夢見る少女はお化けが怖い
「・・・・・」
「・・・ーぃ」
なんだろう
「・・・ーい」
誰かが俺を呼んでるような
「・・おーい」
「・・・はっ!」
ぼんやりとしていた意識が一気に覚醒する。
「あ、起きたのだ」
なんだこの状況。
仰向きに寝転がる俺の上に誰かがまたがっている。
「大丈夫かぁー?」
俺の頬をぺちぺちとたたきながら首をかしげる美少女。紅い瞳に透き通るような銀髪、そしてその髪の上にひょっこりと見える狐の耳・・・誰・・?
というかそもそもなんで俺こうなってるんだっけ・・・
「・・・いってぇぇぇ!」
思い出したように左腕を激痛が駆け抜け、思わず声を上げる。
「うわぁ!急に大きい声を出すでない!」
慌てて俺の体から飛び退く謎の少女。
「君はいったい・・・」
何から考えればいいのかわからないが、とりあえず目の前の問題から解決することにした。
「吾輩はユメミである。この世界のいわば管理人みたいなものだな」
管理人・・・ってことは実質俺がこんな目に合ってる元凶ってことか?
「まてまて!そんな顔で吾輩を見るな!この状況は吾輩も予想外なのだ。まさか初日から入ってきてしまう上にあやつに出くわしてしまうとは思わなんだ」
説明が全然足りてないよ・・・
「えーっと・・・ユメミちゃん、だっけ?・・・・状況が全然呑み込めないんだけど?」
「わ、吾輩をちゃん付けとな!?・・・・ま、まぁよい。説明はあとでするから、今はとりあえずここを離れねばならんのだ!」
そうだ、さっきまで俺を追っていた化け物は・・・?
周りを見渡すと、少し離れたところにその姿を確認できた。ただ、こちらを気にする様子はなく、
「だれかと戦ってる?」
化け物の周りを飛び回る影があった。
「今は詩織が戦っておる。あの程度であれば負けることはないだろうが、こちらにやって来ないとも限らぬからやはり離れるのがよかろう。ついて来るがいい」
確かに遠巻きに見ているだけで激しい戦いであることがわかる。なによりその強さは身をもって知っている。
戦っているという詩織?さんには申し訳ないが、今の俺がいても足手まといにしかならないだろう。
「わかった」
おとなしくユメミちゃんについていく。
浮いてるなぁ・・・
ふわふわと浮きながら移動するユメミちゃん・・・
やっぱり夢なのかなぁ・・・。それにしてはリアルすぎる気がするけど。
「おぬし、引っ越してきたばかりなんだったな。篝火神社については知っておるか?」
篝火神社は今日、俺が夕方に行こうとした神社だ。
「名前を知っているくらいだな」
結局、行けなかったしな。
「夢見の地には、昔からある言い伝えがあってな、『この地に住む者はみな悪夢を見続ける』というものなのだが、それはただの言い伝えではなく、事実なのだ。昔、この空間に迷い込んだものが、毎晩のように化け物に襲われるということが『悪夢』とされたのだ。それがいつまでも続くわけだから、気が触れてしまうものも多く出てしまってな、何とかしようと、人々は篝火神社を建立し、様々な儀式を行ったわけだ。結果的にうまくいきその悪夢が人々を襲うことはなくなり、今ではもう言い伝えを知っている者も少ないがな。」
確かに、あんな化け物に襲われ続けるのは悪夢以外の何物でもないだろう。ただ、現在進行形でその『悪夢』に巻き込まれているのはいったい・・・
「だが実際、完璧にその悪夢を封じ込めれたわけではないのだ、人々が夢だと言った、今吾輩たちがいるこの場所は実際には夢ではなくてだな、簡単に言うと現世の裏側に存在する、本来だったら干渉し得ない場所なのだ。ただ、夢見の地は現世とこの空間との境界が薄い故に、まれに夢を通じてこの世界に迷い込んでしまうものがいるのだ。それを抑えるための神社ではあるんだが、なにぶんこの世界に入る条件がはっきりとわかっておるわけではないから完壁とはいかなくてな」
「ふむふむ」
「神社で受ける儀式については知っておるか?」
「いや、夢見町に住むことになった人が受けなければいけないということくらいしか・・・」
「その儀式を行う必要があるのはこの世界を完璧に抑え込めていないからなのだ。万が一この地に迷い込んでも安全な場所にのみ隔絶し、この地にいる間の記憶を残さぬようにしているのだ。まぁほかにも目的はあるのだが、基本的にはそんなものだ」
「じゃあ、俺の場合儀式より前にこの場所に来てしまったからこんな目にあっていると」
「まぁそうなるな。それにしても運がないな。いくら儀式をしてなくても奴らに遭遇する確率は相当低いぞ?」
「確率が低い?言い伝えの人々はかなりの頻度で遭遇していたように聞こえたけど」
