27 バートネット公爵家へ③
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翌朝。豪華な朝食を頂き、魔法科座学の課題を超特急で終わらせた私達は、バートネット家の広い庭園の真ん中にいた。
見渡す限り、バラをはじめとした色とりどりの花々が荘厳なほど美しく咲き誇っている。だが花々に囲まれたその中心で、私達は学園の体操服を着て対峙していた。
貴族の子息が通うフルーツェア魔法学園は、制服や指定鞄のデザインは上質で豪華だ。貴族が好む煌びやかさと淑やかさ、その両方を取り入れた制服は人気が高い。しかし体操服だけは、「ダサい」の一言に尽きる代物だ。動きやすさを重視した、装飾もモチーフの刺繍も何もない、白の半袖シャツと紺色のハーフパンツ。後付けで刺繍やワッペンなどを施すことは禁止されている。シャツの胸の中央には、紺の糸ででかでかと校章と家名の刺繍が入っている。ちなみに、家名は筆記体ではなく楷書だ。
「アリアさま、どうしてワンピースではなく体操服を? わざわざ寮から持ち帰って、さらに私に貸してまで」
体操服は寮に置きっぱなしだというカトリーアさまには、私の体操服を貸した。彼女は私よりも少しだけ背が高いが、サイズはほぼ一緒らしい。次の体育の授業までに汚れが落ちなかった時のために、とハンナが二枚買っておいてくれていたのがここで役に立った。
「あまり背丈に差がなくてよかったです。うん、問題なく着れてますね。体操服に着替えたのは、尻もちをついた時に汚れると大変だからですよ。まあいずれは、一歩も動かずに発動できるようになっていただきたいとは思っていますが」
今日伝授するのは、使いこなせられれば強力な武器にも生活の補助にも役立つ魔法。単純だが魔力の扱いやイメージに慣れていないと、暴走させて周囲に甚大な被害が出てしまう。コツコツと魔法の練習を続けてきたカトリーアさまの魔法の腕は、もうかなり上達している。そこで、そろそろこれを教えてもいい頃かと判断したのだ。
「今日お教えするのは、『発射』という全属性魔法です」
「聞いたことがないわ」
きょとんとした顔をするカトリーアさま。この魔法の名称を聞いて「知ってる」と答えたのは、今まででも護衛やメイド数人くらいしかいない。
「これは普通に生活する分にはほとんど必要ないので、知らない人の方が多いと思いますよ。扱いも他の魔法に比べると少し難しいですしね。でも使いこなせれば、確実に便利です。お花の水やりや護身、ドッキリを仕掛けるときなんかにもおすすめですよ」
ただ、習得には周囲を破壊する危険が伴うため補助者が必要なのだが。今回は、昔私の補助も務めたハンナがいるから大丈夫だろう。
「難しいなんて聞いたら燃えちゃうじゃない。頑張って早く習得してみせるわ」
「ふふ、その調子です。じゃあ、早速始めちゃいましょうか。まずは私のお手本をよく見てください」
そう言うと、私は両手を真正面に突き出して手のひらで三角形を作る。そのまま意識を三角形の中心に集中させて、狙うは三十メートル先に無表情で立っている、ハンナ。
「……『発射』!」
その瞬間、強い風がハンナに向かって駆け抜けた。三角形から勢いよく噴射された水は、目にも止まらぬ速さでハンナめがけて飛んでいく。重力に従って地面に落ちることも駆け抜けるスピードが落ちることもなくゴウっと音を立てて走り抜けたその拳大の塊は、ハンナに当たる寸前で突如広がった傘に当たり勢いよく砕け散った。
ハンナは傘を閉じると上下に振って水を払い、何事もなかったかのように体の前で両手で持ち直す。昔私が『発射』の練習をする際に使っていた、的兼防御用特注傘。やぶれや水に強い最新の素材と加工を使い領地一の傘職人に作ってもらった、至高の一品だ。全体が淡いピンク色で、中心部分だけ黄色になっている。裾には清楚なレースがあしらわれた、大人っぽくて可愛いデザインだ。もちろん普段使いもできる。
私の魔法に開いた口が塞がらない様子のカトリーアさまとリンさん。
私は、「できるかしらこんなの……」と少し怖がるカトリーアさまの肩をポンと叩く。
「じゃあ早速やってみましょうか」
にっこり微笑んで言うと。
「ひっ」
彼女は小さく悲鳴をあげたのだった。
そして数分後。
「は、『発射』っ。きゃああっ!」
広い庭に、弱々しい詠唱と大きな悲鳴が響いたのだった。
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