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悪役令嬢が溺愛エンドを迎えた世界に、魔法オタクが転生したら  作者: じうかえで
第一章 ヒロインらしくしなくてもいいよね?
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12 この世界に、もう一人③


「――……どうして、その言葉を」


 やっとのことで絞り出した声は、普段の何倍も小さい。だがそれでも、しんと静まり返った部屋の中ではよく聞こえた。


「今日のお昼休み、食堂でケーキを食べていた時に、アリアさまが仰った気がしたのです」


 そこで彼女は、軽く息を吸う。


「――『まじらぶ』と」


 一瞬の沈黙の後、凛とした声で言い放った。


「その時は聞き間違いかと思ったけれど、どうしてもそうは思えなくて。こうして、訊いてみたのです」


 確かに、あの時何か呟いたかもしれない。おそらく、まじらぶのイベントと同じだと思ったのがつい口から漏れてしまったのだろう。席が隣だったとはいえ、そんなに大きな声だったとは思わないのだが。


「聞こえて、いたのですか」

「ええ。ただ、他の皆さまには聞こえていなかったと思うわ。それは安心して」


 ひとまず、他の人に聞こえていなかったのはよかった。まあ、聞こえたところで何のことか分からないはずだが。


「アリアさま、あなたは……いいえ、あなたも、転生者なのね」


 一呼吸の後、カトリーアさまが言った。


「あなたも、ということは、やっぱり、カトリーアさまも……」

「ええ。多分あなたも同じだと思うけれど、前世では、地球の日本という国で暮らしていたわ」


 こくり、と小さく頷く。


「高校生だった。妹がいたわ。私も妹も、まじらぶが大好きだった」


 高校生ということは、私と同じくらいの歳で死んだのだろうか。私と同じ時代に生きていたのだろうか。

 ここは異世界だから、前世の世界との時間の関係がわからない。前世のカトリーアさまが、私の生きていた時代より未来に生まれていた可能性だってある。


「それでね、アリアさま」


 カトリーアさまは、少し困ったように眉尻を下げた。


「ごめんなさい」

「え」

「私が小さい頃にあれこれやらなければ、アリアさまはまじらぶのヒロインとして、ラギさまと、恋愛ができていたはずだったのに」


 そう言ったカトリーアさまは、少し苦しそうだ。それだけ、彼女はラギリス殿下を愛しているのだろう。

 でも、私に対して心を痛めてくれているカトリーアさまには申し訳ないけれど。


「全然大丈夫ですよ。むしろ、ありがとうございます」


 にこりと笑って告げる。できるだけ明るく。彼女が自分を責めないように。誤解が生まれないように。


「私は、恋愛する気がないので。それよりも、魔法に打ち込みたいのです。だから、ラギリス殿下が私のことが見えないほどカトリーアさま一筋なのは、私自身も静かに魔法研究に打ち込めるのでありがたいのです」


 カトリーアさまは暫く呆気に取られていたが、ふわりと微笑んだ。


「アリアさまらしいわね」

「そういうことなのでぜひ、思う存分ラギリス殿下といちゃいちゃしてくださって結構です」

「い、いちゃいちゃだなんて、そんな……」


 カトリーアさまが赤面する。

 そんな彼女が可愛くなって、畳み掛けるように言った。


「そうだ。今度ぜひ、カトリーアさまが小さい頃のお話を聞かせてくださいね。どうやって殿下を落としたのか気になります!」

「私もそれは気になってるのよ……」


 消え入りそうな声でカトリーアさまは言った。


「何かしたのではないのですか」

「それが、何も心当たりがないの」

「本当ですかぁ?」


 にやにやしながらさらに攻める。


「ほ、本当よ! それにしても、まじらぶってタイトル、前からダサいと思ってたのよね。他になかったのかしら」

「あっ、話そらしましたね! でも確かに、私もダサいと思ってました。『まじっく・らぶ!』って、そのままじゃないですか」

「魔法、愛……。わかりやすくていいけれど、もう少しおしゃれなタイトルはあったと思うわ」

「そういえば、作者の先生は長い名前があまり好きではないと、何かで読んだ覚えがあります」

「あら、そういえばそんなことを何かで見た気もするわ」


 そこでカトリーアさまは、あっと声を上げた。


「でも、アリアさまに関しては『まじっく・らぶ!』にぴったりね」

「どういうことですか?」

「だってアリアさま、魔法が大好きじゃない。『魔法』を『愛』してらっしゃるでしょう?」

「そういうことですか……」


 はあ、と軽い溜息を吐いた。このお方、意外とお茶目である。


「確かにぴったりかもしれませんが、私が魔法好きなのはタイトルのせいではありませんよ。前世からです!」


 胸を張って、高らかに言い放つ。


「ふふ。そうなのね」


 カトリーアさまは笑った後、窓の外に目を向けた。


「もう随分暗くなってきたわね。そろそろお暇するわ」

「次は、ラギリス殿下とカトリーアさまの小さい頃のお話を聞かせてくださいね。殿下がどうしてカトリーアさまに惚れたのか、気になります」


 私がにやりと笑うと。


「もうっ、私も本当に知らないの! 気になるならラギさまに直接聞いてくださいませ!」


 そう言ってカトリーアさまはドアに向かって歩いていくのだった。顔を真っ赤にしながらも、部屋を出る直前にハンナに礼を言っていたところは、やはり育ちの良さを感じる。


「カトリーアさま! また、お話ししましょうね」


 私が笑いかけると、振り返った彼女もふわりと微笑んだ。


お読みいただきありがとうございます!


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