妄想の帝国 その84 神様大脱走 こんな国にはいられませーん
各地で地震、冷害、害虫の大発生に、豪雨にと、大災害の連発に復興どころか救助も追いつかないニホン国。ついに時の総理キジダダは、メイジ神宮で神に災害の理由を問うことにしたのだが…
ニホン国、7月。
例年なら、そろそろ梅雨もあけ、各テレビの気象予報士さんたちが、今年も猛暑ですね、最高気温が年々上がっています、などど、放映するころだったのだが。
本州の南端ヤマングチ県では
「6月末からの記録的豪雨が本日も更新中です。他の地方、いや他の県では梅雨も明け、30度を超える真夏日ですが、ヤマングチは気温は高いが、晴れ間は見えず、二週間以上、雨が降り続いています。各所で氾濫、またがけ崩れなどが起きており、自衛隊の出動要請をしておりますが、救助も全く追い付いておりません。昨日も、〇×地区で大規模な土砂災害があり、かのアベノ総理らの菩提寺が埋まり…」
北のホッカイドーンでは
「こ、今年はなぜか、涼しい日が続きまして、ユメリピリカの成長が遅れており、秋に穫が難しいとの予想です。また、有名なラベンダー畑では、虫がなぜか大量発生して花を食い尽くしております。昆虫の研究者もこのような現象は初めて、この気温でこの大量発生、ほとんど地中にいて、昼間の一時期だけ短時間で花芽を食べるとはと首をかしげております。なお、ホッカイドーン原産とされる植物だけは通常どおり生育しており、アイヌヌ民族の知恵を生かした生活への活用を期待され…」
そして首都トンキョー
「きょ、今日も35度を軽く超えましたが、エアコンの使用はできません。れ、連日の地震で、ビルの倒壊があちこちで起こっております、本テレビ局も湾岸地域の本局の建物が半壊し、ここ隣県チバンのオリエンタルマウスランドの一角を借りて放映しております。ビルの中に取り残されている人々の救助は続いておりますが、とくにカスミガセセキやナガタンマチなどの中心部ではかなりの人がいまだ建物の中、とくにジコウ党会館では、高齢の議員や閣僚などが多数いたと思われ、安否が…」
そのほか、フクイイでは再稼働直前に原発で大規模は地割れがおこり、原発を視察に来ていた電力会社の幹部ごと呑み込み、大騒ぎ。オキナワン県では米軍基地に落雷30連発のうえ、海上の竜巻がジエータイと米軍基地だけを通過した。恐れをなした米軍がグアムに完全移転を検討し始めたとか。また、各所で火山活動が活発化、ついにニホン国一高いあの山が噴火する寸前という、ラグナロクか世紀末か、ニホン沈没かというさわぎである。
天災100連発まだまだ続きそうという異常事態に、ついに時の首相キジダダ氏は
「こ、こんな天平地異がおこるのは、何かあるに違いない。こ、こんな非科学的なことはしたくないのだが、神仏にお伺いを」
と、ついに神託に頼ることにした。しかし、その神というのが
「なんでメイジ神宮?」
「いまだ、無事なのはここだけです。ヤスグニ神社なんて完全倒壊、鳥居まで崩れちゃって参拝というか集まっていたネトキョクウがほぼ全員死亡、生きてても地割れなどが酷くて助けられず、ひどいもんです。トンキョー大神宮も、かなり酷い壊れ方でして。他道府県の神社なんて、とっても行ける状態ではありませんので」
と、汗をふきふきいう秘書。35度の猛暑というのに停電が続くため、社務所はかなりの暑さ。一応、窓は開けているのだが、コンクリートで熱くなった空気特有のモアっとした暑さが身に染みる。
「ま、まー元は人とはいえ、一応、神様の子孫ということになってるし、お伺いを立てても…、で、神主は」
「そ、それが、この災害で行方不明で。その、他の宮司もいないんです。巫女さんにいわせると、神様の前にいけば、わかりますよーということなんですが」
「なんだ、そりゃ、祝詞とか、なんとかいいのか」
といいつつ、内宮の建物の中、ど真ん中の畳の上に座ったキジダダ総理。
「あの、か、神様、このたびの災害は一体どういうことで。いくら異常気象とはいえ、これだけニホン国にこの規模の気象災害に地震がおこるというのは世界的に見ても…」
と、直球で疑問を口にすると
“あ、なんだ、来たのか。わ、儂も急いでいるんだが”
天井から、いきなり声が響いた。
「わっ、ほ、ホントにお告げが」
思わず上をみるキジダダ総理に
「ま、まさか…。天井に人とかが隠れてるんじゃ」
驚きつつも冷静に疑う秘書。彼らの困惑ぶりをよそに
“そう思うなら、話しかけないでくれ。儂はホントに急がんと取り残されるんじゃ”
姿の見えぬ声の主は迷惑そうにいう。
「そ、そこをなんとか。少しだけお時間を。こ、この災害は一体どうすれば」
“あ、それか。もう守りがなくなったんじゃ。神々が一斉に離れるからの”
「は?」
“だーから、こんな国から逃げだすんじゃよ。ここの信者どもときたら、どーしようもない。正月だの、なんだので、神に頼るくせに、日ごろの行いはろくでもない”
「あー、あのー、お布施は」
“そりゃ宮司とかにだろ、我らには清い心だの、慈悲の行いだののが、褒美なんじゃ。金というのは、人の世では重要なじゃろうが。まー儂も神になって100年ぐらいだから、まだ慣れてないとこもあるが、酒の供えでも、金に飽かした名酒とやらより、貧しいけれどそのなかで楽しみを削って神様のためにと捧げてくれた安酒のほうが儂らにとっては良いんじゃよ”
「うー、そういわれてみれば、信仰とか、信心とかってそういうものかも」
“まー、金に頼るのはまだ我慢できたんじゃが、お前ら、とくに上級だの政治家だの財界人だの、国の政をやる輩の態度が酷すぎる。杜の木を切り倒すは、汚染された水をまき散らすわ、開発と称して動物やら人々を追い出して、無駄な道路だのリニアとか言うのを作るわ、ヒトゴロシの道具を買うために子らや女どものための金を巻き上げるような真似はするは、最大に許せんというのはアレじゃ、アレ”
「あれと申しますと…原発の再稼働ですか、武器輸出ですか、憲法改正ですか、それともマイマイナンバー制度」
と、ここ最近、国民他各所から批判が出ているにも関わらず、ゴリ押しする政策を一通りあげてみたキジダダ総理。
“いんや。それらも許せんが、最大のきっかけとなったのは”
「なったのは」
“あんの、大バカ者、愚か者、傲慢無知蒙昧、アホのアベノを儂らの一員に加えようとしたことじゃあああああ!”
