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神様の不手際によって、最強転生が始まった  作者: トラノコ
1 アレンの幼少期編(0~10歳)
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2 伝説の司書、ソフィア

 ソフィアが選んでくれた魔法の本の題名は「風魔法における基本の書」だった。

 彼女にとって一番身近な風魔法に関する本であり、基本中の基本を押さえた本だとか。


 「さて、ここへ来ますか」


 ソフィアは椅子に座り、自分の太ももに軽く手を置いた。


 まさか、あなたの太ももの上に座ってもよろしいのですか!?


 決して顔には出したつもりはないが、少し心臓の鼓動が早くなった気がしたのは確かだ。

 まてまて、俺はまだ子供で、一歳になったばかりの赤ん坊。

 しかも、優しくしてくれるソフィアに対して、変な気持ちを持つのは失礼ではないか。


 「あい!」


 近くまで行くと俺はわきを抱えられて、ソフィアの太ももの上に収まった。

 どうやら読み聞かせをしてくれるらしい。


 昔話やおとぎ話の読み聞かせが普通であろうが、俺が魔法の本をおねだりしたので、少々硬い内容の本になった。


 「風魔法とは空気を自在に操る魔法のことを指す・・・って言っても一歳の子に行っても分からないですよね・・・」


 実は理解できちゃうんだな、それが!


 「つつけてうだあい!(続けてください!)」


 「わ、わかりました。まず、風魔法の中で最も簡単な魔法は、【風起こし】である。目の前の空気を押し出すイメージで魔力を注ぎ込むと発動しやすい―――」


 〔賢者〕は答えてくれるか分からないが、一応聞いてみよう。

 俺って魔法使える体質なの?


 ―――はい。使えます。以上


 ほう、なるほど。

 魔力の操作を覚えれば魔法が使えるんだな。

 物は試しでやってみようか。


 俺はソフィアの太ももの上に乗ったまま、両掌を前に突き出し、魔力とやらが何なのか分からないが、適当にイメージしてみた。

 目の前の空気を押し出す・・・そして、風を起こす・・・


 すると、掌に温かい感覚がしたと思った直後、微風程度の風が生じた。

 ソフィアが持っていた本のページが三、四ページめくれただけで、風は収まってしまった。


 「あ、あ、アレン様!? 一歳で私が今言った内容を理解して、風魔法を使ったのですか!?」


 あ、やべ。

 こんなあっさりと魔法が発動するとは思わなかった。

 これで家中が大騒ぎになったらどうしよう!


 だが、そんな心配は無用だった。

 ソフィアは軽く息を吐いて、諭すように言った。


 「アレン様、明日からこの書庫へ来て、こっそり風魔法を学びませんか。これでも私は風魔法を使う者としてはプロです。昔の話ですが、私はこの魔法で生計を立てていました」


 普通の一歳にしても分からないような話だ。

 もしかしたら、ソフィアは俺が完全に理解していると思っているのだろうか。


 「って言っても分かりませんよね・・・」


 ソフィアは唇をかみしめて、何かに悶えているように険しい目つきをした。


 「おおしたの?(どうしたの?)」


 「なんでもありませんよ、すみません、一歳のアレン様にご心配をおかけして・・・」


 いつの間にかソフィアは目に涙を蓄えて、今にも泣きだしそうな顔になっていた。

 しばらく、俺は見つめていたが、彼女はポケットからハンカチを取り出し、涙を拭って話し始めた。


 「私、ずっと一人だったの。アレン様のお母様に出会うまで。アレン様のお母様はとても有名な女騎士さんなんですよ? 今はもう引退されてしまいましたが。私が住んでいた村が盗賊に襲われたときに助けてくださったんです。そして色々あって、私は本を読むのが好きだったので、シウバ家の司書を任せてくださいました」


 おお、本当に一歳にする話じゃないぞ?

