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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
19/67

19 花祭り③





「それにしても、さっきの虹、すごかったわね。虹の下でプロポーズなんて、ロマンチックで憧れるわ」


 噴水からアイスクリーム屋へ向かう道。

 カトリーアさまが目を輝かせている。殿下はそんな彼女を優しい目で見つめている。おおかた、彼女へのプロポーズのことでも考えているのだろう。


「タイミングがぴったりだったね」

「奇跡か?!それか、女神様の祝福とかか?」


 ヘレンドさまも、興奮が冷めきらない様子だ。

 そんな中、ユーリさまだけがこちらを流し目で見た。


「あれは、アリア嬢の仕業か?」

「え……どうして分かったのです?」


 突然の問いに、目を丸くする。

 ユーリさまは一瞬の間をおいて答えた。


「君の属性は、水と光だから。それに、虹がかかる前、手を上に向けていただろう」

「……よく気づきましたね。バレてないと思ったのですが」

「あの場において、二つの属性を一人で同時に使えるのは君しかいない。誰かと協力していたのなら別だが」

「うっ。確かに……」


 気付かれていないと思ったのに。少し悔しい反面、気付いてもらえて嬉しい気持ちもあった。


「皆さま! アイスクリーム屋さんが見えてきたわ」


 耳に届いたカトリーアさまの嬉しそうな声に、視線が自然と前を向く。

 この世界の文字で『アイスクリーム』と書かれた旗がたなびいているその屋台は、普段はカフェを営んでいる店なのだろう。アイアンの丸テーブルや椅子が、屋台の横にいくつか置かれている。

 ポップな色遣いの屋台の前には、老若男女様々な人々が列を成している。ざっと十人ほどだろうか。街全体がお祭りムードで屋台が多い上に、まだピーク前で人もあまり多くないこの時間帯に、この人数は多い方だった。


「ほら、早く行かないと列が長くなってしまうわ。急ぎましょう」

「そうだ。カティ、アイス半分こしよっか」

「なっ。こんな街中で……か、構いませんわよ、別に……」


 赤面していつものように断るかと思ったが、カトリーアさまはどこか諦観が混じった表情で承諾した。

 殿下、今日は特にカトリーアさまに甘い気がする。一緒に城下を歩けて喜んでいるのだろう。見ているだけで胸焼けしそうだと思い、アイスはミント味にしようと決めた。

 ふと隣を見ると、やはり苦い顔をしているユーリさまとヘレンドさま。ヘレンドさまは、シャツの胸の辺りを掴んでいる。


「今日はまた一段と甘々で……。全く、城下でくらい自重してほしいな。胸焼けがする」


 ユーリさまもうんうんと頷いている。そのお気持ち、同感しかないです。


「普段城下にいらっしゃるときは、ここまでしないのですか?」


 小声でユーリさまに尋ねると。


「そうだな、僕達は城で留守番していることが多いから、護衛に聞いた方が確実だが」


 そう前置きをしたユーリさまは、呆きれが混じった顔をした。


「普段は、学園にいる時とさほど変わらないな。ただ、今日のような祭りの日は露店などもあるからか、酷くなる」

「じゃあ今日の殿下はお祭りモードってことですね……。カトリーアさまも大変ですね」

「カティはよく耐えてるな。というかあいつも、いつも断ろうとしてるけど本心では喜んでるんじゃないか?照れてるだけで」


 ヘレンドさまの言うことももっともだ。相思相愛の二人のいちゃいちゃは、今もまだ私たちの目の前で続けられていた。





 二段になっているチョコミント味のアイスクリームを食べた後。

 嫌だ離れたくない一緒にいると駄々をこねる殿下を、呆れを通り越してもはや無表情の側近二人が引っ張って行き、やっと女子二人きりの時間ができた。小一時間ほどアクセサリーショップを回り、お揃いのカチューシャを買った。

 ほくほくした気分でふと店の時計を見ると、もう正午を回っていた。そういえばお腹が空いたと、そこでやっと気づく。

 先ほど別れた男子三人と合流して、昼食をとることにした、のだが。


「ここどこ……?」


 私は現在、道に迷っていた。


 お昼になると人が増え、道は人の頭で埋め尽くされていた。カトリーアさまとはぐれないよう手を繋いで歩いていたのだが、大通りに出たところで人の波に流され、手が離れてしまったのだ。カトリーアさまの護衛もついてきているはずなのだが、どうやら彼らともはぐれてしまったようだ。人の波に逆らえずそこそこの距離を歩いた気がするから、仕方がないといえば仕方がないのか。

 私はとりあえず道の端に寄り、比較的人の少ない脇道に入った。さて、集合場所のアイスクリーム屋に向かおう、と思ったところで、はたと気付いたのだ。


「私、王都、分からない……」


 さあっと血の気が引くのを感じた。

 幼い頃から領地で過ごしてきた私には、王都で過ごした記憶はほとんどない。その上、ここは領地に移る前、王都にいた頃も滅多に来なかった、商店街である。道が分かるはずもなく、途方に暮れる。


 人とはぐれたときは、どうするのが正解なのだろうか。探して動き回った方がいいのか、じっとしていた方がいいのか。

 大通りは人が多すぎて出られないから、カトリーアさまの後を追うことはできない。となると、このまま大通りとは反対方向に進んでアイスクリーム屋を探した方がいいのだろうか。


 悩んでいると、だんだん不安になってきた。このまま、誰にも見つけられなかったらどうしよう。寮に帰れなくなったらどうしよう。夜は私の光魔法で灯りをとることはできるけれど、寒いしお腹も空くし、ならず者が出たらどうしよう。私が戻らなかったら皆にも心配をかけてしまう。


 ネガティブな思考は止まるところを知らない。底なし沼のようにどんどん深くなるそれに、私はずぶずぶとはまっていく。

 拭いようのない孤独感が、どんどん大きくなって私を襲う。

 アイスクリーム屋の前で心配しながら私を待っているだろう皆の顔が浮かび、視界が潤んだ。胸から熱いものが込み上げてきて、必死に溜めていた涙が溢れそうになった、その時。


お読みいただきありがとうございます!

次話は明日の18時に投稿します!


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