26 バートネット公爵家へ②
***
「いらっしゃい、アリアさま!」
馬車が止まるなり、カトリーアさまが駆け寄ってきた。
「待ってたわ! 楽しみすぎて、首が十センチは伸びるかと思ったわ」
「私も、夜しか眠れませんでした」
「十分じゃない」
二人で軽く冗談を言い合い、笑う。
そんな私達を、カトリーアさまを追いかけるように建物から出てきたメイド服の女性とハンナは、にこにこしながら見つめていた。
「そうだアリアさま、紹介するわ。こちら、私の侍女のリンよ」
リンさんは、一部の隙もなくお辞儀をした。
続いて、ハンナも同じように礼をする。
「こちら、侍女のハンナです」
「ハンナさん、短い間ですが、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
これまた隙のない微笑を浮かべたリンさんが、ハンナに言う。
「じゃあ早く荷物を置いて、ディナーにしましょうか!」
カトリーアさまの合図で、私たちは屋敷に足を踏み入れた。
その瞬間、思わず感心の溜息が出た。
入り口のドアを抜けてまず目に飛び込んできたのは、幅四メートルを超える、大きな階段。ステップはスケルトンになっていて、階段の向こう側の廊下が見えた。その廊下も、花や絵画が飾られていて、『豪華』の二文字がよく似合う。天井からは水晶でできた大きなシャンデリアが、大きな窓から差し込む紅い夕陽を受けてキラキラと輝いている。床は塵ひとつ無く、よく磨かれたタイル張りだ。
そして、ずらりと使用人達が並ぶさまも美しかった。全く同じ角度で下げられた頭、合図もなく揃って響く「いらっしゃいませ」の声。さすが公爵家、使用人の教育も行き届いている。
「すごいですね……」
「そう? 玄関はお客様をお迎えするところだから掃除は徹底しているのよ」
「掃除に限らず、それ以外も、なんかもう、色々とすごいです……!」
カトリーアさまはこれが普通だと思っているのか、再び「そう?」と言った。ラティーア家も筆頭伯爵家ではあるが、家の格の差を、ここで感じたような気がした。使用人はともかく、ラティーア家の屋敷には、水晶のシャンデリアなどない。
そして、案内された部屋も食堂も、すごかった。すごいの一言しか出てこなかった。
部屋の内装が、とにかく豪華なのだ。つくづく、公爵家ってすごい。
「アリアさま、枕投げをしましょう!」
お風呂上がり。まだ少し湿っている髪をおさげにしたカトリーアさまは、意気揚々と言い放った。その言葉に、寝る気満々で移動式の簡易ベッドに座っていた私は、ぎょっと目を剥く。
「お風呂で、今日は疲れているだろうから早く寝ましょうと言っていたのはどこの誰ですか」
「だって、修学旅行の醍醐味といえば枕投げでしょう?」
「私の学校では禁止されていましたがね」
「あら奇遇ね、私もよ」
カトリーアさまの希望で、私の泊まる部屋はカトリーアさまと同じ部屋ということになった。てっきり定番の恋バナでもするのだろうと思っていたのだが、枕投げもしたかったのか。カトリーアさまが同室を激しく主張した理由を思うと、くすりと笑みが零れた。
「じゃあ早速。いくわよ、アリアさまっ」
「きゃっ。やりましたね? お返しです!」
暫くの間、二人できゃいきゃいと笑いながら枕をぶつけ合う。広い部屋は物が少なくすっきりとしていて、思いっきり枕を投げても、どこにも当たらずぽすりと落ちた。人生二回合わせて初めての枕投げは想像よりもずっと楽しく、思いの外、痛かった。
「いい運動になったわ。じゃあおやすみなさい、アリアさま」
夜十一時。カトリーアさまは時計に目をやると、あっさりと枕投げをやめた。部屋中に散らばった枕やクッションをまとめてクローゼットにしまい、「あー楽しかった」と満足そうな顔で扉を閉めた。そしてベッドに入ると、白いレースの夏布団を被る。私も枕を一つ取ってベッドに置くと、小花柄の布団を被った。
「アリアさま、明日は魔法を教えてくださいね」
「もちろんです! お任せください」
二人きりの休暇。何をして過ごそうか。どんな魔法を教えてあげようか。
明かりを消した闇の中、まだ暗さに慣れない目で声の方を見つめ、微笑みと共に返事をした。
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