「そうだな、篝火神社ができる前には奴らははるかに多く存在した。代々篝火神社に生まれる特別な力を持つ巫女がその数を減らしてきたのだ。今も詩織が戦っておろう」
つまるところ、今の状況は様々な不運の上に成り立っているということか・・・。
まぁかろうじて死ななかったことは幸運といえるのだろうか。
「あいつらはいったい何者なんだ?」
「奴らは妖怪のようなものだ。さっきも言ったがこの地は現世ではない。故に現世では起こりえないどんな現象も起こりうるしどんな生命も存在しうる。まぁそれは今後この地を見て回ればよくわかるであろうが、吾輩たちにもよく分かってないのだ。ただ、夢見の地とここは境界が薄いゆえに、奴らが現世への境界を越えんとも言えないのだ。そういう意味でも篝火神社とその巫女は重要な存在なのだ」
「すごいけど、よくわかんないな・・・」
ユメミちゃんも完璧には把握していないみたいだしなぁ、さっき管理人って言ってたけど・・・。
「まぁ無理もない。明日神社に来るのだろう?そこで説明したほうが状況も含め理解しやすかろう」
「どうなんだろう・・・。正直話しについていけてないんだけど・・・」
腕も痛いし
「ところで・・・」
さっきまで真剣な顔で偉そうに語っていたユメミちゃんは、急に青い顔で振り返る。
「吾輩の前を歩いてくれんかの?」
「え、でも俺どこに向かえばいいのかわかんないよ?」
「お、お願いだ・・・。こんな暗い道・・・」
「お化けとか出るのかな?」
さっきの話の感じだとそういうのが出てもおかしくはない。
「お、おおおおお化けとか言うな!」
「怖いの?」
「こ、怖くなんか・・・・こわくなんかぁ・・」
今にも泣きだしそうな顔でふるえだすユメミちゃん。
かわいい。なんだこの生き物・・・。思わず抱きしめたくなるような、庇護欲を駆られる何かを感じる。
「っていうかユメミちゃんも浮いてるし、狐みたいな耳生えてるし実質お化けみたいなものじゃ・・・」
「あんなものといっしょにするなぁぁ!」
ぽかぽかと頭を殴られる。
本人はこれだけ否定しているが、実際はどういう存在なのだろうか。
「分かったよ」
先を行っていたユメミちゃんと、前後を変わり、再び歩き出す。
しばらく歩くと、目の前に長い階段が現れた。階段の先には鳥居が見え、その先が神社であることを匂わせていた。
「・・・この階段を登ったところにある神社まで行けばもう安全だ。あと少しの辛抱だぞ」
あと少しの辛抱、ねぇ。
ずっとびくびくしていた子に言われてもなぁ。
「それにしても突然開けた場所に出たな・・・。近づくまで全然階段に気づかなかった・・」
「この辺りは木が多くて森が濃いからなぁ。よくあれから逃げ切ったものよ」
「ほんとだよ・・・」
まぁ最終的には思いっきりぶん殴られたんですけどね。
「あら、あんたたちまだこんな所にいたのね。てっきりもう神社についてるかと思ったわ」
「「うわぁっ!」」
突然後ろから誰かに声を掛けられ俺とユメミちゃんは一斉に悲鳴を上げた。
「びっくりした・・・って君は・・」
後ろを振り返った所にいたのは夕方に出会った少女だった。とはいえその服は血まみれで、夕方に会った時とは似ても似つかないが・・。
「でも無事にここまでたどり着けたようでよかったわ。こちらの落ち度でもあったしね。けがは大丈夫かしら?」
「あぁ、まぁ。」
果たしてこれは無事なのだろうか・・・。
けがを負った左腕はいまだにとんでもない激痛が走っているし・・・。
まぁユメミちゃんと会ってからここまでは無事といえば無事か。
「それより君は大丈夫なの・・・?血まみれだけど・・・」
「えぇ、これ返り血だもの」
かっこよ・・・。
人生で一度は言ってみたいよそのセリフ。
「ユメミも、寝てないでおきなさい」
「むきゅぅ~~」
ユメミちゃんは後ろから話しかけられたショックで目を回していた。
やっぱり怖がりじゃないか・・・。
「まぁ立ち話もなんだし、神社へ行きましょう。そこでいろいろ説明するわ」
「わかった」
とりあえず話を聞かないことには始まらない。
「う、うぅ~~ん・・・はっ!」
ユメミちゃんも目を覚まし、ふらふらしながらも体を起こす。
「大丈夫か?」
「び、びびってないからな」
そんなこと聞いてないよ・・・。
自分で墓穴掘ってますよ・・・。
「なんだその目は!子供を見るような目で見るな!こう見えて吾輩おぬしより数百年長く生きておるのだからな!」
「そっかぁ、そういうこともあるよねぇ」
夢の中だしもうどんな設定が出てきても驚かないわ・・・。
それに数百年生きてようが実際かわいいからなぁ・・・。
思わずなでなでしてしまう・・。
「あっ!こら・・撫でるでないーー!」
「あんたたち仲良いわね・・・」