最終兵器妹襲来
「・・・んぁ」
目が覚め、ベッドから体を起こす。
「目が覚めた、って感じじゃないな・・・」
先ほどまで見ていた夢、いや、居た夢のことを思い返す。
「とんでもない夢だったなぁ・・・」
これから俺はどうなるのだろうか。いや、まだただの夢だった可能性もなくはない。
でも多分夢じゃないんだろうなぁ・・・。
けがをした左腕を確認する。当然傷はついていないが、少ししびれるような感覚がある。
「そうだ、時間は・・・」
部屋の中はまだ暗くて、太陽が昇っていないことがうかがえる。
枕もとで充電されていたスマホを手に取り、時間を確認する。
午前三時・・・。
全然夜中じゃん・・・。
「せっかくこの時間に起きたんだし、執筆するか・・・」
もともとこの町に引っ越してきたのは小説を書くためだしね。
といっても俺自身が今小説みたいな出来事に巻き込まれてるんだけどな・・・
先ほどセッティングしたデスクトップパソコンの前に座る。
もともと書く題材というか、ある程度の構想は練ってたんだけど、どうにもファンタジーな感じになっちゃうな・・・。
もういっそ今起こってることをそのまま書くのも有りか・・・?
「うーん・・・」
ピンポーン
「ん?」
こんな時間に・・・?
びっくりして、パソコンのデスクトップに表示されている時間を確認する。
午前七時、気づいたら三時間もたってたのか、結局執筆はそんなに進まなかった。
それにしても朝七時から人の家に押し掛ける人間なんてなかなかいない。一体誰なんだろうか。
うーん・・・何も心当たりがない。
無理に挙げるのなら大家の和泉さんくらいだろうか、でも何か用事があったとしても何もこんな朝早くに来るだろうか。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
「うわぁっ」
頭を悩ませていると、チャイムを連打する音が・・・。
まじで何なんだ?
「はーい」
急いで玄関に向かい、扉を開けると、
「お兄ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「うごぁあぁ!」
俺に高速で突っ込んでくる人物が・・・
「なんでここにお前がいるんだよ・・・」
今俺に突っ込んできた人物は、上笠麻衣。俺の妹だ。
というか・・・この時間にどうやってここまで来たんだ?
実家から新幹線で少なくとも数時間、さらには山を越えなければいけないこの場所。新幹線やロープウェイの運行時間からしてもこの時間にここにたどり着くのはほぼ不可能だ。
「どうやってここに・・・?」
「え?ヘリ」
「は・・・?」
へり?
「ヘリってあのヘリコプター?」
「そうだけど?」
あほなのか?いや、こいつならやりかねない。
俺の妹、麻衣はめちゃくちゃ金を持っている。というのも、麻衣は漫画家として活動しており、それで稼いだ金を投資などで運用して何倍にも膨らませている。
天才なのだ・・・。
元は俺が小説を書いているのを見て自分もやるといろいろな創作活動を始めたのに今や俺とは比にならない人気を誇っている。
そんな麻衣なら、ヘリをチャーターすることなど造作もないだろう。
どこに停めたんだろう・・・。
「それより、私に何か言うことあるんじゃないの?」
「言うこと・・?」
「私に何も言わないで引っ越したこと!」
ああ・・・
「そういえば言ってなかったな」
「言ってなかったなじゃないよ!学校から帰ってきていつまでたってもお兄が帰ってこないからお母さんに聞いたら引っ越したって!・・・久しぶりにお母さんのご飯食べたよ・・・」
ああ・・・母さんの飯は何というか・・・アレだからな・・。
「というか、学校あったんだな」
昨日は土曜日のはずだが。
「私は私立だからね、土曜日も半日は授業があるんだよ。というかお兄、ここに引っ越して学校はどうするの?元の学校は通えないでしょ?」
「ああ、前の学校はやめてこっちの学校に転校することになってる。まあ、こっちでもそんなに学校に行かないかもしれないけど」
「えええー。お母さん許したんだ・・・」
「まぁな。母さん、俺が何しても反対しないからな・・・」
一応、上笠家には少し複雑な事情がある。まぁ、あまり思い出したくはないんだけど。
「じゃあ私もこっちに住むー!この部屋でお兄と暮らすー!」
「はあ?ダメに決まってるだろ?そもそもこの部屋じゃ狭すぎるだろ」
一人暮らしをする分には問題ないが、とても二人で生活できる広さではない。
「えぇぇぇぇ・・・じゃあ隣の部屋借りる」
「それは・・・何とも言えんが。母さんは許すのか?」
「お兄がよくて私がダメなわけないじゃん。最初から許可は取ってるよ」
母さん・・・そんなに子供に甘くていいのか・・?
