18 花祭り②
今日の朝にも更新しています。お読みでない方は1話前から!
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そして迎えた、五月二十日。花祭り当日。
今日は国民の祝日なので、学校は休みである。
私達は寮の門で待ち合わせし、街に繰り出した。
雲ひとつない明るい青空は、私の心を映し出しているかのようだ。
「アリアさまっ」
私の隣を歩くカトリーアさまが、一歩前に出て、くるりとこちらを振り返る。少し癖のある茶色い髪がふわりと風に靡いた。
「今日はたくさん遊びましょうね!」
にこにこ笑顔の彼女から、今日を心底楽しみにしていたのだということが伝わってくる。
「はい」
こちらも笑顔で返事をすると、カトリーアさまは嬉しそうにふふっと笑い、その場でくるりと一回転した。そして鼻歌を歌い出す。
「あ、そうだ」
ふと呟いた私の声に、並んで歩いていた四人が私の方を見る。カトリーアさまは鼻歌をやめたが、それでもまだわくわくが隠しきれておらず、溢れ出していた。
「馬車の手配、しておきました。四時に家に行って、帰りは馬車です。家は街の中心部から比較的近くて、歩きで十五分くらいの距離です」
「ついに花冠を実際に作れるのね! 本は読んできたから、予習は完璧よ」
「あら。では、楽しみにしていますね」
私とカトリーアさまはうふふと笑った。
何となく前の方、少し遠くに視線を向けると、ここよりも人が多いことに気付いた。どうやら街まではもうすぐのようだ。
ヘレンドさまもそれに気付いたようで。
「あっほら、街が見えてきたぞ!」
その声に、一同は前方を見た。カトリーアさまが一層目を輝かせる。
街の中心部が近づいてくるにつれて、建物の細かい外装までよく見えるようになってきた。まだ朝だからか、人は想像していたよりも少ない。
ざっと見渡してみると、市場のような屋台やカフェ、雑貨屋などの商店街が広がっている。その中心にある広場の噴水に続くあまり混んでいない道を、5人でかたまって歩く。
「さて、どこから行こうか」
「私、小さい頃から毎年行ってるアイスクリーム屋さんがあるの。まずは、そこに行きたいわ」
「それってもしかして、十一歳くらいの時に一緒に行ったところ?」
「そう、それですわ」
「じゃあ、そこに向かおうか。皆いい?」
やっぱり、このらぶらぶカップルは花祭りデートをしたことがあったのか。何回かはあるだろうとは思っていたが。そもそも現在の花祭りは永遠の愛を願うお祭りとして開催されているから、何らおかしいことではないが。
「もちろんです。私はあまり王都に詳しくないので、案内していただければと」
「もちろんよ! 私も、アリアさまといろんなところを回りたいわ」
カトリーアさまがもうすっかり見慣れた満面の笑みで言う。
まさかこの短期間で、一緒に街に出掛けるほど仲良くなれるとは思ってもみなかった。入学前はいじめられるかもと心配していた彼女と親しい仲になれたのは、とても嬉しい。
その時ちょうど、噴水の前に差し掛かった。噴水にはなぜか色とりどりの花が浮かんでいる。故郷の領地では見ない風景に、目を奪われた。
噴き上げる水から細かい飛沫が飛んできて、顔にかかる。朝のひんやりとした空気も相まって、とても気持ちが良い。
周りを見渡してみて、あることに気がついた。
「この辺りはお花屋さんが多いのですね。街の中心部だからでしょうか」
私の呟きに一同はきょとんとした後、ああ、と納得したような顔を見せた。
「確かに。小さい頃から花祭りは王都に来てるからこれが普通って感じだったけど、言われてみれば花屋は噴水の周りが一番多いな」
「アリア嬢のところは違うのか?」
ヘレンドさまの問いに、私は数秒考えて答える。
「私のところは、町中至る所にクローバーが生えていたので。何なら、花祭りの日はクローバー専門のお店や花冠の屋台も出てました」
「それはすごい。地方が変わると、売っているものも変わるのか」
「向こうでは花祭りといえばクローバーの花冠、だったので」
「お花屋さんは無かったの?」
