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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
23/123

23 闇魔法②


「今日の授業は闇魔法についてです」


 闇魔法?知らない属性だ。見たことも聞いたことも無い。

 魔法については、幼少期から親しんできて、様々な文献を探して集めては何度も読み返した。にもかかわらず、まだ知らない事があることに驚きを覚えた。

 この世界に存在する魔法属性は火、水、風、光の全部で四つ。それ以上はなく、人々は魔力の強さや扱える魔法の属性の違いはあれど、全ての魔法はこの四種類に分類される。子供でも知っている、常識だ。もちろん、私が読んだ文献にも同じ事が書いてあった。

 サリヴィア先生は、自分の知識や世の中の常識と違う言葉に混乱し頭の中がはてなマークでいっぱいになっている私をちらりと見た。その後教室を一度ぐるりと見渡して、言葉を続ける。


「闇魔法について皆さんが知らないのは当然のことです。逆に、知っていたらびっくりしますよ。国の重臣達がそろって卒倒するような事態ですからね。冗談ではなく、本当に、です」


 先生の言葉に、皆ぽかんとしている。いつもは冗談など言わないサリヴィア先生が冗談とも受け取れる事を言ったことに、驚いているのだ。先生本人は、冗談ではないと言っているのだが。


「闇魔法については、一般国民にはその存在自体が秘匿されています。闇魔法は危険な性質を持っているため、こうして学園で貴族にのみ教え、箝口令も敷かれています。また、闇魔法についての文献や論文は全て、王立図書館の禁書庫で保管されています。あなた達も、もし平民に向かって闇魔法の事を口にするようなことがあれば処罰されるので気をつけなさい。では、授業に入っていきましょうか。教科書には載っていないからただひたすら私が喋るだけの授業になるけど、寝ないで聞いてね」


 そう言うとサリヴィア先生は、黒板の左上に『闇魔法』と書いた。


 文献が市場に出回っていないのなら、私が知らないのも当然だ。まじらぶでも、闇魔法は登場しなかった。作中で起こる事件と関わりはあったがあえて語られなかったのか、それとも関わりがなかったのか、そもそも『闇魔法』という設定自体存在していなかったのか、理由は分からない。

 しかし、まじらぶにも闇魔法が存在していてもおかしくはない。前世でよくあった異世界ものの小説では、闇魔法や闇属性に対抗できるのは聖属性や光魔法である場合がほとんどだった。その場合、もし闇魔法関連で何かがあった時、それと対峙するのは自分自身である可能性が高い。貴重な光属性の人間は、国中を探し回っても三桁にも届かない。さらに戦闘ができるほどの魔力量がある人間となれば、その数は激減する。

 その『もし』が起こることはないと思うが、知識はあって損はない。

 それに、何より、魔法に関する新しい知識を得られるのは久々なのだ。自然と前のめりの姿勢になるのも仕方がないというものだろう。


「闇魔法については分かっていない事が多いうえに、危険だから教えられる事は少ないのだけれど……」


 サリヴィア先生はそう前置きすると、話し始めた。


「まず、正しい言い方は『闇属性』ではなくて『闇魔法』よ。まあ、どちらでも通用するから特に使い分ける必要はないのだけれど。闇魔法は他の属性とは違って、自然には『闇の魔素』というものが存在しないの。すなわち、『闇属性』――闇の魔素を専門に扱う人はこの世には居ないのよ。じゃあ、闇魔法はどうやって使うのか、って今皆さん思ったわよね」


 先生はそこで一瞬だけ目を伏せた。教室内の生徒の集中が、先生の一挙手一投足に注がれていくのを感じる。いつしか教室はぴんと張り詰めた空気で満たされ、窓に打ち付ける雨音がぱたぱたと聞こえるだけとなっていた。


「これについては、まだ解明されていないことも多いのだけど、闇の魔素は、負の感情を持って魔法を使うことによって生まれると言われているわ。誰かを傷つけたいとか、誰かの害になる事をしたい、そう思って魔法を使うと、そのとき使われた魔素がのうちのごく僅かな量が闇を帯びて闇の魔素になると言われている。だから、魔法を使った戦争は国際法や国の法律でも禁止されているでしょう。詳しい事のわからない闇の魔素が大量発生したら、何が起こるか分からないからね」


 確かに、言われてみれば、嫌なことを考えながら魔法を使ってはいけないと、昔言われた覚えがある。あれは、闇の魔素が発生するのを防ぐためだったのか。

 まだ仕組みがはっきりしていないものを大量発生させるのは危険度が高い。もし、闇魔法の存在が広く知られていたら、独自にそれを研究し利用しようとする人も出てくるかもしれない。闇魔法の存在が伏せられているということは、闇の魔素の存在を知らず悪意を持って魔法を使ってしまうことよりも、万が一にでも闇魔法が使われてしまう方がよっぽど危ないということなのだろう。


「でも、闇魔法の発動の仕方はまだ解明されていないの。私たちが扱う火や風などの属性とは、その成り立ちから異なるものだから、常識が通用しないのよ。研究は国家魔法士が行なっているけど、怖くてやりたがらない人が多いのも事実ね。魔物――あの真っ黒な動物ね、は闇魔法を使うと言われているけれど、それもよく分かっていないの。過去、魔物の解剖をした研究者がいたけど、属性魔法を操る魔獣と同じつくりだったそうよ」


 闇魔法については本当に分かっていない事が多いようで、先生は「まだ解明されていないのだけれど」と繰り返しながら授業を進めていく。



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った後も、皆の集中は暫く続いた。考え事をしているのか、重い顔で俯く者、周りの友人達と妄想を広げて語り合う者……。

 その頭の中にあるのは、闇魔法の事だ。

 いつもは授業が終わると私か殿下の席に飛んで行くカトリーアさまも、今日は一人静かに席に着いて、難しい顔で俯いている。私も、自分の席から動く気にはなれなかった。

 先生がただ喋るだけの授業で眠くなる人もいるかと思ったが、いつも座学ではうとうとしがちなヘレンドさまも、この授業だけは真剣に聞いていた。もっとも、彼は次の古語の時間には爆睡して、先生に教科書で頭を叩かれたのだが。


お読みいただきありがとうございます!

次話は明日の18時に投稿します。更新通知が来るので、ぜひブックマーク登録をしてお待ちください!


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