 おそらく、他人に話せないことだから、一歳で理解できないであろう俺に話したのだろう。

 たしかに、ペットの犬に向かって今日あった嫌なことを一方的に喋ると、気持ちが晴れたりするからな。

 気持ちはわからんでもない。


 話を聞いていると、俺まで悲しくなってきた。

 初めて会った一歳の赤ん坊に読み聞かせまでしてくれる素敵な女性に、壮絶な過去があるとは。

 あまりこの家について理解はしていないが、多分ソフィアは安心してここで仕事をできているだろう。


 「だいおうぶ!(大丈夫!)」


 え? なにが?

 無意識のうちに口から零れた言葉に、自らツッコミを入れてしまった。

 俺もなぜ大丈夫、だなんて軽い言葉を放ってしまったのか分からない。

 日本生まれの俺が想像できないくらい残酷な過去を送ってきた人に対して、あまりにも軽すぎる。


 しかし、ソフィアは太ももの上に乗る俺を後ろからちょっと強めに抱きしめた。

 大きすぎない胸の感触が背中に伝わる。


 「ありがとう。まだ一歳の子に励まされるなんてね・・・」


 いや、大丈夫だなんて軽い言葉をかけてしまって申し訳ないと思ってたのに。

 もう少し言葉が喋れるようになったら謝罪しよう・・・。


 というより、一歳の子供が今の話を理解しているという異常さをソフィアは受け入れているのか!?


 「じゃあ、今日は風魔法の基本のきを学べたってことで、これくらいにしましょう。一気に魔力を使っても疲れてしまうので。しかも、今晩のために体力は取っておきましょう、アレン様」


 「あい・・・」


 正直、パーティなどの晴れやかな催しものは苦手だし、今晩の主役が俺っていうのが、さらなる追い打ちをくらわしている。

 見かねたソフィアはくすくすと笑った。


 「ふふふ。私も苦手です、そういうの。だから、この書庫から一歩も出ないんですけどね」


 自虐的な言い方と、笑った顔が相まってさらに魅力ある女性に見える。

 俺がソフィアに会って感じたのは、母に助けられたとはいえ、過去のトラウマによって精神的なダメージがかなり深いこと。

 それによって人と会ったり喋ったりすることを極端に嫌がるということである。


 人と関わることが苦手だから、司書の仕事は彼女にとって天職なのかもしれない。

 当然、今晩の誕生日会には来ないだろう。

 俺と同じパーティ嫌いがいると助かるんだけどなあ。


 というか、俺のお母さんって素晴らしい人なんだな。


 「あら、もうこんな時間です」


 「あい! ああとうごあいあした!(ありがとうございました!)」


 「まだ一歳なのに敬語を知っているのですね。素晴らしいです」


 言った後、ソフィアの目はどこか一歳の子供に向ける目ではないように思えた。

 旧友というか、懐かしさを持った双眸であった。





 いよいよアレン一歳の誕生日会が開かれる。


 俺はお母さんに抱えられ、自宅に備えられたパーティ会場へ続く扉の前にいる。

 中からは大勢の人が談笑する声が聞こえてくる。


 「あら、アレン。緊張しているの?」


 「・・・ん」


 「大丈夫よ。皆、私たちと仲良しな人たちばっかよ」


 一応、俺もおめかしをしていて、タキシードを着せられた。

 自分の足で歩いて入場もできるが、ここは一歳という年齢に甘えさせてもらう。


 「それでは本日の主役、アレン・シウバ様の登場でございます! 皆さま盛大な拍手でお祝いくださいませ!」


 扉が開くと、スミレは歩きだし、横にいたガレン、ミアもそれに続く。

 おおおと歓声が上がり、鳴り響く拍手に全身から鳥肌が止まらない。


 会場のステージに上がり、家族全員はアナウンスがあるまで手を振り続けた。


 「それでは、アレン様よりご挨拶です」


 えええええええええええええ!?

 聞いてませんけどおおおおお!?


 ―――極度の緊張により心拍数が著しく増加しています。以上


 うるっせ!

 今それどころじゃないんだよう!


 ―――ごほん。では特別に私が文章を考えましょう。


 いいんですか、賢者様!


