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嘘つきな恋人 (He is a lier.)  作者: 烏籠武文
3/15

サンルームで

男2人、同じ家にいるのは気詰まりかと思ったがそうでもなかった。朝昼晩とメシを食うのは一緒だがそれだけだ。


橘さんはリビングのソファでTVを見るか、雑誌だの本だの読んでいる。でなければ寝ている。リビングのソファで寝ていることもあるし、リビングの横の狭い板張りスペース…よく言えばサンルームに置いてある一人がけソファで、ひなたぼっこをしながら寝ていることもある。


俺は俺で掃除洗濯と一通りの家事をこなしたら、あとは自分の部屋にひっこんでTVを見たり昼寝をしたり。スーパーに買い物に行くついでにパチスロ打ったり。想像以上に気楽だった。


お互い無視しているわけではないが、わざわざ話しかけたりもしない。いるのはわかっているが干渉はしない。もしかすると橘さんは人と話すのがあまり好きでないのかもしれない。おばさん家政婦だと何だかんだと話しかけてきそうだし、気疲れするのが嫌で避けたのかもな。


しかし楽だ。楽すぎて空き時間にバイトを入れてもいいか、相談してみようかという気にすらなっていた。だがそんな気楽な生活も、俺が馬鹿ないたずらを思いついたことがきっかけで変わり始めた。


家中に掃除機をかけおわり、最後に残ったサンルームの様子をうかがう。橘さんはいつものように一人がけソファで居眠りをしていた。掃除する時はそこにいてもらえると助かる。もうちょっと暑くなったら違う場所で寝ることになるだろうが、いまくらいの季節ならちょうどいい気持ちだろう。


どれくらい気持ちいいのか気になってサンルームに入ってみる。暑くもなく寒くもなく、眠くなりそうなほわほわ加減だ。今度俺も寝てみるか。橘さんは眼鏡をかけたまま寝ていた。外さないと邪魔な気もするが、慣れるとそのまま寝ても平気らしい。顔の一部なんだな。


あまりにも気持ちよさそうな様子を見ていたずら心が沸いた。女が嫌いなのか男が好きなのかわからないが、男が好きなら俺に手を出してこないのはちょっとむかつく。自慢じゃないが自分の顔がいいのは知っている。ストレートならストレートで少しくらいからかうのも面白い。初心な女子中学生でもないし、男にキスされたくらいでぎゃあぎゃあ喚きたてたりしないだろ。


にやっと笑って寝顔をのぞき込む。同じ家に住んでいるのに正面からしっかり顔を見るのはこれが初めてかもしれない。どこにでもいそうな顔だと思ったが、それなりに整ってる。肌は少しかさついているだろうか。健康的とは言いがたい。


眠っている橘さんの唇に軽くキスすると乾いた感触がした。ぴくっと体が動いてゆっくり目が開く。慌てるところを見てやろうと待ち構えていたが、笑いがひっこんだ。光が差し込んで瞳の色がよくわかる。外側が茶色、内側は明るい緑が混じった綺麗な色合いだ。


俺がのぞき込んでいることに気づいて橘さんは驚いたように目を開き、ぱちぱちっと瞬きをした。期待通り焦ったらしい。だが俺はからかって遊ぶことはどうでもよくなっていた。


「あんたハーフなの?」

「え?…あ、ああ目ですか。日本人です。生まれつきです。」

「珍しいな」

「母方の遺伝で。妹はもっと綺麗ですよ。若草色で宝石みたいです。」


そう言うと橘さんは少し笑った。おじさんのうえにシスコンか。


「妹いるなら家政婦雇わなくてよくね?」

「結婚して遠くに住んでいるので。」

「家族ってそんなもん?嫌われてんじゃないの?」


そう聞くと橘さんはソファから立ち上がった。台所に向かいながら話を続ける。


「まだ子供も小さいですし。ずっといてもらうのはね…難しいです。コーヒー入れますけど飲みます?」


あからさまに話題を変えようとする様子に、少しいじわるな言葉を投げてみる。


「だから金で男買っちゃうんだ。」

「誤解されるようなこと言わないでください。家政婦です。」

「特別サービスして欲しかったらやるよ。一回目はお試しで無料にしとく。」

「…しなくていいです。」


最後はちょっと諦め気味の口調で言われた。台所でやかんに水を入れてコンロに乗せる橘さんの後ろ姿は困ったように肩が落ちていて面白かった。この人、からかうといいリアクションしてくれるタイプかもしれない。つっついて遊ぶのもありかな。


そして俺は掃除機を片付ることを思い出し、代わりにキスしたことでからかうのを忘れてしまった。俺にとってはそんなのはジョークでしかないし。眠っていた橘さんが気づいたのか気づかなかったのか、気づいてたとしたらどんな表情をしていたのかは背を向けていて見ることはできなかった。

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