11 この世界に、もう一人②
その日の放課後。寮の部屋で、図書館で借りてきた本を読んでいると、コンコンとドアがノックされた。
「ハンナが見てきますね。お嬢様はこちらに」
「ええ、ありがとう」
しばらくしてハンナと共に部屋に姿を現したのは、カトリーアさまだった。
「突然お邪魔してごめんなさい、アリアさま。こちら、よければ召し上がってくださいませ」
そう言って差し出されたのは、引きこもりの私でも知っている、有名菓子店の箱だった。
「ノワールのマカロンよ。お口に合えばいいのだけれど」
「ありがとうございます! マカロン好きなんです」
「それはよかったわ」
「それで今日は、どうしてこちらに?」
カトリーアさまは、ハンナが引いてくれた椅子に座ると、少し俯いて言った。
「今日は殿下に邪魔されてあまりお話ができなかったから、お話できればと思って……。お忙しかったら無理はされなくて大丈夫だから」
「全然大丈夫ですよ。むしろ、大歓迎です」
にこりと微笑むと、カトリーアさまは少し安心した表情を見せた。
ハンナが二人分の紅茶を入れてくれる。ふわりとリコル草の香りがした。
「まあ、リコル草ね。紅茶に入れるのは珍しいけれど、とても香りがいいわ」
「そうですよね! 私も、リコル草のお茶は大好きなんです」
「味も美味しいわね。今度、うちの侍女にも頼んでみようかしら」
「お口に合ってよかったです」
ハンナも嬉しそうにしている。公爵令嬢にお茶を褒められたのだ。喜ばずにはいられないだろう。
それから私達は、他愛もない話をした。あの先生の授業はわかりやすいとか、この生徒とあの生徒は付き合っているらしいとか。私は前世からあまり交友関係が広いほうではないため、カトリーアさまの情報網には感心しっぱなしだ。もちろん、カトリーアさまの惚気話もした。夫婦仲は良好なようで何よりだ。
空が橙色に染まり、遠くに見える街の街灯に火が灯された頃。カトリーアさまが、これまでとは違った、緊張した面持ちで口を開いた。
「アリアさま」
「なんでしょう」
「今からおかしなことを言うので、訳が分からなければ忘れてくださいませ」
今日一日でずいぶん仲良くなった彼女の瞳は、不安そうに揺れている。しかし数秒後、意を決したように真っ直ぐに私を見据えた。
少し暗くなった室内に、その声は凛と響く。
「――『まじらぶ』を、……『まじっく・らぶ!』を、ご存知なのですか」
絶句した。
――どうして。どうして、その言葉を、彼女が。
きっと私は今、まるで長い間隠してきた悪事がバレた時のような、または何も理解できていないような表情をしているのだろう。頭が真っ白になって、何も考えられない。
そんな私を見たカトリーアさまも驚いたようで。
「ご存知、なのですね」
小さな唇から零れた小さな呟きは、行き場を失って消えていく。
大きく見開かれた目は、呆然としている私の姿を、呆然と映していた。
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