10 この世界に、もう一人①
***
カトリーアさまと魔法特訓を始めてから、二週間ほどが経過した。彼女はあれからめきめきと魔法の腕を上げ、クラスでも上位にまで上りつめた。
これには魔法科実技のウォン先生も驚いていて。
「すごいな。どうやったらこんなにも速く上達するんだ?」
「ラティーアさんが教えてくださったのです。とてもわかりやすくて」
「ありがとう、ラティーアさん。貴女の教え方は素晴らしいようね」
「いえいえ、そんな。私はただ、カトリーアさまの弱点に気付いただけで、大したことは」
「その、気付いたということが素晴らしいわ。並の魔法使いには難しいことよ」
魔法科論理のサリヴィア・フラン先生まで私を褒める。憧れの国家魔法士に実力を認めてもらえるのは光栄だが、褒められ慣れていないので恥ずかしい。
「ありがとう、ございます」
とりあえずお礼を言うと、サリヴィア先生はふふっと笑った。この優しい笑顔が、生徒人気が高い理由の一つなのだろう。
「それでは私達は次の授業の準備があるから、失礼するわ。これからも練習に励んでね」
「はい!」
今はお昼休み。昼食の後、食堂の限定ケーキを食べに行こうと話していたところに、先生が来たのだ。
「早く食堂に行きましょう! 限定ケーキがあるそうなの。早くしないと売り切れてしまうわ!」
カトリーアさまは、るんるんしている。よほどケーキが楽しみなのだろう。私も楽しみだ。
春の限定ケーキは、小説でも登場する。ヒロインと王子が、お互いに「あーん」をし合うイベントだ。私はもちろんそんなものに興味はない。それよりも楽しみなのは。
「魔法で乾燥させた桜の花が飾られているのですよね! 楽しみです!」
何よりも、水魔法を使ったドライフラワーを見たい。私がやると形が崩れてしまうことが多いから、完全なドライフラワーはあまり見たことがないのだ。そしてあわよくば、ドライフラワーの作り方を知りたい……!
食堂に着くと、時間が遅かったためか、あまり混んでいなかった。
「ご注文をどうぞ」
「私はチョコレートと桜のショートケーキを。飲み物は紅茶で。カトリーアさまはスミレのモンブランでよろしかったですよね」
「ええ。あと、私も紅茶をお願い」
「かしこまりました。ええと、そちらのお三方は……」
注文をとっていたメイドが、気まずそうに尋ねる。
それも仕方ない。なぜならそこには――
「俺はほうれん草のペペロンチーノ!」
「じゃあ、僕はいちごのタルトにしようかな。飲み物はコーヒーを」
「僕はコーヒーのみで」
「か、かしこまりました。少々お待ちください」
メイドが完全に萎縮してしまっている。可哀想に。
そもそも、なぜ誘ってもいないのに殿下達がいるのだろうか。というか、似たようなことが以前もあった気がする。
「どうして殿下達がいらっしゃるのですか」
「かわいいカティがスイーツを食べるところを見たいからに決まっているだろう」
「そんな……。見ても面白いものは何もありませんわよ」
顔を赤らめて俯くカトリーアさまが可愛い。……ではなく。
誰か、ひっつき虫と化している殿下をカトリーアさまから引き剥がせる人間はいないのだろうか。
「ラギさま、私はアリアさまとお話ししたいので、邪魔はしないでくださいませね」
「もちろん」
だが意外にも、くっつかれている本人が殿下を一番うまく扱えている気がする。このカップル、なんだかんだで相性が良いのだ。
そこに、注文したスイーツが運ばれてきた。皿の上でキラキラと輝くそれらは、まるで宝石のよう。スイーツではないものも一つあるが。
ブラックチョコレートのクリームの上に乗った桜の花をつまんで、目の前に持ち上げる。五枚の花弁が等間隔に広がって型崩れしていないあたりを見るに、花びらを固定して魔法をかけているのだろう。立体だから、何かで挟むのではなく型のようなものにのせているのだろうか。水分はどのくらいの速さで抜いているのだろう。
私が花を観察している間に、カトリーアさまは早速モンブランを口に運んだ。
「んー! おいしい! すごく甘くて、幸せとはまさにこのことですわね」
「本当に。さすが、学園の料理人は腕がいいね。これも食べる? カティ」
「まあ! ラギさまのタルトも美味しそうですわ!」
「一口いる?」
「ぜひ!」
にこにこ笑顔の殿下が、タルトを一口分、フォークで刺してカトリーアさまの方に向ける。それと同時に、ユーリさまとヘレンドさまは顔を背けた。やれやれという顔をしている。
「カティ、ほら、あーん」
「っ! ラギさま、こんなに人が多いところでそれは……!」
顔を赤くして言いながらも、カトリーアさまはパクリとタルトを食べた。その光景を見て、頭の中に、もう一つの光景が浮かぶ。
それはまるで。仕草からセリフまで、全て。
「まじらぶと、同じだ……」
『ヒロイン』である私が起こさなかったイベントが、悪役令嬢に起きているのだろう。偶然なのか、それとも『イベントは起きる』というシナリオの強制力があるのだろうか。
と、カトリーアさまがこちらを見た。しかし、話しかけてくるような雰囲気ではない。まるで何かに驚いているように目を見開いている。
「カトリーアさま?」
私が声をかけると、カトリーアさまははっと我に帰ったように、慌てて言う。
「あ、ご、ごめんなさい。なんでもないわ」
「そうですか。あ、私のも味見してみますか?」
「いいの?」
「はい。せっかくの限定ケーキなので、カトリーアさまなら全種類食べてみたいのではと」
「ならぜひ、いただくわ!」
カトリーアさまは小さな子供のように瞳を輝かせた後、顔を赤らめた。
「さ、さすがに、あーんはしなくていいからね?」
「しませんよ。殿下じゃないんですから」
苦笑いを浮かべ、彼女にケーキののったお皿を差し出す。
ふふっと嬉しそうに笑った彼女は、いつもと変わらない。
先ほどのあの目は、何だったのだろうか。気にするほどのことでもないと思うが、なぜか頭から離れなかった。
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なろうさまの企画『秋の文芸展』に投稿させていただいています。完結の第6話まで、毎日18:30に投稿します。ぜひお読みください!
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