言った。道の奥には、花や布で飾られ華やかになった街の建物がちらっと見える。

 きっと、今日一番はしゃいでいるのはカトリーアだろう。花祭りの時もそうだったが、お祭りの時はテンションが人一倍高い。そういえば、前世では姉もお祭りが大好きで、よく金魚やベビーカステラを持ち帰ってきていたと思い出す。こういうところは転生しても変わっていないのだと思うと嬉しくなり、喜びを言葉の代わりに身体で表現しようと、カトリーアに抱きついた。


「ふふっ」

「どうしたのアリア」

「カトリーアが楽しそうだから、私も嬉しくなって」

「今日はめいっぱい楽しみましょ! レッツ買い食い!」

「公爵令嬢さまがそんなこと言っちゃっていいの?」

「いいのいいの! 買い食いはお祭りの醍醐味なんだから!」


 私の手を取りるんるんとスキップするカトリーア。そんなに喜ぶほど美味しい何かが売っているのだろうか。

 どんな物なんだろうと思っていると、殿下が言った。


「ああ、たこ焼き美味しいよね」


 ――思わず、自分の耳を疑った。


「たこ焼き、ですか?」

「あれ、知ってる? 丸い、熱々でソースがかかってるやつ。僕はチーズが好き」

「俺はやっぱりタコだな。あれが魚だなんて信じられねえ」

「そういえば、あの店はバートネット家が出しているんだったな」

「そうよ、露店のおじちゃんはうちの料理長なの」

「た、たこやき……」


 どうやら、私が想像しているたこ焼きと彼らが言うたこ焼きは同じもののようだ。



「はい、アリア嬢。熱いから気をつけろー」


 数分後、私の手の上にはたこ焼きの乗った船型のお皿が載せられていた。日本でよく見かけたたこ焼きが、そのまんま目の前にある。ソースと青のりがかかっていて、爪楊枝が添えられていた。まさか異世界に来てまでたこ焼きを食べることになろうとは。

 街に足を踏み入れるなり、たこ焼きの屋台を見つけたヘレンドさまが猛スピードで走っていって、全員分のたこ焼きを買ってきたのだ。

 たこ焼きに爪楊枝を刺す。ご丁寧にも日本の爪楊枝が忠実に再現されていて、思わず笑ってしまった。そういえば、夏祭りを提案したのはカトリーアだとさっき言っていた。それなら、たこ焼きも彼女が考えたのだろう。よほどタコが食べたかったのだろうか。


「いただきます」


 湯気を立てるたこ焼きを口に運ぶ。はふはふしながら噛むと、中から熱々のとろっとしたものが出てきた。


「チーズだ」

「そ、ラギのおすすめ! ちなみに反対側四つは俺のおすすめのタコな」

「二種類も……ありがとうございます」

「いえいえ、美味しいものは布教しないとね? あ、ほら、あれがたこ焼きの屋台!」


 ヘレンドさまが指差した方向に目を向けると、そこには行列ができていた。


「もう結構並んでるな」

「走って行ってよかっただろ」

「ああ、助かった。今年はたこ焼きが食べられなくなるところだった」

「ふふん。俺お手柄っ」


 ユーリさまが、手の上のたこ焼きを見つめる。上がった口角から、抑えきれない嬉しさが伝わってきた。


「あと俺、かき氷食べたい。レモン味の」

「そうだな。だがあれはすぐ溶けるから夕方の方がいいんじゃないか?まだ暑いぞ」

「確かに。うん、そうしよう」

「かき氷もあるんですね……」

「知ってるのか?」

「一応」


 知ってるも何も。それ絶対、日本のお祭りの屋台を参考にしてるでしょ。

 昔のカトリーアは、よっぽど日本が恋しかったのだろうか。まあ私も恋しくなかったわけじゃないけれど、でも恋しさのあまりお祭りを作ってしまうとは、カトリーアの行動力がすごい。自分の元・姉は、思っていたより大胆な人物だったのか。

 カトリーアをちらりと見ると、満面の笑みでたこ焼きをつついていた。視線に気づいたのかふと私の方を見て、誇らしげに微笑む。「ドヤッ」とセリフが聞こえてきそうな笑みだった。さらにカトリーアは、にやにやと笑って囁きかけてくる。


「ね、だから絶対気に入るって言ったでしょ」

「再現度高すぎ……。まだ何か隠してるとかじゃないでしょうね」

「そういえばきゅうりと輪投げの屋台も作ったなあ」

「大阪の天神祭りでよく見かけた、あのきゅうり……?」

「そう、昔家族で行ったよね。このためにきゅうり畑も作ったんだから」

「……」


 前世で食べた、屋台のまるまる一本のきゅうりを思い出す。あれ、意外とお腹に溜まるんだよなぁ。

 呆れて言葉も出ない私の隣で、カトリーアはえへへと笑った。


「はいカティ、そのきゅうりを買ってきたけど食べる?」

「食べるわ!」

「はい、あーん」

「あーん! ん、美味し!」

「きゅうり畑を作ろうとしてるカティも可愛かったよ。特にあの、ズボンに帽子のカティの新鮮さといったら……」

「い、今はもうやりませんわよ!? それよりアリア、ラギさまがアリアの分も買ってきてくれたから一緒に食べましょっ」


 きゅうりもかき氷も、おいしかった。ただのきゅうりとただの削った氷なのになぜか楽しくて、私達はひたすら笑っていた。

 ちなみにかき氷のシロップには、本物の果汁が使われていた。目の前でミカンが絞られるのは、新鮮でなかなか面白くて、私達は知らない物を見つけた小さな子供のように、ずっとはしゃいでいた。


 輪投げではヘレンドさまが百点のポールに全部の輪っかを入れて、屋台のおじちゃんに「すごいなあんた、輪投げ教室でもやるかい?」と冗談まじりに誘われていた。彼も「あ、それいいっすね」なんて言うものだから、見ていた子供達に輪投げを教えることになった。「腕をこーやって、ばってして」なんて言うヘレンドさまに呆れたユーリさまが、すかさずフォローを入れていた。つくづく、この二人はいいコンビだなと思う。


お読みいただきありがとうございます!

次話は11/4(火)18:00に投稿します。更新通知が来るので、ぜひブックマーク登録をしてお待ちください!


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