28 バートネット公爵家へ④
「つかれたぁ……」
「お疲れ様です」
着替えを終わらせたカトリーアさまは、部屋に入るなりベッドにぼすんとダイブした。柔らかいマットレスに腹から着地し、そのままの体制で息を吐きながら脱力する。
「あんなに勢いがあるなんて聞いてないわよ。何度尻もちをついたことか……。お尻が割れそうよ」
「でも最後の方は尻もちつかずにできていたじゃないですか。流石、上達が早いですね」
そう言われたカトリーアさまは、口を尖らせた。
「何回やったと思ってるの。あんなにやったら、どれだけ運動音痴でもバランスの取り方くらい覚えるわよ」
時計の針は午後三時を指していた。朝十時くらいから魔法練習を始めたから、昼食を挟んでかれこれ五時間ほどしていたことになる。その間ひたすら『発射』しかしていなかったのだから、ある程度はできるようになっていて然りだろう。
とはいえ、初めはなかなかの惨状が繰り広げられていた。
「まさか、魔法が暴走するなんて思わないじゃない。魔力ならまだしも、魔力をかたちにした魔法が、よ」
「水の塊があっちにいったりこっちにきたり、見ていて面白かったですよ」
「あんなのいきなり制御しろっていうほうが無茶よ。ほんっとうに、怖かったんだからね」
「最終的には制御できるようになったからよかったじゃないですか。まあ私も、暴走した魔法がお花を折っちゃったらどうしようかとは思いましたが」
「アリアさまは何食わぬ顔で氷のシールドを張っていたじゃない。対策まで優秀すぎて腹が立ったわ」
そう言って、二人でくすくす笑う。
ぶうぶう文句を言いつつも、結局は二人とも楽しかったのだ。
「そういえばカトリーアさま」
「何?」
「この間、はぐらかされた話なんですけど」
「な、なんか嫌な予感が……」
「殿下とは、どういう経緯でラブラブカップルになったのですか!」
「し、知らないっ」
「今日という今日は、白状してもらいますからね! さあ、お二人の馴れ初めをお聞かせ願おう!」
この話題は、何度か出してはそのたびにはぐらかされてきた。
顔を赤らめ頑なに首を振るカトリーアさま。絶対に話さない、という強い決意が垣間見える。しかしその決意がどれだけ固かろうと、年頃の女子の好奇心の前にはいつか敗北を喫するというのは、どの世界でも共通だ。
前世でもこうやって姉の恋バナを問い詰めたことがあったなと、思い出してくすりと笑う。
「わ、わかったわよ……」
見つめ合うこと、数十秒。
観念したように呟いたカトリーアさまは、「転生したと気づいたところからでいい?」と、俯きがちに話し始めた。
「私の記憶が戻ったのは八歳の時。花祭りで、殿下とばったり会ってしまったの。今思えば、お父様と陛下が示し合わせていたんじゃないかとも思うのだけど。あの二人、仲良いから」
そこまで言うと、カトリーアさまはふうと息を吐いた。
「記憶が戻った私は、断罪回避のために動き出したのよ。もちろん、なんで私がって泣きもしたわ。でもなっちゃったものは仕方がないから、それなら悪役令嬢じゃないカトリーアとして幸せな人生を送ってみせるって思ってたのよ。破滅エンド回避の一番手っ取り早い方法は王子と婚約しないことだから、お茶会とかも休めるものは全部休んで、できるだけ会わないようにしてたの。なのに、」
「なのになぜか好かれてしまっていた、と」
「そうよ! 本当に、これはなぜなのか私にもわからないの。ラギさまに訊いても教えてくれないし」
「一目惚れとかじゃないのかなーとは、思いますけどね」
「あの真面目で責任感の強いラギさまのことよ。一目惚れで婚約なんて、そんなことしないと思うのだけど」
「わかりませんよ?恋は人を変えるって言いますからね」
いししと悪く笑うと。
「知らないわよ!」
とやけくそな声が返ってきた。
「とにかく、逃げても逃げてもなぜかばったり会うことが増えて、気づいたら婚約してたのよ。九歳の時の話ね。それから五年、ずっとラギさまはあんな感じよ」
「王太子夫妻の仲がよろしいようで何よりです」
「ま、まだ結婚してないから!」
赤くなって私の肩をぽかぽかと叩いてくるカトリーアさまは、今日も可愛い。殿下が一目惚れするのも頷ける可愛さだ。
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