14 追憶②
ふっと、それまで遠くにあった意識の中に、急に引き摺り込まれた。
ぼやけていた焦点が一つに定まり、ようやく、ぐっしょりと汗をかいていることに気がついた。
心臓がばくばくと脈打っている。荒い呼吸を整えようと、深く息を吐いた。
何度か深呼吸をして、物の輪郭がわかるようになった頃、ふと窓の外に目を向けた。明るみ始めた空は、朝焼けの美しい紫に覆われている。それを見て、無性に泣きたくなった。
「ごめん、お姉ちゃん」
呟いた声は、朝の静けさに吸い込まれて消えた。
前世の夢を見るのは久しぶりだ。
連日、カトリーアさまと『まじらぶ』の話をしていたせいだろうか。その夢は、今も鮮明に瞼に残っている。
ぼーっとしていた私はしばらくののちやっとベッドを降り、窓へと歩く。開け放つと、薄いカーテンがふわりと揺れる。
どこまでも続く紅い朝焼けは前世で見た夕焼けよりも寂しそうな色をしていて、無意識に、一筋の涙が頬を伝った。
どのくらい時間が経っただろうか。
コンコン、とノックの音が聞こえた。急いで、乾いた目尻を指で拭う。
ドアを振り向くと、人が一人入れるくらいまで開いた隙間から、ハンナが姿を現した。視線が絡んだ彼女は一瞬固まる。しかしすぐにいつも変わらない微笑を浮かべた。
「……お目覚めでしたか、お嬢様」
目の周りはもう乾いているし、たぶん涙の跡も残っていない。きっと、別の何かから察したのだろう。さすが専属侍女、とでもいうべきか。
「少し早いですが朝食にいたしますか?」
異変に気づいてもいつも通りに接してくれるハンナに、沈んでいた心が少し救われたような気がした。
「ーーありがとう」
その言葉に隠した意味が彼女に伝わることはないとしても。浮かべた笑みに、彼女が安堵してくれているといいな、と願う。
「ハンナはもう食べた?」
「いいえ、まだ……」
「なら、一緒に食べよ。たまにはいいでしょ」
「では、お言葉に甘えて」
手を洗いに洗面所へ向かおうとした私は、部屋を出る直前で足を止めた。後ろを振り返り、できる限りの満面の笑みで言う。
「今日のメニューも楽しみにしてるよ」
それを聞いたハンナは、うふふと笑った。それはもう、嬉しそうな表情で。
「では、朝食を取りに行ってまいります」
一礼したハンナは、歩く音すらたてず寝室を出て行った。だがその足取りは弾んでいる。
室内にはまた静寂が訪れる。
我知らず、笑みが零れた。
***
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