と大音量の怒声が響いた。バラバラと天井の一部がはがれおちる。
「ひええええ」
“す、すまんの。あまりに頭にきたもんじゃから。地震のせいで、ここももうすぐ危ない。とにかく、あの、アベノ元総理を祀るなどというアホがでてきたから、さすがに神々の堪忍袋の緒も切れたんじゃ。あんな民を苦しませ、自分だけ、その周りだけよければいい、あしざまに人を嘲笑し、わが子孫まで馬鹿にしおったあんな奴を非業の死を遂げたから、神の一員になどと、しかも宮司がいいだすとは、なんたる愚行”
「お、お怒りはわかりましたが、な、なぜ民を信者を見捨てるなどどいうことになるんです」
“わからんのか、我ら神の意義というか、神のなすべききこと、をここまで捻じ曲げられたうえ、我らを祀るとしながら杜の木々を切り、神聖な海、山、大地を汚すような者たちは信者ではないからじゃ。我らを信じているというなら、お前らの行いと真逆のことをしているだろうよ。この地の民を苦しめ滅ぼそうとするのは、お前らではないか、お前らこそ悪、そのトップが我らの一員になるだと、これ以上の屈辱があろうか。と、儂らの一番上の女神さんがついにキレてな。もうニホン国の民のためを思い、トップがアホでも我慢してきたが、そんなどうしようもない奴らを何度も選ぶニホン国民も同罪だ、こいつらに祀られてもロクなことがない。もっと、まともな人間のいるところか、いっそ常世にもどるんだと言い出した。弟の蛮行に対してもかなり我慢してた我慢強い人だったんじゃが。で、他の多々の神もそれに続き”
「続きって、じゃ、ニホン国の神様全員がいなくなるんですか」
“いや、まだ小さい神社とか残っとる神もおる、狐だの、蛇だのはな。地方だが。土地に残る素朴で善良な民とやらが祀るぐらいにはちょうどいいじゃろう。あと、この国の残っとるのは、例の帝にたてついた地方軍のトップだの、地方に流された大臣だの、ああ、疫病神だの、疫病の神もおるな。今、まさに活躍のときとか”
それでは、災害が続くはずである。ただでさえ、自然災害がおこりやすいのに、守ってくれていた神様はほぼ全員逃げだし、災厄の神々しか残っていないのだから。
「ひいい、我々はどうすればいいんですかあ」
“今からでも反省…は、もう遅いのお。儂も常世に行くし、出発の舟がもうでるでの。儂の子孫は外国にもおるし、他のおなごたちも逃げるらしいから心配ないが。あー、あとさっきも言ったように神格は低いが、その土地の民をまもるぐらいはできる連中は残っとるからなあ。そいつらでニホン国はなんとかなるだろうよ”
「わ、我々は、ジコウ党は、議員たちは、財界の人々はー」
“罪を反省するんじゃのう。利権まみれ社員を潰しまくりの派遣会社ダソナ会長のダケナカとかトンキョー都知事のオオイケなどはすでに報いを受け取るようじゃが、最後まで悔い改めはしようとしないで、飢えと痛みと…、あ、もう行くわ、それじゃあ”
と声が途切れた途端に
バラバラ
と激しい音がして、天井が崩れ落ちた。
命からがら逃げだしたキジダダ総理と秘書だったが
「こ、この先どうなるんだ、神にも見捨てられ、災害が次々に」
壊れた建物や、破壊された車の残骸、そして遠くに見える山は煙をあげ、なん百年かの眠りから覚めようとしていた。
災害だのは天罰とか言う人もいますが、もう自然災害だけでなく、政府が災厄になりつつある国もあるようですねえ。そんな国なら、そんな政府を選ぶ民なら、神様も呆れて逃げ出しそうですわ。