14 え、入学試験・・・ですよね?
読んでいただきありがとうございます。
本投稿から第二章の始まりです。
昨日はあまりよく眠れなかった。
十年間同じベッドで寝ていたせいか、寮のベッドに違和感を感じる。
作りが悪いとかではなく、ホテルのベッドだと眠れない例のアレだ。
朝の支度をしていても、モーニングコールに来るメイドさんもいない。
すべて自分で支度をしなくてはならないが、苦ではない。
なぜなら、両親の教育方針として、毎日何かしらの家事をメイドさんと一緒に練習していたからだ。
おかげで、自炊も掃除も生活できるレベルにはマスターしている。
朝目覚めてから、家を出るという前世の習慣が懐かしく思える。
この世界に来てからは、起床して朝食を済ませたらすぐに書庫へ行くという生活をしていた。
十年前の記憶が蘇る。
と、言っても今は風魔法も火魔法も心得ているので、だいぶ楽だ。
洗濯物も少しだけ火魔法をかけてあとは風魔法で乾かせば、ものの数秒でタンスにしまえる。
実家にいるときは、練習にならないという理由で家事で魔法を使うのを禁止されていた。
一方、メイドさんは普通に魔法を使って家事をしていたけど。
今は思う存分に魔法を使って楽できるので楽しくてしょうがない。
さて、今日は朝から入学試験が始まる。
筆記試験と実技試験の二つがあって、午前中に筆記、お昼を挟んで午後に実技がある。
驚くべきは、試験結果が一時間後に発表されることだ。
どんなシステムなんすか、それ。
毎年、多くの入学希望者がフレグランド剣術学校の入学試験を受けに来る。
規模にして、約二万人。
十歳から試験を受けられ、かなりの割合で浪人する人もいるとか。
かなり優秀な結果を残さなければ、年上を差し押さえて十歳で入学できない。
家族からはアレンなら寝てでも受かる、と背中を押されてきたが・・・
落ちたらどうしよおおおおお!
そんなことをずっと考えていたから、あまり眠れなかったのだ。
後悔しても遅い。
もう朝日が昇り、出発の時間となった。
玄関を出て、鍵を閉める。
朝なので、寮全体が慌ただし・・・くは全くなく、不気味なほど静まり返っている。
なぜ?
というより、受かってもないのに寮に入れるのはなぜ?
え、今気づいたわ。
俺なんで試験受ける前から、学校の寮に入れてるの!?
あと、ここ寮っていう割には豪華じゃない!?
間取りで言ったら3LDKですよ?
寮の入り口には番人みたいな大男が二人必ずいるし!
これが世界最高峰の剣術学校ってわけ・・・か。
「おお、アレン様! おはようございます」
「お、おはようございまーす・・・」
番人は二人とも俺に敬礼をして笑顔で挨拶をしてきた。
勢いで俺も敬礼をしそうになったが、なんとか留まった。
おかしい。
絶対におかしい!
「寮っていつもこんなに静かなんですか?」
「今日は入学試験があって、ほとんどが徹夜で作業してますよ」
「そうなんですねえ・・・へえ・・・」
在籍している生徒全員に試験の準備を手伝わせているのか。
それって何か不正の原因になったりしない?
大丈夫そ?
まあ、学校のお偉いさんもそこまでは馬鹿ではないだろう。
毎年二万人も受験生が来るのだから、列の整備とかの予行演習くらいだと思うが。
「アレン様はこれから採用試験ですよね? いやはや、十歳という若さですごいですなあ」
「さすがはあのお二方ののお子さんでいらっしゃる!」
さいよー? 試験?
一般的にはそう呼ぶのか。
「ありがとうございます。父も母も喜びます」
「その年齢で謙遜まで心得ているとは!」
愛想笑いを浮かべて、お辞儀をしながら歩きだした。
はて、ここでは入学試験のことをさいよー試験というのか。
さいよーって採用?
あまり採用って言い方はしないと思うけどな・・・。
気にしすぎか。
受付をしてから試験教室に来た。
大勢の入学試験が成していた列に並び始めて直ぐに、スタッフの女性に声を掛けられ、まったく別の列に連れていかれた。
そして、二人ほどしか並んでいない受付に案内され「こちらで受付を」と言われた。
数十メートル先に、最後尾が見えないほどの列をなしている受付があるんだが。
こっちの列はなんですか!?
しかも、俺の前に並んでいたのは大人だった。
若い男性とお父さんと同じくらいの年齢の人。
受付を済ませ、手渡された紙に記載された受験教室に来たらここだった。
あれ、さっきの二人と・・・赤い髪の女性しかいないんですけど。
ま、まあ?
これからどんどん入って来るでしょう!
すると、教室に白髪のイケおじが入ってきた。
「それでは午前に筆記試験を始めます。全員お揃いのようですね」
いやいやいやあああ!?
軽く五百人くらい入りそうな教室に四人しかいませんけどおお!?
本当に始まっちゃうんですか。
「それでは試験問題と解答用紙を配りますね。私の合図があるまで開かないでくださいね」
四人ともに紙が配られると老人は腕時計を見ながら声を張って言う。
「うーんと・・・試験終了は十一時ちょうどまでの二時間ですので。ああちょうど九時になりました。始めてください」
何はともあれ、試験問題を解こう。
世界最高峰の剣術学校だから、受験者を動揺させて「この程度で動揺し、点数を落とすなら不合格!」的な試練を与えてきているのかもしれない。
もしくは、俺がシウバ家の子供だから、精神的プレッシャーをかけて点数を落とそうと目論んでいるのかもしれない。
しかし、俺は問題用紙を開いてすべてを悟った。
「え・・・まじ・・・か?」
左上に書かれていた文字に衝撃を受け、一瞬めまいがした。
4205年度 フレグランド剣術学校 教員採用試験
はいいいいいいいい!?
教員採用・・・試験!?
俺、フレグランド剣術学校の教員採用試験受けてるのかよ!
どうりでおかしいと思った・・・。
寮が静かで誰もいなかったのって、教員の住宅だったから!?
別の受付に通されたのって、入学試験じゃなくて教員採用だったから!?
とはいえ、今この瞬間にも不自然な行動をしたらカンニングを疑われてしまう。
さすがにシウバ家の人間がカンニングはまずい。
どうしたものか。
とりあえず、真剣に問題を解こう。
試験終了後に教員を捕まえて、訳を聞こうじゃないか?
そして、俺は二時間もの間、真剣にテストを受けるのであった。
―――極度の動揺を検知しました。以上
うるせっ。