「花屋自体は町に何軒かありましたし、当日もお花は売ってましたけど……。それでも、クローバー多めでしたね。ブーケやドライフラワーもクローバーばかりでした」
「地域による文化の違いってすごいな!」
「そこまで町がクローバーに染まるんだな」
「はい。機会があれば、ぜひ花祭りの時期にいらしてください。王都からは少し遠いですが、空気と景色は良いですよ」
「ええ、必ず! そうだ、せっかくだからお花を買っていきましょうか。花祭りですし」
カトリーアさまの提案で、私達はちょうど近くにあった花屋の屋台に向かった。近くまで行くと、花の瑞々しい香りが鼻腔をくすぐる。
「アリアさまは、どのお花がお好きですか?」
「私は……ガーベラですかね。でも今日は花祭りなので、故郷の慣習に則ってクローバーも買います」
店主に代金を払って屋台を後にする。
さりげなくそれぞれの手元を盗み見ると、それぞれ違う花がその手に握られていた。選ぶ花にも個性が出ているな、と思う。
「この辺りでは、花を噴水に浮かべて、一年の幸せを願うのよ」
「恋人と来たら、永遠の愛を願うこともあるね。ということで、僕とカティは愛を願うよ」
「そうなんですか……! 本当に、地域によって全然違いますね」
「ラティーア領では花冠だものね」
「はい。しかも、こんなに街が色鮮やかではないのでとても新鮮です」
「なら、今日はアリアさまの初噴水ね!」
私は買ったガーベラとクローバーの花弁にそっとキスをして、噴水の水に乗せる。指先を離れた花は、ゆらゆらと小さな波に揺られながら、少しずつ遠ざかっていった。
「殿下はすみれの花にしたんですね」
「うん。カティの瞳の色だったから」
「ラギさま、街中では……!」
「ふふ。殿下らしくていいと思います。ヘレンドさまは赤とピンクのバラ……。定番のお花ですね」
「ああ。俺と、妹の分だ。妹の瞳がピンクでさ。あいつたぶん今日も起きてないと思うから、代わりにと思って」
「妹さん、病弱なんでしたよね。よくなることをお祈りしてます」
「ありがとう。ユーリはいつも通り濃い色だな。これは……青紫か。青はなかったのか?」
ピンクや白、黄色の花が多い中でユーリさまの青紫のアネモネは存在感を放っていた。
「僕の色である黒も青も、花には少ないから」
……確かに。
前世では存在した青いバラも、この世界ではまだ作られていない。もしあったとしても、簡単には手に入らなさそうだ。
「カトリーアさまは――」
「私はクローバーよ。アリアさまのお話を聞いて、今年はクローバーにしようと思ったの」
それは嬉しい。
ゆらゆらと流れていく花を見送り、噴水を離れようとしたその時。
「どうか、この先の人生を、僕と共に歩んではくれませんか」
響き渡ったその声に、びくりと肩が跳ねた。声のした方を見ると、平服を着た二十歳くらいの男性が、向かい合った女性に大きなバラの花束を渡そうとしているところだった。当然自分にかけられた言葉ではないが、どきどきしてしまう。
周りの人達も、足を止めて二人を温かく見守っていた。
――やがて。
「はい、もちろんです……!」
答えた女性の声は、喜びに満ち溢れていた。花束を受け取り、優しく破顔する。今まで見た表情の中で一番美しいと思った。彼女の頬を伝った一筋の涙が、春の優しい陽光を受けてきらりと光る。そして、二人は喜びを噛み締めるように抱きしめあった。
ーー愛とは、こんなにも素晴らしいものなのか。
本人達だけではなく、見ている人まで幸せに、笑顔にさせる不思議な力を持っている。その力はまるで魔法のようだ。
どこからともなく拍手がおこる。それに倣って私も手のひらを打っていると、ふと閃いた。
そっと両手を肩の高さに上げ、手のひらを斜め上、抱き合っている彼らの頭上に向ける。ぐっと力を込め、魔力を中に放った。そのまま、口の中で小さく呟く。
使うのは、二種類の魔法。
「『陽光』」
周囲が小さくどよめき、それに気づいた中心の二人も、周りの視線を追う。
弧を描く七色の光は、私からのささやかな祝福の気持ちだ。
願わくは、彼らのこれからが幸せに溢れたものになるよう。
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