31 二人の秘密③
翌日は、殿下とヘレンドさま、ユーリさまが来た。
殿下は屋敷に足を踏み入れるなりカトリーアさまに駆け寄って、「カティ……! 会いたかったあぁぁぁ」なんて言いながら全力で抱きしめていた。その後ろから、もう慣れたという顔をしたヘレンドさまとユーリさま、使用人達が少し遅れて姿を現す。
「まったく、ラギももうちょっと我慢できないかな」
「馬車が止まるなり自分でドアを開けて走り出すんだからな……。毎度思うけれど、執事が可哀想」
「ほらラギー、離してあげないとカティが死んじゃうぞ」
いつもの光景に、心が和む。しばらく会わなかっただけなのに、この賑やかさが少し懐かしく感じた。
その日の夜、食堂でカトリーアが言った。
「今年の夏祭りは明日よ。だから今日は、夜更かし禁止ね。明日起きていられるように、ちゃんと寝ること!」
「夏祭り?」
私が尋ねると、カトリーアさまははっとして、慌てて言った。
「ごめんなさい、アリアには言ってなかったわね。バートネット領では毎年、夏祭りをしてるの。私が提案したのよ。とは言っても今ではもう主催は領民の皆なんだけどね。浴衣はないけど絶対アリアも気に入るから楽しみにしてて!」
そう言って、カトリーアはばちん! とウィンクをした。可愛い。
「ああっ、カティがアリア嬢を呼び捨てにしてる!」
「確かに、言われてみれば」
「この数日何があったんだ?」
「別に何も。ただアリアと仲良くなっただけよ。ねー」
「はい」
カトリーアが首を傾げて同意を求めてきたので、にこっと笑って肯定を返す。
「アリア嬢に先越されちゃったぁ。いいないいな、僕もラギって呼んでほしいなぁ。ねぇカティ、呼んで呼んで、ラギって呼んで」
殿下が小さな子供のように駄々をこねる。ぶんぶんと、子犬の尻尾が見える気がする。
ヘレンドさまが額を抑えた。
「あちゃー、ラギが犬化した。こうなったら長いんだよなぁ」
「ラギもかなりしつこいからな。さて、では僕達は先にいただくとするか」
「そうなんですか。じゃあ私も」
「ラギ、カティー。先食べてるぞー」
「どうぞめしあがれ――って何でラギさま立ち上がってるんですかっ」
カトリーアが悲痛な叫び声を上げて仰け反る。
ヘレンドさまとユーリさまは慣れているようで、二人を無視してさっさと食事を始めようとしている。私もそれに倣い、先に食事をいただくことにした。
「「「いただきます」」」
私達が手を合わせて食事の挨拶をしても、殿下達は気にすることなくいちゃいちゃしている。
「ねぇほら、せーの、『ラギ』」
「な、何言ってるんですかラギさまっ。しませんよそんなこと、ぜったい!」
「えー。アリア嬢のことは『アリア』って呼んでるのに、なんで幼馴染の僕は『ラギさま』なの? というか、カティ、ヘレンのことはヘレンって呼んでるよね?」
「そ、それは」
「ねえ、なんで僕は『さま』付きなの?」
そう言って殿下は、隣に座ったカトリーアにぎゅうぎゅうと詰め寄る。人と人の感覚は椅子二つ分ほど空いているはずなのに、殿下はあっという間に距離を詰め、カトリーアの首に抱きついた。
「ねぇカティ」
「重いですあと邪魔ですラギさまお願いなのでちょっと離れてください」
「やだ」
「なんでですか」
「カティがラギって呼んでくれるまで離れないもん」
「離れないもんって、子供ですか貴方は。そんなこと言ってると『殿下』って呼びますよ」
「えっ、それはやだ」
殿下は即答して、パッとカトリーアから手を離す。カトリーアは、ふうと息をついた。
「あっ、もう食べ始めてる! 抜け駆け! バートネット家の料理美味しいんだから皆で食べたかった!」
殿下がこちらを見て頬を膨らませる。今日の殿下は小さな子供か子犬のようだ。
ヘレンドさまが呆れたように言った。
「俺は一応声かけたぞ」
「えっ聞いてない」
「ラギが聞いてなかっただけ。カトリーアは返事していた」
「ええ、したわ」
「とにかく僕達も食べよっ。ね、カティ」
「はいはい」
カトリーアも呆れたように言う。なんだかんだ言いながら、でも毎回きちんと殿下に付き合ってあげているのだから、カトリーア自身もやっぱり殿下のことが好きなのだろう。
「まったく、このバカップルはいつまでたっても……」
ヘレンドさまがナイフで肉を切りながらぼやいた。
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次話は明日18:00に投稿します。
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