19 花祭り③
「それにしても、さっきの虹、すごかったわね。虹の下でプロポーズなんて、ロマンチックで憧れるわ」
噴水からアイスクリーム屋へ向かう道。
カトリーアさまが目を輝かせている。殿下はそんな彼女を優しい目で見つめている。おおかた、彼女へのプロポーズのことでも考えているのだろう。
「タイミングがぴったりだったね」
「奇跡か?!それか、女神様の祝福とかか?」
ヘレンドさまも、興奮が冷めきらない様子だ。
そんな中、ユーリさまだけがこちらを流し目で見た。
「あれは、アリア嬢の仕業か?」
「え……どうして分かったのです?」
突然の問いに、目を丸くする。
ユーリさまは一瞬の間をおいて答えた。
「君の属性は、水と光だから。それに、虹がかかる前、手を上に向けていただろう」
「……よく気づきましたね。バレてないと思ったのですが」
「あの場において、二つの属性を一人で同時に使えるのは君しかいない。誰かと協力していたのなら別だが」
「うっ。確かに……」
気付かれていないと思ったのに。少し悔しい反面、気付いてもらえて嬉しい気持ちもあった。
「皆さま! アイスクリーム屋さんが見えてきたわ」
耳に届いたカトリーアさまの嬉しそうな声に、視線が自然と前を向く。
この世界の文字で『アイスクリーム』と書かれた旗がたなびいているその屋台は、普段はカフェを営んでいる店なのだろう。アイアンの丸テーブルや椅子が、屋台の横にいくつか置かれている。
ポップな色遣いの屋台の前には、老若男女様々な人々が列を成している。ざっと十人ほどだろうか。街全体がお祭りムードで屋台が多い上に、まだピーク前で人もあまり多くないこの時間帯に、この人数は多い方だった。
「ほら、早く行かないと列が長くなってしまうわ。急ぎましょう」
「そうだ。カティ、アイス半分こしよっか」
「なっ。こんな街中で……か、構いませんわよ、別に……」
赤面していつものように断るかと思ったが、カトリーアさまはどこか諦観が混じった表情で承諾した。
殿下、今日は特にカトリーアさまに甘い気がする。一緒に城下を歩けて喜んでいるのだろう。見ているだけで胸焼けしそうだと思い、アイスはミント味にしようと決めた。
ふと隣を見ると、やはり苦い顔をしているユーリさまとヘレンドさま。ヘレンドさまは、シャツの胸の辺りを掴んでいる。
「今日はまた一段と甘々で……。全く、城下でくらい自重してほしいな。胸焼けがする」
ユーリさまもうんうんと頷いている。そのお気持ち、同感しかないです。
「普段城下にいらっしゃるときは、ここまでしないのですか?」
小声でユーリさまに尋ねると。
「そうだな、僕達は城で留守番していることが多いから、護衛に聞いた方が確実だが」
そう前置きをしたユーリさまは、呆きれが混じった顔をした。
「普段は、学園にいる時とさほど変わらないな。ただ、今日のような祭りの日は露店などもあるからか、酷くなる」
「じゃあ今日の殿下はお祭りモードってことですね……。カトリーアさまも大変ですね」
「カティはよく耐えてるな。というかあいつも、いつも断ろうとしてるけど本心では喜んでるんじゃないか?照れてるだけで」
ヘレンドさまの言うことももっともだ。相思相愛の二人のいちゃいちゃは、今もまだ私たちの目の前で続けられていた。
二段になっているチョコミント味のアイスクリームを食べた後。
嫌だ離れたくない一緒にいると駄々をこねる殿下を、呆れを通り越してもはや無表情の側近二人が引っ張って行き、やっと女子二人きりの時間ができた。小一時間ほどアクセサリーショップを回り、お揃いのカチューシャを買った。
ほくほくした気分でふと店の時計を見ると、もう正午を回っていた。そういえばお腹が空いたと、そこでやっと気づく。
先ほど別れた男子三人と合流して、昼食をとることにした、のだが。
「ここどこ……?」
私は現在、道に迷っていた。
お昼になると人が増え、道は人の頭で埋め尽くされていた。カトリーアさまとはぐれないよう手を繋いで歩いていたのだが、大通りに出たところで人の波に流され、手が離れてしまったのだ。カトリーアさまの護衛もついてきているはずなのだが、どうやら彼らともはぐれてしまったようだ。人の波に逆らえずそこそこの距離を歩いた気がするから、仕方がないといえば仕方がないのか。
私はとりあえず道の端に寄り、比較的人の少ない脇道に入った。さて、集合場所のアイスクリーム屋に向かおう、と思ったところで、はたと気付いたのだ。
「私、王都、分からない……」
さあっと血の気が引くのを感じた。
幼い頃から領地で過ごしてきた私には、王都で過ごした記憶はほとんどない。その上、ここは領地に移る前、王都にいた頃も滅多に来なかった、商店街である。道が分かるはずもなく、途方に暮れる。
人とはぐれたときは、どうするのが正解なのだろうか。探して動き回った方がいいのか、じっとしていた方がいいのか。
大通りは人が多すぎて出られないから、カトリーアさまの後を追うことはできない。となると、このまま大通りとは反対方向に進んでアイスクリーム屋を探した方がいいのだろうか。
悩んでいると、だんだん不安になってきた。このまま、誰にも見つけられなかったらどうしよう。寮に帰れなくなったらどうしよう。夜は私の光魔法で灯りをとることはできるけれど、寒いしお腹も空くし、ならず者が出たらどうしよう。私が戻らなかったら皆にも心配をかけてしまう。
ネガティブな思考は止まるところを知らない。底なし沼のようにどんどん深くなるそれに、私はずぶずぶとはまっていく。
拭いようのない孤独感が、どんどん大きくなって私を襲う。
アイスクリーム屋の前で心配しながら私を待っているだろう皆の顔が浮かび、視界が潤んだ。胸から熱いものが込み上げてきて、必死に溜めていた涙が溢れそうになった、その時。
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