9話 『私の戦い』
「ちょっと長く留まりすぎちゃったね……」
「そんな事言ってる暇ないよ! スライムならさっきの戦いで要領を掴んだし、大丈夫!」
正直言ってこれは迂闊だった。モンスターを倒した場所で休むというのは、即ちモンスターがやってくる可能性が高い場所だ。
焔ちゃんの言う通り、今更何を考えても意味もないし暇もないのだが、これだけは言える。次からは安全な場所を探してから休んだ方が良いと。
とまぁ改善点を考え、ひとまずこれで少なくとも頭の中を整理したのだから、今はとにかく目の前のスライムを、
「雫! 前! 酸に呑まれちゃう!」
「えっ!?」
気持ちを切り替え、戦おうと思った矢先、焔ちゃんの叫ぶ声に、思わず私は驚嘆の声を上げてしまった。
ただ、驚きながらも咄嗟に構えた銃を撃っていたらしく、運が良いのか銃弾はスライムの石を貫き、一撃で倒していた。
けれど、初めて銃を使った私は反動なんかに耐え切れずに尻もちをついてしまっている。
その上、幸運の代償と思うべきなのか、座り込む私に粘液が降り注ぎ、酸に呑まれずに済んだものの、結果的には粘液塗れになってしまった。
「あはははっ! いやぁ、あんなに逃げてた雫が結局粘液塗れなんて、ボーっとしてるからだよ!」
「うっ、ぐぬぬぅ……」
涙を流すくらいお腹を抱えて笑う焔ちゃんだけど、私はそれに対して何も言い返すことが出来ない。
でもなんていうか、そう、悔しいからせめて笑う焔ちゃんを睨んでおくくらいはしておくことくらいはしようと思う。
「焔ちゃん! いい加減もう笑わなくていいじゃん! ってか、それよりも酸とかそういうのはもっと早く言ってよね!」
「ごめんごめん。言おうと思ったらこうしてモンスターがやってきちゃったからさ。まぁもう分かってると思うけど、あのスライム、死ぬまでは中身の粘液が微弱の酸なんだよね」
私が怒ったからなのかもう収まったのかは分からないけど、酸の説明をした後、焔ちゃんは残りのスライムを見据えるように臨戦態勢をとっていた。
こうなってくると、私もこれ以上は蒸し返さずに集中した方が良いだろう。
そうなってくると、私がやるべきことはまず焔ちゃんを止めることだ。
スライムが微弱とはいえ酸を持っているのなら、短剣では危険だし、近くで戦ってさっきみたいに飛びついてこられ、顔にでも張り付かれたらどうしようもない。
つまり遠距離で戦える私がやるべき相手なのだ。
それに、そもそもこれは私がこれから先の戦いに慣れる為でもあるし、さっき今度は私が戦うと言った以上、最初からここは譲るつもりはない。
「焔ちゃんは手を出さないでね。私が戦うから!」
「えー。しょうがないなぁ。でも、危なくなったら助けるからね!」
「うん! それでお願い!」
焔ちゃんに釘を刺し、私はスライムへと銃を構える。
仲間がやられたことで警戒しているのか、それともそういった意識なんかはなく、単純に攻撃してこないのかは分からないけれど、止まってくれているのなら好都合だ。
「狙いを定めてーっと。わっ! なんか飛ばしてきた!」
さっきが不意の一発だったとはいえ、反動で尻もちをついてしまった。
だからこそ、今回は耐える為にしっかりと構えたものの、お互いに動かない事に痺れを切らしたのか、スライムは自身の体の一部を飛ばしてきた。
「あ、ごめん。そう言えばそのスライム酸を飛ばしたり、針みたいにしてくるんだよね。当たったら結構ヤバそうだから気を付けてね!」
「だから、そういうのは早く言ってよ!」
「いやー、あはは。……ごめんなさい」
毎回教えてくれるのが遅い事に文句を言いたいけど、今回は素直に謝ったからこれ以上の追及はしないでいてあげることにした。
「さて、どう対処しようかなぁ」
当たったところが煙りをあげてる以上、強めの酸で間違いないし直撃だけは避けた方が良いだろうし、対策を考えると言っても、単純に避けるか身を隠すくらいしかない。
身を隠すのは焔ちゃんに被害が及ぶ可能性がある以上、選べないし、残された選択肢は一つだけ。
「ちょ、ちょっと待って! ストップ! ストーップ!」
酸を避けつつ私も銃を撃っているのだが、スライムの核を撃ち抜く事が出来ず、お互いに泥沼の戦いになっている最中、ずっと攻撃してこなかったもう一匹のスライムが体当たりしてきたのだ。
当然不意を突かれた私が避けられる訳もなく、スライムの見た目以上の威力によって吹き飛んでしまった。
弾力によって威力が増しているのかは分からないけど、少なくとも張り付かれるよりはぶつかられた方がマシではある。
ただ、問題はここからは2体と同時に戦わないといけない事だ。
「痛ったいなぁ。もう!」
立ち上がる私へと追撃を掛けようとしてくるが、2体とも馬鹿正直に真っ直ぐ迫ってきていたのは幸い。
幾ら2体が相手とはいえ、今まで撃ってきたお陰もあって核自体が止まっているのなら当てられる。
仕留めるなら今以上の好機はないだろう。
――無論外したらまずい事になるが、結果的に私が外すことはなかった。
金属の衝撃音が2度響き渡り、放たれた弾丸は寸分の狂いなくスライムの核を貫く。
核を撃ち抜かれたスライムはその場に溶けるようにいなくなり、私へは経験値とアイテムが舞い込んできた。
「ふぅ。勝てて良かったぁ」
こうして私の初めての戦いは終わった。
上手く戦えたわけでもなく、どちらかといえば泥試合のような戦いだったけど、それでも初めてにしては上出来だったと思う。
でも、そんなことは正直どうだっていい。今はなによりモンスターと戦えたという事実と、これで焔ちゃんに守ってもらわなくて済むという事がなによりも嬉しいのだ。
次の話から2日か3日に1話更新となりますのでご了承くださいませ。