クリスマスのあと
クリスマスが、終わった。
今年も彼女はできなかった。
でも、最高の想い出ができた。
幸せそうな恋人たちが歩くキラキラした街の中で、あの高原麻梨乃さんと見つめ合ったんだ。
彼女は綺麗だった。かわいかった。
もちろんこんなデブのぼくとあのひとが付き合うなんてことは天地がひっくり返ってもあり得ないけど。
そしてそれからあっという間に年明け。
食っちゃ寝でまたもっと太っちゃうよ。
まぁ、彼女なんか出来ようがないからいいんだけどね(笑)
愛車スーパーカブに乗って初日の出を見に行った。
山の上には野良猫さんがいっぱいいて、彼らと並んで地べたに座り、赤面したような色のお日さまが昇って来るのを黙って見つめた。
だんだん、じわじわと昇っていくのを見ていたら、声が出てしまった。
「綺麗だねぇ」
野良猫さんたちは何も言わずにじっと側にいたけど、ぼくはひとりで喋り続けた。
「神々しいねぇ……。神様ってほんとうにいるんじゃないかと思えて来るよ」
オレンジ色の猫さんがひとり、『なー』と同意するような声をくれた。
野良猫さんたちがいてくれて嬉しいけど、もうひとり、隣にいてくれたらな。
彼女さんがいてくれたら、この初日の出はもっと神々しく見えるんだろうな。
それが高原さんだったら最高だけど、そこまで贅沢は言わないよ。
そんな幸福が自分に訪れたら、きっと何かが狂っちゃう。
駐車場に戻り、スーパーカブに跨がると、ハンドルから伸びたミラーに自分の顔が映った。
鼻水を垂らしてた。
しかももっさいデブ。
いいんだ、初日の出を見たあとで気分がいいから。