 ―――では私に続いてお話しください。


 わ、わかった。


 スミレが俺の口元にマイクを当てた。


 ―――はじめまして、アレンです


 「はいめまして、あれんでう」


 ―――今日は集まってくれて、ありがとう。


 「きょうは、あつままってくうて、あいがおう・・・」


 ―――一緒に楽しみましょう。以上


 「いいっしように、たのしみましよう。いよう・・・」


 あ、やべ、以上まで真似してしまった。


 俺が言い終わると沈黙が流れた。


 やはり俺の挨拶は馬鹿にされるようなものだったか・・・?

 でも賢者が考えてくれた文章だし。

 な、なんで皆は黙っているんだ・・・!


 顔が熱くてたまらなくなって、自分でもわかるくらいに赤くなっただろう。


 しかし、俺の心配は杞憂だったらしく、けたたましいほどの歓声が上がった。

 もはや誰

 「よくやったな、アレン! 男だ! がはは!」


 「弟のくせに生意気だけど・・・すごいわね」


 俺の姉はもしかしたら、ツンデレなのかもしれない。


 アナウンスの声が聞こえないくらい大きな歓声は数十秒続き、ようやく収まった。


 そこから夕食や談笑が繰り広げられ、俺は息を潜めていた。

 パーティも終盤になり、お開きの雰囲気が流れ始めた頃、なにやらお客さんたちがざわめき始めた。


 スミレやガレンも何事か把握できていない。


 周囲に動揺が伝播し、次第に大きくなった声は、歓声と悲鳴が混じった異様な雰囲気を作った。


 「おいおいおい、まじかよ!」


 「えええ!? 私、初めてだわ!?」


 「あ、あれが女神様・・・!」


 聞き取れる限りの情報を総合すると、女神降臨なわけだが・・・?


 刹那、恐らく会場で一番俺は度肝を抜かした。


 漆黒のドレスに、ポニーテールに結ばれた黒髪。

 しっかりと化粧をされた顔は、世界中の誰よりも美しく、可憐。

 真っ赤な口紅が光に照らされ妖艶さが増す。


 ソフィア・・・?


 俺の体は真っ先に動いていた。

 駆け出して、躓き転びながら走って向かった。


 「そいあ!(ソフィア!)」


 フィが発音できないのがイタイ。


 「アレン様・・・!」


 無意識のうちにソフィアの足に抱き着いた俺を、彼女は優しく抱き上げた。


 「アレン様・・・私、アレン様におめでとうと言いたくて、勇気を出してここに参りました・・・」


 声も体も小刻みに震えている。

 本当は今すぐにここから抜け出したい。

 ソフィアはそう思っているに違いない。


 壮絶な過去によって、他人と関わることができなくなってしまったソフィア。

 俺には想像するしかないが、彼女にとってはとんでもない勇気を振り絞ってこの場に来ているに違いない。


 俺は自然と涙があふれてきた。


 「ありあとう・・・そいあ・・・(ありがとう・・・ソフィア・・・)」


 未だに周囲の大人たちはソフィアに羨望のまなざしを向けている。


 「ソフィア! あなた、大丈夫なの!?」


 スミレの鬼気迫った声がした。

 ソフィアを救った張本人、スミレ・シウバ。

 もしスミレがいあんければ、ソフィアは間違いなくもうこの世にはいない。


 俺はお母さんと目が合う。


 「アレン、ソフィアとお友達になったの・・・?」


 「あ、あい!」


 「ほ、本当にそうなの、ソフィア・・・?」


 「はい、スミレ様。私、アレン様のおかげで少しだけですけど、前を向けるようになったんです」


 その場で膝を崩して、顔を手で覆いながら泣きじゃくるスミレを、ガレンは優しく抱きしめていた。

 後ろでミアはこの世の終わりかのような泣き方で、鼻水を垂らしながら目をこすっていた。


 大歓声を上げていた大人たちは、次第にシクシクと泣き始め、泣いていない人がいなような状況になってしまった。

 俺はソフィアの首に抱き着くながら、以外にも冷静だった。


 どういう状況だ?


 こうしてドタバタ誕生日会に幕が下りたのだった。

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