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嘘つきな恋人 (He is a lier.)  作者: 烏籠武文
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那珂川

橘さんと暮らし始めて困ったことが1つ起きた。外のメシがまずくて食えない。


晩飯の席で、明日は病院に行くから昼は家にいない。出かけたらどうだと言われて一も二もなくうなずいた。タクシーに乗った橘さんを見送り、ひととおり家事を片付けてから俺も遊びに出ることにした。


まずは腹ごしらえっと…昼飯なんにすっかな。スマホで調べたら松屋で生姜焼きごはん大盛りキャンペーンをやっていた。駅前の松屋に入りタッチパネルで注文する。店内、生姜焼き定食、大盛り無料…っと。よしよし。


出てきたお盆の上にはうまそうな生姜焼きが乗っていた。山盛りのご飯に肉をのせ、がっと口に入れた。…え?松屋だよな?こんな味だったっけ?米が柔らかすぎる。肉は味が濃すぎる。塩辛い。味噌汁も気が抜けたような味だ。松屋のメシはうまかったはずなのに…こんなに簡単に口が肥えるのかと呆れる。やべえな、おっさんに胃袋捕まれてどうすんだよ。


気を取り直して電車に乗り、映画を見て繁華街をぶらつく。スタバでキャラメル フラペチーノを飲みながらスマホを見たら橘さんからメッセージが来ていた。


『美味しそうなシマホッケがあったので買いました』


文字の最後にVサインが見えそうだ。ということは今晩はホッケか。あの人グルメなんだよな。食えないくせに。ホッケ…だったら小鉢は甘めの煮物…肉じゃが…でもないな。がめ煮でも作るか…って、せっかくのオフなのになんで晩飯の献立考えてんだ。家政婦が身につきすぎてる自分に呆れてプラストローを噛んだ。


 ***


食卓の橘さんはホッケ半身を前にご機嫌だった。がめ煮に箸を伸ばしてもぐもぐ食べた後、ふと思いついたように口を開いた。


「もしかして古賀さんは九州出身ですか?」

「なんで?」

「筑前煮もですが、煮物の味付けが甘めの気がしまして。私はこれくらいが好きですけど。」


動揺を隠しながら橘さんの質問は質問ではぐらかした。


「あんたはどこ出身?」

「私ですか?生まれも育ちもここですよ。ああ、でも母が広島なので家の味はあっちですかね。」

「広島焼き?」

「それを言うと広島県民が怒りますよ。あれはお好み焼きです。」

「同じじゃん。広島県民広島焼きしか食わねえの?」

「まさか。名物は牡蠣とあなごともみじまんじゅう…ああ、広島菜があった。」

「広島菜?」

「野沢菜に似たお漬け物です。」

「知らね」

「そうでしょうね。広島にしかないんです。思い出の味です。」


食卓での話はそれで終わったが、橘さんに出身地を当てられたことは意外に後を引いた。その夜、俺は久しぶりに川の夢を見た。


日本三大歓楽街の1つ、中州と呼ばれる街はその名のとおり川の中にある。大きな川にかかる橋からのぞき込むと真っ暗な川にネオンの光が映る。違う街がそこにあるようで、飛び込めばここではないどこかに行けそうだった。子供の俺は飛び込む勇気がなかったように、夢の中の俺も流れに揺らめくネオンの誘いを見ているだけだった。

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