まぁ一番自由にしている俺が言うことではないが。
「あのー・・・どうかしましたか?こんな朝早くから」
俺たちが騒いでいる声が、周りまで聞こえていたのだろう。となりの201号室から、和泉さんが出てくる。
「あ、すみません騒いでしまって・・・」
麻衣が頭を下げる。
「すみません。起こしちゃいました?」
「ダイジョブですよ、元から起きてましたので。で、どうかなさったんですか?そちらの方は・・・」
「あー、妹です。黙って引っ越したせいで押しかけてきちゃって・・・」
「妹さん、なるほど・・・妹さんは宗さんが引っ越したことを知らなかったと」
「そうなんですよ!何も言わずにいなくなっちゃって!」
「でも、なんでこの時間に?昨日はどこかに泊まられたとかですか?」
至極真っ当な疑問である。というかさっきも同じ流れしたよな。
「いえいえ、今日の朝ヘリできました」
「・・・・?」
頭の上にはてなを浮かべる和泉さん。
そりゃそうなるよね。麻衣がどんな人間かを知っている俺でさえ困惑するのだから。
「えーっと、宗さん・・・どういうことですか?」
俺に聞くのか・・・
まぁ気持ちは分かる。麻衣に説明を求めてもろくな回答は得られそうにない。
「多分、本当だと思います。こいつ、麻衣はそういうめちゃくちゃなことするような奴なので」
うまく説明できねぇ・・・
そういうやつだから、としか言いようがない。
「は、はぁ・・・こう言う時ってどんな反応すればいいんですかね・・・」
俺もわかんないです・・・
「というかお兄、この人は?」
「あ、あぁ。彼女は和泉寧々さん。この『和泉荘』の大家さんだよ」
「はい、大家の和泉寧々です。よろしくお願いします」
「大家、へぇ・・・。私は上笠麻衣。よろしく。ねぇ、寧々さんが大家なら隣の203号室が空いてるか分かる?」
「寧々でいいですよ。203号室なら空いてますけど、なんでですか?」
「私もここに住みたいの。もし空いてればって」
「本当ですか!?大歓迎です!いやぁ、一気に賑やかになりますねぇ」
まじかよ・・・
まぁ別になんら不利益があるわけではないからいいんだけども・・・
「でも、手続きとかがあるので急に、とはいかないですけど。いいですか?」
「もちろん!ありがとう寧々」
「いえいえ、こちらこそ、これからよろしくお願いしますね!麻衣さん!」
なんかめちゃくちゃ距離縮まってないか・・・?
あんなわけ分からない話題から生まれる絆ってあるんだ・・・。
「そうだ、宗さん。昨日は神社へは行けましたか?」
「あー、行けなかったんだ。潮の満ち引きの影響でさ。今日行こうと思ってる」
そのせいで昨日は散々な目にあったからな・・・。
「ねぇ、神社に行くって?」
「ああ、ここに住む人は神社でちょっとした儀式を受けなくちゃいけないみたいでな」
それにも理由がある、というかその理由を身をもって体験したわけだが、まぁ知らぬが仏、言う必要もないだろう。
「へぇ、じゃあ私も行かなくちゃじゃない?ここに住むわけだし」
まぁそうなるか。すぐに部屋の契約ができるわけではないが、すぐに引っ越してくるならば、今日のうちにまとめてやってしまってもいいだろう。
「そうだな、じゃあ二人で行くか。つっても、昼までは島に渡れないからまだ時間はあるけど」
「あのー、もしよかったら何ですけど、私もついて行って良いですか?儀式がどんなものか見てみたくて」
「もちろんいいけど、寧々は儀式を受けたことあるんじゃないの?」
「そうですけど、儀式を受けたのは記憶もないほど小さな頃だったので覚えてないんですよね」
「なるほどね。でも、さっきお兄がいった通り、昼まではまだ時間があるけど・・・それまで何する?」
「俺はまぁ、やることがないわけじゃないから部屋で時間を潰せるけど」
実際さっきまで執筆してたわけだしな。
まぁ、そんなに進まなかったけど。
「もしよかったら、町を散策しませんか?私が案内しますよ」
なるほど、散策か、結局昨日は疲れてて町を見て回る余裕はなかったからいいかもしれない。小説を書くにしても舞台のイメージが固まっている方がいいだろう。
「良いね!私あんまりこの町について調べてないから、観光地として有名なことくらいしか知らないんだよね」
俺が返事をするよりも先に、麻衣が好感を示す。
「ふふふ、夢見町にはたくさんの魅力が詰まってますよ」
ニヤリと口角を上げる和泉さん。
「それは楽しみだな。俺も昨日は疲れてて散策する余裕がなかったからな」
「色々ありますよぉ〜。神社とか商店街の他にも足湯とかスカイツリーとか」
なんで嘘つくの・・・?
それも100パーセントばれるやつ。
「そっか〜やっぱり観光地なだけあって色々あるんだね」
「突っ込んでくださいよ〜」
華麗にスルーされた和泉さんが声を上げる。
「じゃあ準備するか」
俺もなんて反応するか悩み、結局スルーを選択。
ごめん、和泉さん・・・